大企業向けkintoneコミュニティの歴代会長らが明かす「現場改革のリアル」 業務×AIの成果を導けるDX組織のつくり方星野リゾート×ジヤトコに学ぶDX戦略と実践法

「理解されるまでに6年かかった」──。星野リゾートとジヤトコが取り組んだDX推進のリアルと内製化の勘所について、大企業向けkintoneコミュニティの歴代会長らが明かした。

PR/ITmedia
» 2026年01月09日 10時00分 公開
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 多くの企業が、DX推進の一環としてノーコードツールによるシステム内製化に取り組んでいる。ノーコード開発ツール「kintone」(キントーン)を提供するサイボウズは、大企業のDX推進を担うキーパーソンが集まるコミュニティ「kintone Enterprise Circle」(kintone EPC)を運営し、DX推進の悩みやkintone活用の成功例などを共有し合う場を設けて各社の取り組みを支えている。

 kintone EPCで積極的に活動しているのが星野リゾートとジヤトコだ。本稿では、サイボウズの年次イベント「Cybozu Days 2025」で行われたパネルディスカッションを基に、両社の取り組みとkintone EPCの活動を紹介する。

「全従業員がIT活用を」 星野代表がトップダウンで推進する生成AI×ノーコード戦略

 kintone EPCは、kintoneユーザー企業が気軽に交流したり情報共有したりするためのユーザーコミュニティであり、メンバーの中から会長と副会長が毎年選出される。

 初代副会長を務めた星野リゾートの久本英司氏は、同社がkintoneを導入した背景として全社を挙げた経営戦略があると説明する。

 「当社は『世界に通用するホテル運営会社へ』というビジョンの下、5つの経営戦略を掲げています。その一つである『サービスチーム』は、フロントや客室、飲食サービスといった複数の業務をスタッフ一人一人が担うことで現場スタッフが経営判断と顧客価値創造を実践できる体制を目指しています」

 この戦略の鍵が、同社が掲げる「全社員IT人材化」だ。情報システム部門に限らず、現場スタッフを含む全従業員がITを活用してイノベーションを生み出す組織づくりに注力し、市民開発を推進している。

星野リゾートの久本英司氏(情報システムグループ グループディレクター) 星野リゾートの久本英司氏(情報システムグループ グループディレクター)

 kintoneによるノーコードでの業務アプリ開発をはじめ、生成AI「Gemini」の活用、BIツール「Tableau」によるデータ分析など、現場が主体となるIT活用の基盤整備に取り組んでいる。特に力を入れているのが生成AIの活用だ。

 「生成AIは、全従業員が身に付けるべきITスキルだと考えています。2024年に開催されたGoogle主催のイベントに代表の星野(佳路)が登壇し、生成AI活用の方針をトップダウンで示しました。その結果、サービスチームをはじめ各現場にAI活用が広がり、効果が出始めています」

 2025年10月には、DX戦略の柱として次世代ITプラットフォーム構想「Hoshino Resorts Operation Platform 4」(HOP4)を発表。kintoneによるノーコード開発と生成AIの活用が重要な役割を担っているという。

星野リゾートが目指すHOP4の構想 星野リゾートが目指すHOP4の構想(出典:久本氏の講演資料)《クリックで拡大》

「データの主権を取り戻す」 ジヤトコが内製化にかじを切った理由

 kintone EPCの3代目会長を務めたジヤトコの岩男智明氏は、社内に「DX実行グループ」を設立し、DX施策をけん引する中心的な役割を担っている。組織名に込めた思いについて次のように語る。

 「DX部門には『推進』という名称が使われることが多いのですが、私たちは“本気で実行する姿勢”を示すため、『実行グループ』という名称にしました」

 DX実行グループは、DXの基盤整備を担う「DX基盤グループ」、DXを社内に浸透させる「DX広報グループ」、全社向けシステムを開発する「プロ開発グループ」で構成されている。DX基盤グループは、データ活用基盤やAI基盤と並んで「ノーコードアプリ開発基盤」を重視しており、そこにkintoneを採用した。

右がジヤトコの岩男智明氏(デジタルソリューション部 主担) 右がジヤトコの岩男智明氏(デジタルソリューション部 主担)

 現場担当者が業務アプリを効率良く開発できる環境を整えるとともに、プロ開発グループも業務システムの内製化にkintoneを利用している。ノーコードアプリ開発基盤をkintoneに集約する理由について、岩男氏は「データの主権を取り戻すためです」と強調する。

 「外部ベンダーへのアウトソースを続けた結果、システムはブラックボックス化、サイロ化し、競争力の源泉となるデータの活用が阻まれていました。内製化によってデータの主導権を取り戻し、積極的なデータ活用を可能にすることが最大の狙いです」

ジヤトコのノーコードアプリ開発基盤(出典:岩男氏の講演資料) ジヤトコのノーコードアプリ開発基盤(出典:岩男氏の講演資料)《クリックで拡大》

 同社は、蓄積したデータを生成AIで活用する構想を掲げる。従業員が多くの時間を割いている業務をAIに代替させ、より創造的な業務に集中できる環境を実現することが目標だ。

 これらの施策は成果を生み始めており、市民開発によって年間2億円以上に相当する工数を削減した。プロ開発グループも設計文書管理システムをkintoneで内製化したことで、構築費、ライセンス費、保守費の大幅な削減を実現した。

 「kintoneは、作成した業務アプリに生成AI機能を簡単に組み込める点が大きな魅力です。内製アプリにAI機能を実装し、業務の中に生成AIをどんどん組み込んでいきたいと考えています」と岩男氏は意欲を示す。

ジヤトコでは、AIを活用してkintoneによる業務アプリの開発を始めている。その先に、さらなるAI活用を見据えている(出典:岩男氏の講演資料) ジヤトコでは、AIを活用してkintoneによる業務アプリの開発を始めている。その先に、さらなるAI活用を見据えている(出典:岩男氏の講演資料)《クリックで拡大》

戦略は華やかでも、現場は……? kintone EPC歴代会長が明かす市民開発の課題

 2025年のkintone EPC会長を務めるのは、星野リゾートで内製開発の中心メンバーとして活躍する小竹潤子氏だ。小竹氏は、久本氏と岩男氏が語ったDX戦略やkintone活用について両氏に現場の視点から質問を投げかける。

星野リゾートの小竹潤子氏(情報システムグループ ITサービスマネジメントユニット) 星野リゾートの小竹潤子氏(情報システムグループ ITサービスマネジメントユニット)

――「戦略の話だけを聞くと、とても華やかで魅力的に感じます。実際のところ、現場の反応はどうでしょうか」(小竹氏)

 久本氏は次のように答える。

 「私たちのビジョンや戦略が現場にすぐ受け入れられたわけではありません。kintoneの市民開発も、当初はハードルが高くて思うように浸透しませんでした。一方で生成AIの活用は順調に広がっており、その流れに乗って市民開発のハードルも下がっていくと期待しています」

 この回答について、岩男氏は意外だという表情を見せる。

 「星野リゾートで市民開発が進まなかったというのは驚きです。当社は真逆ですね。市民開発の環境を整えたことで一気に加速し、業務アプリをkintoneで自作するのが当たり前になりました。逆に生成AIの活用は十分に広がっていないのが現状です」

 両社の対照的な状況について、小竹氏は「星野リゾートはサービス業で、生成AIのようにコミュニケーションを伴う仕組みの方が現場になじみやすいのかもしれません。ジヤトコはモノづくり企業で、現場の方が自ら手を動かしてアプリを作ることに楽しさを感じる場面が多いのではないでしょうか」と考察する。

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――「技術が進歩するにつれ、人間が担う業務のレベルも上がっていると感じています。お二人はその点で難しさを感じることはありますか」(小竹氏)

 「簡単な仕事は生成AIに任せられるようになり、人間は戦略を考えたり指示を出したりといった高度な業務に集中する必要が生まれました。甘えられなくなった面もありますが、余計なタスクに煩わされず本来の業務に注力できれば、仕事の精度やスピードは確実に向上させられるはずです」(岩男氏)

 「これまで評価されていた“アプリ開発ができる人材”という価値は、AIが開発を担えるようになることで変化していきます。今後は、課題発見や要件定義など開発前の上流工程で、より多くの成果が求められるようになるでしょう。そうなると、1人が担う仕事の種類や量は確実に増えていくと思います」(久本氏)

 岩男氏が「業務の質的転換」を語り、久本氏が「人材に求められる力の変化」を指摘したことで、生成AI時代における人間の役割が多面的に浮かび上がった。

投資対効果より「成長ストーリー」を 経営層との合意形成のコツ

――「最近は技術も業務も変化が非常に速いですよね。このスピードに追い付くには、どうすればよいと思いますか」(小竹氏)

 岩男氏は、DX実行グループの取り組みを例に挙げる。

 「有望な新技術については、実務に導入できるかどうかはひとまず置いて、積極的に試してみることを推奨しています」

 こうした姿勢により、組織全体で先端技術を取り込む意識を高めることが重要だと強調する。久本氏も同調し、星野リゾートでも業務時間の5%を新技術の学習に充てる「5%ルール」を導入して組織全体でのキャッチアップを奨励しているという。

 「2024年までは『業務時間の5%までは学習に割いてもよい』というルールでしたが、業務が忙しくて学習に取り組みたくても取り組めない人もいました。2026年からは『全員が最低でも5%は学習に時間を割く』というルールに変更する予定です」(久本氏)

――「社内で稟議(りんぎ)や合意をどのように取っていますか。やりたいことがあっても、なかなか承認を得られません」(小竹氏)

 両氏は自身の経験を基に、社内で理解を得るためには粘り強い説得が欠かせないと語る。久本氏は、従来のIT投資の説明方法と現在の状況の違いを示しつつ、戦略的なアプローチの重要性を強調する。

 「かつてはIT投資を費用対効果で説明すれば経営層を説得できました。しかし現在のITは動向が素早く変化し、将来何が正解か予測できないため、同じ方法は通用しません。会社の中長期的な成長戦略と整合させてIT戦略のストーリーを描き、経営層と共有することが大切です。個々の施策の投資対効果ではなく、『施策の優先順位を一緒に考える』という方向に持っていくのです。私の場合、5年間同じことを伝え続け、6年目にようやく理解が得られました」

 岩男氏は自社での経験を交えつつ、熱意を持った対話の重要性を補足する。

 「私たちも社内の理解を得るのに6年ほどかかりました。粘り強く社内営業を続け、さまざまなステークホルダーと膝を突き合わせて『会社を良くするために必要なことなんだ』と熱意を伝えることで、徐々に理解してもらいました。最終的にものをいうのは、やはり人の“思い”や“パッション”だと思います」

 両氏の話から見えてくるのは、IT戦略を形にするためには理屈ではなく未来を見据えたビジョンと人の熱意が伴った粘り強い説得が不可欠だということだ。今回の対話を通じて、DXの成功には技術の導入だけでなく現場との対話や組織全体の巻き込み、長期的な視点に基づく戦略の描き方が重要であることが改めて示された。これらのエピソードは、DX推進に取り組む現場にとって示唆に富む指針となるだろう。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2026年1月29日