VMwareのライセンス変更を機に、NutanixやLinux KVMなど現実的な移行先が出そろった。日本仮想化技術の宮原氏は、単なる乗り換えではなく、AI活用やコンテナ化を見据えた「システムの棚卸し」を提唱する。次世代仮想化基盤を自社でどう選ぶべきか、その方法を示す。
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AI活用とレガシーITのモダナイゼーションという課題に対し、企業のIT部門は今、どのような「次世代仮想化基盤」を描くべきか。
日本仮想化技術CEO(最高経営責任者)の宮原徹氏は、ITインフラが直面する「VMware」継続か否かという転換期に、単なるコスト削減にとどまらない戦略的なインフラ刷新の必要性を説く。ライセンス体系の変化を機に、市場に「現実的な移行先」の選択肢が出そろい、それぞれの技術的特性や活用シーンも整理されてきた。
同氏は長年のコンサルティング経験を基に、システムの重要度やAI活用のニーズに応じた最適解の見極め方と、インフラをビジネスの武器に変えるための具体策を提示した。
本稿はITmediaが主催したイベント「Enterprise IT Summit 2026 冬」(2026年2月16〜19日)で日本仮想化技術の宮原 徹氏(代表取締役社長 兼 CEO)が「脱VMwareから始める次世代仮想化基盤構築のポイント」といったテーマで講演した内容を編集部で再構成したものだ。
宮原氏は、かつて日本オラクルでPCサーバ向けデータベースのマーケティングに携わり、Linux版オラクル製品の市場投入に従事した経歴を持つ。2006年に日本仮想化技術を設立して以来、20年間にわたり企業のITインフラ仮想化やクラウド技術の活用支援をしている。
最初に宮原氏は、「VMwareのライセンス変更が、ここ数年、特にIT部門、インフラ周りのエンジニアを悩ませている」と現状を分析し、仮想化基盤の更新を検討する契機になっていると語る。
「かつては企業の規模を問わず、仮想化基盤のスタンダードとしてVMwareが利用されていた。しかし現在は、VMwareを全廃するという話が増えてきた」と話す。
代替案の模索が本格化している背景には、VMwareのライセンス体系が「永続版」から「サブスクリプション版」へ移行し、製品ラインアップが大幅に統合されたことがある。以前は必要な機能だけを選んで購入できたが、現在はストレージ仮想化の「vSAN」やネットワーク仮想化の「NSX」といった高度な機能を含む上位パッケージへの統合が基本となった。
「特に中規模のユーザー企業への影響は大きく、見積もりをとっても、『こんな値上がりするのか』と驚く企業が多い」と宮原氏は話す。
脱VMwareを本気で検討する企業が増えつつあるが、その際の最大の壁は「深刻なインフラエンジニアの不足」と宮原氏は指摘する。
「過去10年ほどの間に急速に進んだクラウドシフトにより、エンジニアがスキルチェンジしてしまった。そのため、ハードウェアやデータセンター、オンプレミスの仮想化基盤を設計、構築できる人材が、ユーザー企業だけでなく、SIer側でも枯渇している。脱VMwareについて考え、実行できるエンジニアがいないのは大きな問題だ」
人材不足はノウハウの不足にも直結する。移行に当たっては成功事例だけでなく、「こういうところがVMwareと違うから気を付けなければいけない」といった技術的なバッドノウハウの蓄積も不足している。「誰が『ファーストペンギン』としてリスクを取るのかという膠着(こうちゃく)状態も見られるほど」と宮原氏は話す。
次に宮原氏は、脱VMwareの具体的な移行先について言及した。
VMwareから移行する選択肢として特に多く挙げられるのが「Nutanix」だという。だが、多くのユーザーからは「見積もりを取ると思ったより高い」という声が上がっていると宮原氏は話す。VMwareよりはコストを抑えられるものの、コストパフォーマンスの面では必ずしも理想的な解決策とはなりにくい。
一方で朗報もある。Linuxベースの仮想化環境である「Linux KVM」のソリューションが充実してきている。中規模ユーザーをはじめとするコスト重視の企業にとって、次世代ITインフラの選択肢として急浮上しているとのことだ。特に「Proxmox」や、Web UIで仮想マシンを管理できる「AlmaLinux」と「Cockpit」の組み合わせなどは、初期費用を抑えた小規模導入や検証用として注目を集めている。
さらに、Windows環境に特化したユーザーの間では、親和性の高い「Hyper-V」への回帰も見られるという。
宮原氏は、「Linux KVMは、PoCや小規模の導入検討を始めているユーザーが増えており、重要度が比較的低いシステムや、開発環境、あるいは例えばローカルAIの実行基盤など特定の用途で採用が始まっている」と説明する。
ただし、Linux KVMソリューションはストレージとネットワークにおける開発ノウハウの不足が懸念材料だと宮原氏は指摘する。
「VMwareが提供してきた分散ネットワークや高度なストレージ連携機能に比べると、Linux KVMベースの環境はまだ見劣りする部分が多い。特に汎用(はんよう)サーバで機能する分散ストレージソフトウェアのCeph(セフ)は、うまく動いている時は問題ないが、性能劣化や障害発生時のリカバリーには高度なノウハウが必要で、その専門家が圧倒的に少ない」
そのため、Linux KVMへの移行を検討する際は、ノード障害を想定した切り戻しやバックアップ、リストアといったリカバリープランを事前に検証しておくことが不可欠と説明する。
移行作業は、各ベンダーが提供する移行ツールや、バックアップエージェントを活用したVtoV(Virtual to Virtual)の手法により、それほど難易度は高くないという。
ただし、VMware固有のドライバーへの変更や、ハイパーバイザー側での細かなパラメーター設定が必要になる場合がある。宮原氏は実務的なアドバイスとして、「移行には多大な時間がかかることを念頭に置き、想定されるストレージのコピー時間の2倍以上の停止時間を確保することを目安に、慎重な計画を立てるべき」と話す。
一方で、脱VMwareの文脈で語られがちな「クラウドへの完全移行」については、宮原氏は必ずしも現実的な解ではないという見方を示す。
特に、長年塩漬けにされてきたレガシーシステムをIaaSに移行しても、クラウドへの移行と運用コストに見合う費用対効果は得られない。むしろ、償却の終わったハードウェアを使い、「電気代と場所代だけ」で動かし続ける方が、トータルで低コストな場合が多い。そのため、オンプレミスのVMwareによるレガシーシステムは、その企業が次世代のシステム全面刷新に踏み切るまでは、そのまま使い続けるケースも多い。
さらに、オンプレミスへの回帰を促す新たな要因として、AIの急速な進化が挙げられる。IT部門の業務でAI活用の優先順位が急浮上しているが、企業が持つ機密データをRAG(Retrieval-Augmented Generation)などで活用したいというニーズに対し、セキュリティの懸念から、データをクラウドに出せないというジレンマに直面している。その対策として、オンプレミスにおけるAI導入を模索する企業が増えている。
宮原氏は、「クラウド持っていくのが厳しいレベルの社内文書ほど、実はAIで活用したいというニーズがあり、開発現場では二律背反が起きている。これが『ローカルAI』を動かすためのオンプレミスへの再投資を加速させている」と指摘する。
その結果、レガシーシステムの維持とAIなどの先端技術の導入という、新旧両方の側面から、オンプレミスの重要性が再認識されている。
次世代仮想化基盤の構築において、宮原氏が重要視しているのは、単なるハイパーバイザーの乗り換えではなく、「システム開発のアプローチそのものをトータルで見直す」ことだ。
「従来の仮想マシン(VM)は、物理サーバを仮想化したことで可搬性は向上したが、OSやミドルウェアを丸ごと抱え込むため、依然として『重い』ことが問題だと思う。より軽量でアジリティ(俊敏性)の高い、コンテナ環境へ移行させる『VtoC』(Virtual to Container)を検討すべきだ」
コンテナ化を軸に据えることで、DevOpsやSRE(Site Reliability Engineering)、アジャイル開発といった、現代的な開発、運用スタイルへの転換へ舵を切れる。
宮原氏は、「コンテナのポータビリティを活用し、このアプリはクラウドへ、このアプリはローカルAIと連携させるためにオンプレミスへ、といった柔軟な差配が実現できる」とハイブリッドクラウド戦略の理想像を語る。
基盤開発と運用の自動化を進める必要もある。これまで多くの企業が、ウオーターフォール型で開発し、一度構築したら変更を嫌う「塩漬け型」のシステム運用を続けてきたが、それでは現在のビジネス環境が求めるスピードに対応できない。インフラ管理の自動化技術(IaC)や、継続的な開発自動化の手法であるCI/CDパイプラインを組み込み、開発やテスト、本番のサイクルを高速に回す体制を整えなければならない。
宮原氏は、「脱VMwareという転換点は、アジャイル型開発へ転換し、システムの捉え方を部分最適から全体最適へと向かわせる一番の近道」と説明する。
脱VMwareの選択肢は、Linux KVMソリューションなどの手段が出そろい、多くの企業がPoCを通じて、実際に本番で使える手応えを得ている。
このタイミングで、企業はシステムポートフォリオを棚卸し、どのシステムを塩漬けにし、どこをコンテナ化してクラウド移行するのかといった、個別の移行戦略を立てるべきだ。宮原氏は最後に、「VMwareのライセンス問題という受動的なきっかけを、自社のインフラ戦略とアプリ開発の在り方を抜本的に変革する能動的なチャンスとして捉えるべき」と語った。
脱VMwareをきっかけに、企業は俊敏で柔軟なITインフラへの移行を実行すべきだ。それが実現すれば、IT基盤は単なるコストセンターから、ビジネスの成長を支える武器へと生まれ変わるだろう。
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