今さら聞けないIOWNのすごさ AIインフラの電力問題を解消する“特効薬”か?

NTTの次世代通信基盤「IOWN」とは何か。AIの進化に伴って顕在化したITインフラの課題を、IOWNはどう解消するのか。実証例を交えてIOWNの仕組みとメリットを整理し、ITインフラにもたらす影響を探る。

» 2026年04月10日 08時00分 公開
[渡邉利和ITmedia]

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 AIの急速な進化を受け、それを支えるITインフラに変革の波が押し寄せている。AI処理に用いられる最新世代のGPU(グラフィックス処理プロセッサ)は膨大な電力を消費する。給電や冷却の制約から、GPUサーバの運用拠点を都市部に設置することは難しくなりつつある。海外では、人口密集地から離れた地域に大規模なAIデータセンターを建設し、電力確保のために原子力発電所の活用を検討するなど、大掛かりな取り組みが進む。国内でも適切な対処が必要になることは間違いない。

 電力や冷却といった制約に加えて、遅延の要件やデータの所在といった観点から、AIデータセンターの立地を見直す動きが広がっている。より具体的には、ワークロード(アプリケーションやプロセス)に応じて、電力効率の高い地域やデータに近い拠点で処理を振り分ける分散型のITインフラが脚光を浴びつつある。これを実現する上で鍵となるのが、拠点間を低遅延で接続し、あたかも一体のシステムであるかのように動作させるネットワーク技術だ。

 NTTグループが開発を進める次世代通信基盤「IOWN」(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)は、端末からネットワークに至る広い範囲で光技術の適用を進めることで、低消費電力かつ低遅延の実現を目指す(図1)。AI時代のITインフラが抱える、さまざまな課題の解決策として期待が集まるIOWNの可能性とは。ネットワンシステムズが2026年1月に開催したイベント「netoneDay2025」での講演内容を基に探る。

画像 図1 IOWNの主な特徴(出典:NTT西日本の講演資料)《クリックで拡大》

ネットワークに変革をもたらすIOWN

 都市圏の広域ネットワークは、光ファイバーを広く採用している。一方でコンピュータやネットワーク機器の内部処理には電気信号を使う。通信の途中で光信号と電気信号の相互変換を繰り返すことになり、結果として遅延や電力消費の増加が生じやすいのが現状だ。

写真 NTT西日本の小山晃広氏(デジタル革新本部 技術革新部 IOWN推進室 担当部長)(写真は全て、筆者がオンライン取材中に取得した。所属・役職は全て取材時のもの)

 IOWNの中核技術である「APN」(All-Photonics Network、以下IOWN APN)は、この課題を解消する有力な手段となる。通信の端から端まで光信号のまま伝送し、電気信号への変換を極力介さないことで、低遅延かつ高効率なネットワークの実現を目指す。

 インターネットの世界では、扱う画像や映像の高解像度化が進み、接続するデバイスの数も膨大な数になっている。その結果「データ量が爆発的に増加し、それに伴って電力消費も拡大しています」と、NTT西日本でIOWNの社会実装を担当する小山晃広氏は語る。こうした状況を踏まえて「情報処理基盤そのものを変革する必要があるのではないかという問題意識から、IOWNの構想が生まれました」と小山氏は明かす。

実証でIOWNの実力が明らかに

 IOWN APNの実証例として小山氏は、ネットワーク業界イベント「Interop Tokyo 2024」で公開した「リモートバーチャルプロダクション」を挙げる(図2)。東京(大手町)と大阪(京橋)、千葉(幕張)の3拠点にいる人物の映像をリアルタイムで合成し、あたかも同じ場所で対話しているかのように見せる取り組みだ。IOWN APNの低遅延という特性により、タイムラグをほとんど感じさせない自然な会話を実現できたという。

画像 図2 リモートバーチャルプロダクションの実証概要(出典:NTT西日本の講演資料)《クリックで拡大》

 現在のテレビ中継では、中継車を現地に派遣し、制作スタッフも現場で作業するのが一般的だ。IOWN APNを活用すれば、現場にはカメラのみを設置し、離れた放送局側で制作作業をするといった運用が可能になる。

 大阪と福岡にいる受講生に対して、インストラクターが同時にダンスレッスンをした実証例もある(図3)。従来は対面が前提だったダンスレッスンも、IOWN APNによって遠隔での実施が可能となる。低遅延の通信により、複数拠点の受講生の動きをリアルタイムで確認できるようになるからだ。実証に参加したインストラクターは、その体験について「本当に世界が変わる」と評価したという。

画像 図3 遠隔ダンスレッスンの実証概要(出典:NTT西日本の講演資料)《クリックで拡大》

IOWNによる“距離の実質ゼロ化”がITインフラの在り方を変える

 対人コミュニケーションでは300〜400ミリ秒程度の遅延があっても大きな問題にはなりにくい。一方、分散処理やリアルタイム性が求められるコンピューティングでは、このわずかな遅延が処理速度や使い勝手に直結する。

 従来は遅延による影響を避けるために、ITインフラを同一拠点や近接拠点に集約するのが一般的だった。拠点間をほぼ遅延なく接続できれば、地理的に分散したITインフラを一体として運用することが現実的になる。IOWN APNのような低遅延ネットワークは、その実現を支える。

 「分散しても一体として使える」という特性は、電力の観点でも新たな選択肢をもたらす。小山氏は、再生可能エネルギーの活用を例に挙げる。例えば太陽光発電の場合、日照条件の良い地域のITインフラを優先的に使い、発電効率が低い地域の利用を抑えるといった運用が考えられる。

 太陽光発電は、天候や時間帯、季節によって発電量が大きく変動する。IOWN APNによって遠隔地を低遅延で接続できれば、複数拠点のITインフラを仮想的に束ねて、発電状況に応じて処理を移動させることが可能になる(図4)。

画像 図4 分散型のITインフラによるメリット(出典:NTT西日本の講演資料)《クリックで拡大》

 こうしたIOWN APNの特性は、生成AI向けのITインフラの運用でも強みとなる。NTTグループは、太陽光発電設備が充実した福岡と、電力料金が比較的低い大阪を組み合わせて、生成AIの推論処理を分散実行する実証を進めている。日中は福岡で処理し、夜間は福岡と大阪で負荷を分担するといった運用により、電力効率を高めたという。

実証実験で見えた、IOWNによるITインフラ変革の可能性

 IOWNがITインフラに及ぼす影響が垣間見える事例がある。ネットワンシステムズとNTT西日本が共同で手掛けた、分散データセンターにおける産業用ロボットの実証例がそれだ。大阪の京橋と堂島、福岡の3拠点を接続し、分散型のITインフラによるAI処理を実証した。人の動作を手本として学習する「模倣学習」を利用し、IOWN APN経由で自律型協働ロボットを遠隔制御するのが骨子だ。

写真 ネットワンシステムズの井上直也氏(ビジネス開発本部 応用技術部 部長)

 模倣学習では、人がロボットに動作を教えるところから始まり、その内容を学習したロボットが徐々に高度な判断をできるようになる。「最終的に、人の介在なしに自律的に動作できるようになる技術だ」と、ネットワンシステムズの井上直也氏は説明する。少子高齢化によって労働力不足が進む中、熟練技能を継承する手段として、模倣学習は重要な役割を果たす可能性がある。

 ロボットが稼働する現場ごとにGPUサーバを配置し、拠点内で模倣学習の処理を完結させることは、コストや電力、運用負荷の面で容易ではない。分散型のITインフラで実現する場合には、高精細な映像やセンサーデータを扱うことからデータ転送量が増大しやすく、リアルタイム性の確保が課題となる。

 今回の実証では、約600キロ離れたデータセンターからロボットの推論処理を実行することに成功した。IOWN APNによって遅延の影響を抑え、処理用のITインフラを広域に分散配置できる可能性を示した形だ。具体的には、大阪で稼働するロボットアームに搭載したカメラの映像を福岡のデータセンターに送信し、そこで稼働するAIモデルが推論。その結果に基づき、大阪のロボットアームに動作指示を返すという一連の処理をリアルタイムで実現した。

 AIの進化に伴い、ロボットなど現実世界で動作する「フィジカルAI」に関心が集まり、社会実装に向けた取り組みが広がっている。その実現にはAI処理を担うITインフラをどのように確保し、どこで処理をするかが大きな課題となる。IOWNはこうした課題に対して、低遅延のネットワークによって遠隔地のITインフラを活用するという解決策を示す。今後のAI活用の高度化において、IOWNは重要な役割を担うことになりそうだ。

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