「見る」「知る」「触れる」がコンセプトとして2004年12月に開設されたTRIOLEの総合センター「Platform Solution Center」。富士通は、米国ITベンダーとの協業を発表するなど、オープンスタンダードへの意識を高めている。IT業界は今どのような選択をすべきなのか? 富士通の取り組みに関連し伊東氏に聞いた。

ITmedia 2004年、富士通の動向を知るトピックを挙げてください。

伊東 2004年、富士通は6月に発表を行った米Sun Microsystemsの次期SPARC搭載サーバ開発協業や、米Microsoftとの次期IAサーバ開発協業、ほかにもIBM、Red Hat、SAP、シスコなどとの関わりを高めているなど、オープンスタンダードへの取り組みが数多い状況です。パートナーとの協業などによって、いっしょに取り組めることがハッピーになると確信しています。これからは、単体製品で語れない世代になっていることを強く感じています。業界全体がそのように捉えていることが明らかです。

 富士通は、IT基盤としてTRIOLEを持っていますが、2004年12月に発表を行ったPlatform Solution Centerの開設は、総仕上げでした。このようにオープンスタンダードへの取り組みに準備が整ったことからも、2005年は実りある形にしていくのがテーマといえます。

フロント全盛の風潮があるがバックエンドも重視

ITmedia 富士通は企業向けだけでなく幅広いプロダクトがありますが、家電を含めた展開にも変化がありますか。

伊東 例えばケータイでは、ユニバーサルデザインを強く意識するようになってきました。今後は、特に若者以外のターゲット層にも注力すべきでしょう。

 PCではTVとの融合、HDDレコーダーとの関わりもありますが、店頭向けのPCではTVを意識するチューナー搭載機が人気となっています。これらを相乗効果として受け止めています。また、今後のユビキタスの観点から言えば、PCはビジネスかコンシューマなどという境目が見えなくなる傾向にあります。今後は、役所などへの導入傾向で、Webベースの申請形態が数多く見込まれるでしょう。ユビキタス世代に向けて、切り分けが少なくなる幕開けでもあります。

 コマーシャルとしての側面もあり、PCがITにおける文房具であることは明らかなところです。例えば家庭では子供が百科事典の代わりに利用しているように多用途さが見逃せません。コンシューマであるか、サーバ利用であるかなどと限定しない状況になっていきます。また、PCプロダクトについては、営業ツールとしての見方があります。例えば新規アカウントの客先へと出向く場合、現在はPCが1台もないという場は少ないため、キッカケとして好都合なことが多いのです。営業としても、ここは自らのテリトリーだという捉え方をしたいという意見もあります。PCの管理コストは年25万円というデータがありますが、そのサポートもビジネスのひとつです。利益のあるうちは取り組んでいきます。

ITmedia TRIOLEを基盤とする基幹へのJavaの取り組みに、どのような感触を得ていますか。

伊東 プラットフォームとして.NETとJavaは、今後良い関係になると感じています。富士通としては相互に取り組みます。

 TRIOLEの最近の傾向としては、海外拠点からの反応が好調であり、それぞれの拠点では比較的大きなプロジェクトが多い状況です。IT業界全体でひとつ言えることは、複雑なことに疲れたということでしょう。高度なシステム構築へ躍起になっていたけれど、現在は、経営の視点でITにどのように取り組むかが大きなポイントであり、従来のようにいかに複雑なシステムを組み上げたかという観点ではなくなっています。複雑であることよりもシンプルであることが重要視されています。


日本経済の原動力は緻密さの製造。オフショア開発には危うさがあるので切り分けが必要と語る伊東氏

 また、アプリケーションは従来からのものを今後も長く利用していくということに業界一致であり、データベース統合、既存との組み合わせをどのように実現するかなど、システムの連続性が求められています。従来のような部分最適化ではなく、システム自体の最適化がキーポイントです。

 富士通では、POSやATMなどの分野でも多くのプロダクトを持っていますが、最近はバックエンドだけでなくフロントエンドへの取り組みも活発です。RFIDはそのひとつかもしれませんが、社内でもこれからはフロントだなという意見もあります。RFIDであればサービス部門で開発し、客先といっしょになって作り上げていくべきですが、基幹には違った面があります。現代はフロント優勢の時代だという風潮が強くなりつつありますが、そのサービスを支えるバックエンドも重要だと捉えています。

 そのような背景で、SOAをとても大きなキーワードとして見ています。アプリケーションは今後スクラッチではなく、プロセスをベースに組み上げていくべきでしょう。スクラッチでは人件費が膨大になるばかりです。特に先進国では、SOAに注力すべきです。そしてSOAは、経営の視点から見るとてもよい傾向です。最近の経営者は概念で語っていません。なぜなぜ? と5回繰り返すのは社長コメントですが、物事を固有名詞で語るべきと考えます。

米国情勢から学ぶオフショア開発の危うさ

ITmedia 最近は中国情勢についてやオフショア開発について問われることが多くなったと感じます。開発体制をどのように見ていますか。

伊東 米国でもオフショアの議論が多いです。ひとつ言えるのは、オフショアは全面否定するわけでもなく使い分けが必要だということです。現状を見てみれば、デスクトップPCの内部パーツは、ほとんどが中国製、しかしノートPCは国産という切り分けがあります。ノートPCの電子部分は人の手では実装できません。緻密さでいえば日本製がよい状況です。

 米国は日本の状況とは違うでしょう。米国はこれまで、すべてをオフショアにしてきました。知的財産もすべてがオフショアであり、サポートもオフショアです。こうなってしまうと何が残るのか? ということになります。生産コストが安くなるからとはいえ、すべてを海外へ出してしまっては、国全体がオフショアになってしまいます。日本の場合は製造大国として生き続けてきました。今後は、大量生産には向かないかもしれませんが、先に挙げたように緻密さな生産では長けているはずです。

ITmedia 何から始めれば良いのでしょう?

伊東 国が豊かになると理系を目指す人が減少するといいます。ハングリーさがなければ減るのは自然かもしれません。そして、米国事情から分析すれば、開発者は母国が豊かだと、帰っても十分に生計を立てることができるわけです。つまり、学ぶ場は先進国であっても発揮する場は自国とはっきりします。

 日本では最近、学生による理系の知識が低下してきているというニュースをよく耳にします。しかし、長けていて優秀なはずと思います。そして、インセンティブも必要なはずでしょう。米国と同じ状況が訪れるのは、もう目先です。

 どうすればよいのか? という疑問がありますが、IT業界ではいっそうソフトウェア化が進むのは誰にも止められないことです。昨今話題になっている、オープンソースには言語という大きな壁が問題となっていますが、今後日本語で技術を語り合っているようではますます遅れていくでしょう。イントネーションがおかしくてもコンテンツさえしっかりしていればよいのです。

 オープンソース利用は、良いものを作り上げていくためにも理解しなければ危険かもしれません。

ITmedia 2005年、富士通が掲げる目標は?

伊東 本当にグローバルなプレーヤになっていきたいですね。そうでなければ勝ち残れないのが、現在のIT業界です。そして、良いものは普遍的であることを忘れないでいたいです。自動車業界がその良い例ですね。

日ごろ忙しいので、ゆっくりと休みたいですね。初孫といっしょにも過ごすつもりです。正月の終わりごろは、2005年どのように取り組むかなども考えていきます。

[ITmedia]

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