検索という分野で最先端を走るグーグルは、インターネット、イントラネット、プライベートという3つの分野を見据えたコーポレートミッションを掲げている。20%ルールに代表される開放的な風土から生まれる革新的な技術が、検索のすそ野を拡大しているとグーグルの村上氏は話す。

リリバントな結びつきが指示へとつながる

ITmedia IPOが大きな話題をさらいましたが、2004年を振り返っていかがですか。

村上 Googleは、サービスはすべて無料で提供し、広告収入で利益を上げるビジネスモデルですが、2004年は、当初の計画を大きく上回る結果となりました。このことは、何らかの目的を持ってネットサーフィンをするユーザーと、その目的に合ったコンテンツをリリバントに結びつけるというのが広告主およびユーザーに支持された結果だと思います。

 広告全体から見るとインターネット広告の占める割合は2%から3%といったところです。景気の回復とともに広告全体、そしてインターネット広告も増えていますが、その中でもリスティング広告は倍々ゲームで伸びていくのではないでしょうか。多くのバナーのようにユーザーにとって関係のない広告を表示させるのではなく、検索の結果や、ユーザーが見ているページに関連した広告が表示されるという有効性というのは認められてきています。

ITmedia 欧米と比べて、日本の市場について何か差異はありますか。

村上 Googleは言語でスライスしているのですが、ユーザー数でいうと、日本語は英語、ドイツ語に続くものがあります。日本では広告代理店がいい仕事をしており、クライアントのすべてのキャンペーンを面倒見ています。欧米だと、大きな企業なるほど直接申し込むことが多いですが、日本の場合は、大企業になるとほぼ100%広告代理店経由での出稿となりますね。


「リスティング広告が無視できない状況の認識を広め、それが通常の考え方であるような状況にしていきたい」と話す村上氏

 Google側が少ないスタッフで日本の主要なリスティングのサポートをまかなえている理由の一つには、日本の広告代理店制度の存在が大きいです。伝統的な広告代理店もリスティング広告の有効性を認めてきた状況が顕著に表れてきており、非常に効率のよいものだと思っています。

ITmedia 日本法人を率いていくにあたって、どのような姿勢が重要なのでしょうか。

村上 Googleに特徴的なことではありませんが、外資系の会社が日本に進出する場合、明らかに存在する日米の市場の差や、ビジネスのベストプラクティスが異なることを理解する必要があります。北米に本社がある場合、本社はまず最初に北米を考えてしまうんですね。それは決して悪いことではありません。そこに対して、日本という市場の特殊な事情を、どう影響力を持って説明していくかというのが重要となります。

 その反面、北米からの新しい考え方や手法を日本のユーザーに理解してもらう必要もあります。特にGoogleのように新しい世界を切り開いている先駆者のような存在ですと、アピールすることもこれまでにないような目新しいこととなることがほとんどですので、その意味ではより大変な部分だといえます。いずれにせよ、アメリカを見ては日本を代表するような立場で、日本を見ては、アメリカを代表するような立場で臨むことが大事です。

自由な風土が新しい発想を生む

ITmedia 2004年12月にはGoogle東京R&Dセンターを開設しましたね。

村上 Google東京R&Dセンターで手がけるのは日本向けのもの、という位置づけにはしていません。あくまでも日本の優秀なコンピュータサイエンスの人員に参加していただきたいということです。

 とはいえ、ブロードバンドが他の先進国と比べても浸透していたり、モバイルからのインターネットアクセスが極めて重要な比重を占めているといった環境下でR&Dに携わることで、エンジニアが自由な発想で研究開発を行う、いわゆる「20%ルール」で何か新しい発想が生まれてくるだろうという期待もあります。

 Googleのコアテクノロジーを一言で表すと、人工知能のテクノロジーといえます。人間が何をどう考えているかといった発想には自然言語処理というのは極めて近い技術であると思いますので、日本語がネイティブである人たちが参加することで、日本にとっていいことがあればうれしいというのがわたし個人の意見ですね。

ITmedia 20%ルールはほかの企業にはなかなか見られないルールだと思います。ああいったものが出てきた背景にはどんなものがあるのでしょう。

村上 ワールドワイドで見れば、Googleで働く従業員の平均年齢は30歳を下回っていると思います。そしてエンジニアが従業員全体に占める割合は、普通の企業では考えられないほど多いです。彼らに自分たちのやっていることがいかに直接的にさまざまな人の役に立っているかという感触を持ってもらうことが、仕事を楽しむことにつながり、結果的に革新的なサービスの提供につながるはずです。

 わたしたちは、Googleのサイトに滞留させることはまったく考えていません。その意味ではポータルとは対局にあるといえます。だからこそ、サービスの部分に力を注ぐことでユーザーに支持される必要があるのです。そうしたサービスを生み出すために、エキサイティングな環境を持続的に提供することは重要なことです。

ITmedia PCデスクトップ内を検索する「Google Desktop Search」のベータ版をリリースしたことも大きな話題だと思います。

村上 これを理解するにはGoogleのコーポレートミッションを理解する必要があります。それは、「世界の情報のすべてをオーガナイズし、それをアクセス可能にする」ということです。すべての情報というと非常に広範なものですが、それをオンラインに限った場合、インターネット、イントラネット、プライベートという大きく3つの分野があります。

 インターネットはすでにさまざまなサービスを提供してきており、イントラネットの分野についても、北米では企業に導入する検索アプライアンスの提供を開始するなど、間接的ですがカバーしています。そして、個人のPCなどのプライベートな部分にも検索する手段を提供しようというのが「Google Desktop Search」なのです。

 すでにMicrosoftなどもデスクトップ検索市場に目を向けて準備を整えつつありますが、わたしたちは世で言われているほど真っ向からぶつかっているとは思いません。こういった傾向が進むことは検索に関する部分が認知されてきた証拠で、お互いが鍛錬しつつ技術を高めていければと思います。

ITmedia 2005年はどんな年になりそうでしょうか。

村上 インターネット、イントラネット、プライベートという分野に手はつけましたが、まだまだやるべきことは多く残っています。テキスト中心のインデクシングから、マルチメディアも視野に入れた検索を可能にしたいなど、考え出せばいくらでも出てきます。

 また、イントラネットの分野で利用する検索アプライアンスを来年の早い時期に国内販売を開始しようと思っています。やはりIPOしたことで、国内でもビジネス社会における認知度、特に、いわゆる経営者層での認知度もかなり上がったと思います。ビジネス社会でのGoogleの認知度が高まることで、こういったものが受け入れられやすい土壌ができてくるのではないでしょうか。

 まだまだ日本のユーザーに対して、英語では使えているサービスすべてを提供できているわけではないので、それをできるだけ早い段階で提供するよう心がけることと、R&Dセンターからの成果物が小さくでもいいのでお見せしていきたいですね。

決算時期の関係もあって、それほどゆっくりとした休みにはなりそうにないですね。どこかに旅行ということもなく、粛々と過ぎていく感じでしょうか。

[ITmedia]

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