セキュリティというトピックを2004年最も大きく受け止めた企業の一つが、コンピューティングプラットフォームを提供するマイクロソフトだろう。相次ぐ脆弱性の露見と攻撃、こうした状況に素早い対応が要求され、それを逐次実行してきた。セキュリティへの取り組みに終わりはなく、疲弊も見せずさらなる次のステージへと突き進む同社の方向性を、アダム・テイラー氏に聞いた。

ITmedia ややIT復興の兆しも見えたかと思いますが、2004年はどのような年でしたか?

テイラー とても有意義な、よい年だったと感じています。おっしゃる通りわれわれのビジネスで見ても、過去数年間と比較して回復の基調に乗ることができたと思います。全世界で同様の傾向でしたが、特に日本法人は子会社としてNo.1の業績をあげたというアワードを本社から受けることができました。日本法人社長のマイケル・ローディングがビル・ゲイツやスティーブ・バルマーから表彰されて、一緒に記念写真を撮るというイベントも経験しました。

 しかしながらセキュリティという面で言うと、課題としてやるべきことがまだまだたくさんあることを痛感しています。われわれは過去数年間にわたってアップデートやパッチの適用などをお勧めするコミュニケーション活動を続けてきました。昨年はWindows XP SP2という大きな意味を持つ製品のリリースも行いました。SP2についてはこれまでで約一千万件のダウンロードがありました。このことからも分かるように、日本のユーザーの方はセキュリティや製品の品質そのものに対して特に大きな期待感を持っています。そのためこの分野には特にアグレッシブに取り組んでおり、例として全国各地にある郵便局で、約100万枚のXP SP2のCD配布も行いました。これは全世界で見てもきわめて特別な例です。また、2万人もの技術者、ITProの方々に直接トレーニングをさせていただく機会を設けたことも大きな成果です。

 景気回復によるビジネスの好調とはまったく切り離して、こういった支援は行っていかなければなりません。その意味では、やるべきことの非常に多かった年とも言えます。

情報漏えいを防ぐための取り組み

ITmedia 昨年は、ブラウザのなりすましやフィッシング詐欺という新しい脅威の登場、そして情報漏えいが社会問題にもなりました。これらも踏まえて、セキュリティへの取り組みの変化や進化はありましたか?

テイラー 私自身、フィッシング詐欺のメールが送られてくるという経験をしました。銀行からのメールを騙り、「これをクリックしないと口座がなくなります」といったものでした。一瞬動揺しましたが、すぐにこれはフィッシング詐欺だと気が付いて事無きを得ました。マイクロソフトの社員でさえこのようにあやうく騙されるところでしたから、これはすべてのユーザーの方に対して大きなリスクであると言えます。


「ビジネスアプリケーション分野への参入と、家電企業との協業が今年の課題」とも明かしたアダム氏。

 マイクロソフトとしてこうした脅威に対しては、おもに二つの方向から取り組んでいます。一つはプライバシーに関してです。今年は個人情報保護法が施行されますから、企業としても適切な行動を取って行くことが重要です。現在社内では、顧客データの取り扱いについてそのポリシーやマナーを改めてレビューしており、漏洩などの対策に努めています。

 Office Systemに搭載したInformation Rights Managementという機能も、情報の閲覧に制限を設けるという点で、情報漏洩に対して効果があるものと考えます。多くの情報を頻繁にやり取りする大企業が、新しい脅威にさらされる危険性を回避、あるいは少なくとも軽減することができるのではないかと期待しています。

ITmedia 一般的なインフォメーションワーカーの生産性は、ITによって向上したと思いますか?

テイラー IT化による恩恵は、電子メールやワープロ、表計算といったツールだけではありません。例えばOffice Systemでは、ライブミーティングの機能を提供しています。認証機能を持ったセキュアなポータルサイト上で、世界中のあらゆるところからミーティングに参加することができ、すべての参加者が一つのPowerPointのスライド、Excelのシートを見ながら話をすることができるのです。

 会議のためにわざわざ出張するのは、費用も時間もかかるためできれば敬遠したいものです。出席者全員のスケジュール調整も莫大な労力を必要とします。ITを利用することでこうしたものを排除できれば、生産性の向上やTCOの削減に大きく貢献できるでしょう。

64ビットコンピューティングとDSIの今後は

ITmedia サーバ分野での64ビット化は進みましたが、デスクトップの64ビット化については遅れているようですね。

テイラー 短期的に見て、64ビット化はやはりサーバ分野での恩恵がより大きいと思います。マイクロソフトは今年、Windows Server 2003の64ビット版のリリースを予定しています。一方、クライアントという観点から長期的に見ると、例えばセキュリティの精度を上げるために多くのデータ処理をクライアントサイドで行うといった仕組みができあがってきたときに、64ビット化が進んで行くのではないかと考えています。

ITmedia 「Dynamic Systems Initiative」というキーワードの今年について教えてください。

テイラー DSIの全貌は非常に複雑であり、マイクロソフトのこれからの重要なスキーマ、戦略です。簡単に言うと、例えば「ネットワーク上でのアプリケーション開発の方法」と考えていただいて結構です。DSIに関連した製品は、今後も多くをリリースしていきます。本社エンタープライズマネージメント部門担当のシニアバイスプレジデント、ボブ・マグリアは、「私はこれから10年間はDSIのことを語り続けるよ」と言っていました。ですからマイクロソフトとして今後、間違いなく注力していきます。

ITmedia 2004年にマイクロソフトが「学んだもの」は何ですか?

テイラー 昨年もネットワークを通じたPCへの多くの攻撃が報告されました。われわれが学んだものの最も大きな部分はやはりセキュリティとパッチ管理についてです。企業として顧客の環境をセキュアに保つための努力が必要であり、そのための仕組みを常に進化させていかなければならないことを痛感しています。

私は以前、オーストラリアでMSNビジネスを担当していました。その在任中に住んでいたシドニーへ、妻や3人の子供たちとともに出かけます。そこにはまだ多くの友人たちがいますから、ボンダイビーチでパーティーをする予定です。

[ITmedia]

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