「誰でも使えるクラウド」を作る――サイボウズ、今夏にクラウドを新展開:サービス開発で生き残るベンダー(2/2 ページ)
サイボウズは小規模企業などを対象としたクラウド型サービスを打ち出すこと明らかにした。グループウェアの機能を絞ってSaaSとして提供することで、グループウェアの導入が進んでいないSOHOなどの企業を取り込む。主力のパッケージソフトに加え、ネットサービス事業を新たな収益源にする構えだ。
サービスの開発がベンダーの生き残る道
「サイボウズにとって初のネットサービスになる」。新サービスに対する丹野氏の位置付けはこうだ。その意図は「パッケージありきではなく、サービスありきで開発を進めている」ことが物語る。
同社は既に、主力のグループウェア製品の機能をインターネット経由で提供するSaaS型のサービスを打ち出している。だがこれらは「まずパッケージソフトを開発して、それをサービスとして提供するモデル」(丹野氏)だった。これに対し、新サービスは純粋なネットサービスとして開発を進めている。パッケージソフトではない。
その背景には、企業におけるグループウェア導入が鈍化傾向にあることが挙がる。丹野氏によると「導入率は50%強」。だが、裏を返せば半数近くが導入に踏みとどまっている。
かつてサイボウズのグループウェア製品は、数十人規模の企業による導入が活発だったという。だが、こまめなバージョンアップで高機能化が進んだこと、その間に競合企業が相次いでグループウェア製品を打ち出したことなどが原因で、「(多くの機能を求めない)小規模の企業にとって、価格が高い製品になってしまった」と丹野氏は振り返る。こうした反省が「小規模の企業向けに機能を絞ったクラウド型のサービスを展開する」(同)という事業の方向性を打ち付けた。
丹野氏が所属するネットサービス事業本部は2月1日に新設された部門で、サイボウズでも異色の存在だ。事業の基礎となる研究開発を1年以上前から進めていたことからも、同社のネットサービスへの注力ぶりがうかがえる。
サイボウズの主力事業は、「Office」や「ガルーン」などのパッケージソフトを売ることだ。「日本という文化に即した機能と使いやすさを追求した」(丹野氏)設計が受け、近年ではIBMやマイクロソフトの製品を抜いて、1位の市場シェアを獲得している。
だが、パッケージソフトの開発という従来の製品展開だけでは、利益の拡大は見込めなくなっている。ここで、サイボウズはこれまで苦手としてきた小規模企業の取り込みを強化し、その術としてSaaSを立ち上げることを選んだ。丹野氏は「Lotus LiveやGoogle Appsなど(のクラウド型サービス)と同じカテゴリーを訴求できるサービスにする。クラウド(関連の話題)の盛り上がりにも期待している」と語り、打ち出した新機軸に期待を込める。
サイボウズは「機能を特化し、誰もが簡単に使える」クラウド型サービスの開発でネットサービス事業に着手し、新たな収益源の獲得に走り出した。クラウドコンピューティングの台頭により、ITベンダーは旧来のビジネスモデルからの転換を強いられている。新たな稼ぎ頭をサービスに見いだすことが、今後ベンダーが生き残っていくために必要なことかもしれない。
関連キーワード
グループウェア | クラウドコンピューティング | サイボウズ | IBM | Microsoft(マイクロソフト) | ネットサービス | LotusLive | SaaS | Google | Microsoft Online Services | コラボレーション
関連記事
- クラウド時代にシステムインテグレーターは生き残れるのか
ガートナージャパンのアナリストが記者の質問に応じた。クラウドコンピューティングの普及で情報システム室やシステムインテグレーターの仕事に変化は起きるのか聞いた。 - クラウドの儲け方
クラウドコンピューティングの仕組みを利用すれば、自社の強みとなる技術を世界に販売できるようになる。情報システムの合理化だけでなく、ビジネスそのものをクラウドが変える可能性がある。 - Amazon EC2/S3のコストを試算:値段で分かる、クラウドの「おいしい」使い方
クラウドコンピューティングの利点はさまざまに伝えられているが、実際にはどれほどのコストメリットがあるのだろうか。Amazon EC2S/3を例にとって試算してみよう。 - SLAで100%返金保証も:マイクロソフトの企業向けクラウドは「自社運用型との共存」指向
自社運用型かクラウドサービスの導入か――。電子メールやスケジューラーといった情報系システムの運用が変化しつつある。マイクロソフトが提供を開始した企業向けクラウドサービス「Microsoft Online Services」は、両方のシステムを共存して稼働させることができるという。 - IBM LotusLiveとは:大きな可能性と混乱するブランド
LotusLiveは、IBMがパートナー企業の顧客向けにSaaSとして提供するメッセージングおよびコラボレーションアプリケーションのスイートだ。 - 急遽救世主に:クラウドが救う経済危機下の企業経営
将来の有望な「概念」くらいのニュアンスでとらえられていたクラウドコンピューティングが、世界的な不況により急遽救世主になりつつある。『「クラウド・ビジネス」入門 -世界を変える情報革命』の著者、林雅之氏にクラウドが示す企業経営の未来について話してもらった。 - 単純ではない企業ITの実情:クラウドコンピューティングの幻想から目覚めよ
クラウドコンピューティングがあたかも時代の救世主であるように論じられている。過熱ぶりを見ながら、真っ先にわたしが思い出したのはNGNだ。3月19日に著書『クラウドコンピューティングの幻想』(技術評論社)を発売するエリック松永氏に話してもらう。 - Lotus Spring Forum 2009 レポート:クラウド化したLotusで未開拓市場を掘り起こすIBM
Lotusの機能をネットワーク経由で提供する「LotusLive」をぶち上げたIBMは、2009年の中旬以降に同サービスを国内でも提供する。LotusLiveは、IBMがこれまで開拓しきれていなかった中小規模の企業を取り込む可能性がある。 - Microsoft、企業向けオンラインサービスのトライアルを世界19カ国で開始
Microsoftが、昨年秋に米国で導入した企業向けオンラインサービス「Business Productivity Online Suite」のトライアルを、日本を含む世界19カ国で開始する。 - ブランドダイアログ、無料のSaaS型グループウェア「GRIDY」を提供
ブランドダイアログはインターネット経由で各種機能が使えるSaaS型グループウェア「GRIDY」の提供を開始した。無料で利用でき、ユーザー数は無制限。 - クラウドコンピューティングはSIerを「Service Integrator」にする
クラウドコンピューティングやXaaSの台頭に伴い、ISVやシステムインテグレーターは、パッケージ製品や自社開発のシステムとクラウドをどう切り分けて運用するかを総合的に俯瞰する視点が必要になるだろう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.