検索
コラム

自ら信じる旗を立てよ――ITマネジャーに必要なこと職場活性化術講座(2/2 ページ)

フライシュマン・ヒラード・ジャパンSVP、パートナーで多摩大学教授の徳岡晃一郎氏は、40代のマネジャークラスの人に必要なのは、50代以上の人たち、30代以下の人たちとの「価値観のすり合わせ技術」だと話す。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

do-erからknow-erになりなさい

ITmedia マネジャーといえば、チームのリーダーでもあるわけですから仕事の意味付けについて何か考え方を持っていなければなりませんね。

徳岡 リーダーとして成長していくには、与えられた数値目標を達成することも大切ですが、それだけではダメです。米国などでは、マネジャーに向けられた言葉として「do-erからknow-erになりなさい」というアドバイスがあります。つまり「知りたい何かを持っている人になる」ということですね。それを起点にして新しい人間関係を構築し、仕事に対して新しい角度から見つめなおしていく。ビジネス上のイノベーションはそうした視点からしか生まれないというわけです。

ITmedia 内側の目標として、仕事にも関係あるのでということで、英会話の勉強をするといったパターンがありますけど、そういう類のチャレンジとは違うのですね。

徳岡 そういう努力ももちろん大切ですよ。ただし、それは非常に個人的なことですよね。個人のスキルアップですから、直接自分の働くフィールドに影響を与えるわけではない。私が言いたいのは、「私が広めたいコンセプトはこれだ」という一種の「旗」みたいなものです。そのコンセプトにかかわることを知りたいのだ、というメッセージですね。

ITmedia 仕事にかかわるコンセプトですね。

徳岡 簡単に言ってしまうと、例えば自分たちが売っている製品は環境という面ではどういうかかわりがあるのか、自分たちの提供しているサービスは社会にどんな影響を与えているのか、という発想から、「これからは、こんな製品、サービスが必要になる」という旗を立てるわけです。環境でなければ、「グローバル」とか「安全」といったキーワードで考えてもいい。その旗を立てて社内外にネットワークを広げていく。

ITmedia 「環境問題に興味があります」というのではなく、環境問題と自分ちの仕事の関係からコンセプトを組み立てるわけですね。

徳岡 まずコンセプトに自分がわくわくしなければいけません。何となくこういうコンセプトだと受けがいい、という発想ではうまくいかない。

ITmedia コンセプトを立てても、それに専念することなどできませんからね。

徳岡 やはり、通常の数字を追いかける仕事は続くわけで、その中で時間を捻出して深めていくのは大変な作業になります。しかし、そういう旗をたてて、いろいろな難しい調整をしながら新しい製品やサービスを作ることができれば、これほど面白いことはないし、達成感は非常に高い。

ITmedia 現実に適応する、突破力みたいなものが身につくということでしょうか。ただそうすんなりとはいかないケースの方が多いと思いますが。

徳岡 もちろんです。うまくいかない場合に「うちの会社じゃだめなんだ」というように被害者モードに入ってしまわないようにしなければならない。そういう内面的な葛藤を乗り越える力も大切です。

「1人エバンジェリスト」を継承する

ITmedia 自分の旗を立てる、という行動はどちらかというと50代以上の管理職がやりやすいような気もするのですが。

徳岡 確かにそうかもしれません。ただ、40代の人がやってもいいし、30代より下の人がやってもいいと思います。誰もが、自分のコンセプトを掲げることができればそれに越したことはない。私は、こうした「1人エバンジェリスト」のような活動が会社の価値観のすり合わせにとても役立つ技術として確立すればいいと思っているのです。

ITmedia 「1人エバンジェリスト」ですか。面白い表現ですね。

徳岡 先ほども言ったように、各世代で価値観が分断されている組織が増えています。誰かの立てた旗にいろいろな世代の人が集うということで、少しずつ共通の価値観が生まれる、普段と違った感動を味わえる、という効用もあります。そして「誰もが自分の信じた旗を立てることができる」ということそのものが次世代に伝わっていけば、個人にとっても会社組織にとっても大きな力になると思います。業務の継承ということも大切ですが、「1人エバンジェリスト」のようなものを伝えていくことは、変化の時代に対応する大事な継承作業です。

ITmedia 「1人エバンジェリスト」として、旗を立てることを続けていくには何か秘訣はありますか。

徳岡 やはり時間のマネジメント力は必要でしょうね。資料を読んだり、人と会ったりする時間を捻出しなくてはならないですから。それから感動する力も必要です。感動がなければ、コンセプトを作ることもできないと思います。

ITmedia 「1人エバンジェリスト」の活動を支えるのは、最初は影の仕事、シャドーワークですね。

徳岡 非公式にやっていくことになると思いますから、そうなると思います。だからこそ旗を掲げる人の熱意が決め手になるのです。他人を巻き込んでいくには相当のエネルギーが必要です。だからこそ本人が感動したものでなくてはならない。ただ、旗の下に集まった人たちとの関係は非常に太いものになります。よくネットワーク力といいますが、広く浅い人間関係だけのネットワークは実際にはあまり役立ちません。コンセプトを具体化する作業にかかわった人間関係は、その後も大きな力になるはずで、それは社内だろうと社外だろうと関係ない。まさに深みのあるビジネス人生が始まるわけです。

PlanITトップはこちら

過去のニュース一覧はこちら

プロフィール

とくおか・こういちろう 日産自動車にて人事部門各部署を歴任。欧州日産出向。オックスフォード大学留学。1999年より、コミュニケーションコンサルティングで世界最大手の米フライシュマン・ヒラードの日本法人であるフライシュマン・ヒラード・ジャパンに勤務。コミュニケーション、人事コンサルティング、職場活性化などに従事。多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所教授。著書に「人事異動」(新潮社)、「チームコーチングの技術」(ダイヤモンド社)、「シャドーワーク」(一條和生との共著、東洋経済新報社)など。


前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る