Salesforce Chatterは「エンタープライズコミュニケーションの革命」:Dreamforce 2009 Report
salesforce.comの年次カンファレンスイベント「Dreamforce 2009」でマーク・ベニオフ氏は次の10年を支えることになるであろうエンタープライズコミュニケーションの革命といえるサービス「Chatter」を発表した。
米国時間の2009年11月18日、米国サンフランシスコのモスコーンコンベンションセンターで、salesforce.comの年次カンファレンスイベント「Dreamforce 2009」が開幕した。「The Cloud computing event of the year」の文言が掲げられたことからも分かるように、企業におけるクラウドの可能性に大きく切り込むSalesforce.comの意気込みが伝わってくるこのカンファレンスには、同社の次の一手を知ろうと1万8000人を超える参加者が詰めかけた。
オープニングのキーノートセッションにはシリコンバレーでも屈指の“ビックマウス”、マーク・ベニオフ会長兼CEOが登壇。サンフランシスコ市長からも「少し変わった人」とイノベーターとして最大級の賛辞を贈られたベニオフ氏は冒頭、「厳しい経済状況の中、今年は非常に苦労した年だった。参加者の皆さんに感謝したい」と述べた。続けて、同社の現状を説明。前日に発表した第3四半期の売上高は前年比20%増の3億3100万ドル、同期に獲得した新規顧客は6万7900社、そして2009年の売上高は13億ドルを達成する見込みであると説明し、これを実現できたのは、あらゆる企業に適合するマルチテナント、従量制というSaaS形式ならではの特長を改めて参加者に説いた。
クラウドソースを活用するSalesforce.com
企業向けアプリケーションのSaaS化を成功させた先駆者であるSalesforce.comが新たな一手としてこの日発表したのは、セキュリティと信頼性を有する同社のクラウドコンピューティングプラットフォーム「force.com」上に構築された「Service Cloud 2」「Sales Cloud 2」「Custom Cloud 2」、そして同社の4つ目のクラウドサービスとして満を持して発表された「Salesforce Chatter」だ。Custom Cloud 2については明日説明するとし、残りの3つが紹介された。
Service Cloud 2を一言で表現すれば、ユーザーが求めているインターネット上の情報を、企業のカスタマーサービスと統合するもの。言い換えれば、Force.comのようなネイティブのクラウドコンピューティングプラットホームがFacebookやGoogle、Twitterなどほかのクラウドのパワーを利用できるようにしたものである。
最近では技術的な疑問が生じるとカスタマサービスに連絡する前にGoogleなどで必要な情報を得ることも珍しくない。いわばこれらはクラウドソースな知識の集まりである。しかし、企業の専門担当部署を軸とするカスタマサービスの技術は、こうしたクラウドソースな知識から切り離されている。「企業は閉じられた世界のカスタマーサービスに投資を続けているが、今日のユーザーはオープンなインターネットの情報を頼りにしている」とベニオフ氏は話す。
「次世代のカスタマーサービス」と同社が位置づけるService Cloud 2ではソーシャルコミュニティーサイトにQ&Aコーナーを設置/運営できる「Salesforce Answers」や、自社に関連するTwitterのTweetをリアルタイムで検出して管理する「Salesforce for twitter」など新機能が示された。また、デモでは、Service Cloud 2を利用してクラウドソースな知識の集まりをナレッジベースとして蓄積しているDellの事例が紹介され、Facebookからの情報をTwitterで返すなどの処理を1つのアプリケーション上で行う様子などが示された。
一方、Sales Cloud 2は同社のSFA(Sales Force Automation)の最新版。Outlookとの同期や、複数人数でのミーティングを設定する際のスケジュール調整を支援する新機能が幾つも紹介されたが、特にリポート機能の強化が顕著である。Salesforce.com上の営業データや顧客データを簡単に整形しPDF出力できる機能や、それらをWindows MobileやiPhone、BlackBerryなどのモバイル端末と連携させる様子などがデモを交えて紹介された。
FacebookやTwitterのパワーを企業に
ベニオフ氏は、クラウドコンピューティングだけでなく、ソーシャルコンピューティングもこの10年で進化を遂げたと話す。1980年代にはLotus Notesが、1990年代にはSharepointが企業システムを先導してきたが、今日では、FacebookやTwitterがその役目を担っているという。Service Cloud 2やSales Cloud 2の流れをみても明らかなように、Salesforce.comがソーシャルネットワーキングと企業システムを結びつけようとしているのは明らかである。そして、その流れは今後さらに企業のベーシックな部分に踏み込むという。
ベニオフ氏はFacebookやTwitterといったコンシューマーWebの勢いに惜しみない賛辞を送る一方、「例えばわたしがFacebookで広告予算について相談すると、すぐに多数のコメントがつく。これはかなり活気的で生産性が高い。また、なぜわたしはTwitterで知らない人が映画に行ったことは知っているのに、部下が重要な客を訪問したかどうかを知らないのだろうか」と、そうしたエネルギーが企業には届いていない現状を説明。「わたしはFacebookやTwitterが有している高い生産性をビジネスに生かすべきだと考えているが、企業のコンピューティング環境はコンテンツ、アプリケーション、人々がバラバラである。故に、それらをつなげるコラボレーションツールとしてChatterを開発した」と説明した。
実際、Chatterは、FacebookやTwitterが持つ機能を企業向けにうまく最適化したコラボレーションツールとなっている。社員がFacebookにおけるプロフィールを持ち、アクティビティをTwitterのようにつぶやく。つぶやくのは人だけではない、アプリケーションからも必要な情報があればフィードという形で語りかけてくるのだ。関連するアプリケーションのアラート――例えばビジネスドキュメントの更新情報――もフィードとして結びつけ、これらを統合して表示する。情報ごとに異なる方法でアクセスする従来の考えから一歩進めて、コンテンツ、アプリケーション、人々、それぞれの粒度をオブジェクトレベルで細かなアクセス制御やフィルターをかけながらリアルタイムフィードで1つに集約してしまおうという考えだ。社内のすべての社員やアプリケーションがリアルタイムフィードでつながり、共有されるというのは、強い競争優位性につながる。
既存のsalesforce.com上のアプリケーションは基本的にすべてChatterに対応するが、salesforce.com上のデータだけではなく、FacebookやTwitterのデータ、あるいはSAPやOracleなどのデータでも取り込むことができるという。2010年初頭にリリース予定で、Salesforce.comの有償ユーザーに対して提供されるが、Chatter Editionも用意されており、Chatterのみの利用も月額50ドルで提供されるという。
ベニオフ氏はChatterについて、「エンタープライズコミュニケーションの革命といえるサービス」と説明。同社は設立10年を迎えたが、これこそが次の10年を支える糧となるだろう」と期待を述べた。
ソフトウェア業界にありがちな“大げさな約束”を信じてやけどしたことがある企業からすれば、この新しい発表に懐疑的になるかもしれないが、懐疑論者を説得することに無情の喜びを感じるベニオフ氏は、ここでスペシャルゲストを紹介。それは、Twitterの取締役で、プロダクトディレクターを務めるジェイソン・ゴールドマン氏だった。
ゴールドマン氏は「現在、Twitterは企業でも使われ始めているが、5年後はもっとオンラインで考え方をシェアすることが増えるだろう。膨大なコンテンツを簡単かつ瞬時に見せたり、検索したりすることを可能にするのが、Twitterのミッション」と述べ、Chatterもまたビジネスユーザーに必要な情報をリアルタイムで入手できるものであるとし、目指している方向性が同じであることを示し、この発表がベニオフ氏の“ビックマウス”などではなく、確かに到来する未来であることを強調した。
「神聖な瞬間だ。わたしたちは新しいドアを開け、未知の世界に入っていこうとしている」(ベニオフ氏)
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