新たな国家IT戦略の肝となるオープンデータ:クラウド ビフォア・アフター(3/3 ページ)
日本は国際的地位の後退、少子高齢化や社会保障給付費増大、社会インフラの老朽化、東日本大震災における震災復興など、多くの課題を抱える“課題先進国”といっても過言ではない。こうした現状の閉塞を打破するため、政府は持続的な成長と発展に向けた戦略の柱として、特にビッグデータやオープンデータ、クラウドを新たなIT戦略のエンジンとしている。
行政システムの効率化、行政サービス向上のためのクラウド活用
IT戦略本部では、政府CIO(最高情報責任者)が司令塔機能を担い、省庁の縦割りを打破して政府全体を横串で通し、IT施策の推進や政策課題へ取り組んでいる。
IT投資に当たっては、法制度、組織、業務上の改革内容や、投資対効果を明確にした具体的な改革プランの策定といった業務改革(BPR)を徹底するとともに、クラウドの活用により、大規模な効率化と横串のシステム連携を図ることで、効率的な行政運営と徹底したコスト削減の実現を進める方針となっている。
BPRや政府共通プラットフォームへの移行の加速などクラウドの徹底活用により、2018年度までに現在の情報システム数(2012年度:約1500)を半数近くまで削減。2021年度を目途に原則すべての政府情報システムをクラウド化し、拠点分散を図りつつ、災害や情報セキュリティに強い行政基盤を構築し、運用コストを約3割程度圧縮する目標を設定している。
自治体クラウドにおいては、番号制度導入までの今後4年間を集中取り組み期間と位置付け、共通化・標準化を行いつつ、地方公共団体におけるクラウド化への取り組みを加速させる。
また、行政サービスにおいては、全ての行政サービスが電子的に受けられることを原則とし、電子行政サービスが、ワンストップで誰でもどこでもいつでもどんな端末でも受けられる「便利なくらし」社会を実現するために、クラウドを徹底的に活用していく方針を示している。
新たなIT戦略推進のためのビッグデータ、オープンデータ、クラウドの役割
本戦略では、「ヒト」「モノ」「カネ」と並び「情報資源」であるビッグデータやオープンデータが新たな経営資源になり、情報資源の活用が経済成長をもたらし、社会の課題解決の役割を担うと位置付けている。
ビッグデータやオープンデータによる分野、領域を超えた情報資源の収集、蓄積、融合、解析、活用により、新たな付加価値を創造し、変革のスピードを向上させ、産業構造や社会生活において新たなイノベーションを可能とする社会構築の重要性を示している。
データセットやサービス機能の民間開放と官民協働による利便性の高い公共サービスの創造、行政の効率化、見える化、さらには農業、医療、健康、エネルギーなどさまざまな分野においてのデータとクラウド活用による成功モデルを実証と展開などを通じて、政府が目指す世界最高水準のIT利活用社会の実現に期待が高まっている。
政府は今回の新たなIT戦略から、定量的な評価指標(KPI)を示し、取り組みの進ちょく状況や成果を評価できるようにしている。新たなIT戦略におけるKPIの進ちょく度と成果が、今後の日本の成長戦略の展開においても大きく左右することになるだろう。
著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)
国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)
ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点
2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。
国際大学GLOCOM客員研究員(2011年6月〜)。クラウド社会システム論や情報通信政策全般を研究
一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) 総合アドバイザー(2011年7月〜)。
著書『「クラウド・ビジネス」入門』
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