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» 2000年06月28日 12時00分 公開

Business Computing書評(1):今話題の「ビジネスモデル特許」を知るための5冊

[吉田育代,@IT]

この5冊

  • ビジネスモデル特許
  • 図解でわかるビジネスモデル特許
  • ビジネスモデル特許戦略
  • 衝撃のビジネスモデル特許
  • ビジネスモデル特許 基礎と実践

 一時期、友人たちとの間でシリトリが流行った。ただのシリトリではない。誰かが「リンゴ」といったとしよう。すると次に答える人間とは別の人間が、一斉に「ゴ」のつく言葉を“差し押さえる”のである。「ゴマ油、ゴマ豆腐、ゴマ関係アウトね」「ゴッドファーザー関係アウトね」「ゴンドウクジラ、権藤カントク、ゴンドウ関係アウトね」

 はやく「ゴ」のつく言葉を思いつかなければ、次に答える人間はどんどん窮地に追い込まれていく。ボキャ貧な人間には、過酷なゲームでおもしろかった。

 最初にビジネスモデル特許(英語ではBusiness Method Patentという)の話を聞いたとき、「ああ、あのシリトリと似ているな」と思った。

“思いついたら差し押さえろ、さもなくば逆に差し押さえられる”

 さて、ITプロフェッショナルの皆さんも、ベンチャー企業を興すかどうかは別として、心の中で密かに温めているアイデアの1つや2つはあるだろう。それがITを使って実現するものなら、ビジネスモデル特許とは無縁ではいられない。ちょっとこのあたりで知識を仕入れて、情報武装しておこう。どの書籍にも、ビジネルモデル特許とは何か、どういう経緯で話題になっているのか、今後これがビジネスにどう影響を及ぼすのかといった内容が解説されている。興味を持つ方向性から1冊を選ばれるといいだろう。

概要を知る入門書として

ビジネスモデル特許
ヘンリー・幸田著
日刊工業新聞社
B&Tブックス 2000年
ISBN4-526-04577-2
950円

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 とっつきやすい新書版。執筆者は米国で特許関係を専門に扱う現役の弁護士。そのため、ビジネスモデル特許ブームの火付け役となった2つの事件、アマゾン・ドット・コムのワンクリックオーダー特許事件、シグネチャ・ファイナンシャル・グループのハブ・アンド・スポーク投資管理手法事件も、弁護士の立場から解説してみせる。

 また、米国のプロパテント(特許保護)の精神がジェファーソンの独立宣言以来のものであることが歴史的に順を追って言及されている。こうした米国の特許政策の過去をよく理解しておくことは、実際に彼らを相手に訴訟を起こすとしたら重要な下準備だ。

 ただ、全般的に特許問題取り扱いの歴史的な側面と現在の事象にページが多く割かれており、具体的にこの問題にどう対処すべきかという、ソリューションが少ないのが気になった。ビジネスモデル特許とは何かを知る最初の入門書である。

“ビジネスモデル”を理解するなら

図解でわかるビジネスモデル特許
BMP研究会著
日本能率協会マネジメントセンター 2000年
ISBN4-8207-1511-9
1600円

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 経営情報研究会の分科会 BMP研究会に所属する11人の著者が分担して執筆。プレゼンテーションファイル的な図版を多用して、視認性を高めている。この書籍が多く紙面を割いているのは、何がビジネスモデルと呼ばれるものなのかということ。米国の事例や経済書を引きながら、ビジネスモデルの規定に努めており、その意味でマーケティング書に近いものがある。

 企業の知的財産権部門が読者として想定されているのか、ビジネスモデル特許を取得した社員を他社に引き抜かれないためにどうするかなどといった記述もあって、あらためてこれからの会社と社員の関係を考えさせられる。

 参考文献と参考URLが多く、よく調べて書かれている。ただし、“図解でわかる”というほどには図解はわかりやすくない。

めざせ“ビジネスモデルエンジニア”

ビジネスモデル特許戦略
柴田英寿+伊原智人著
東洋経済新報社 2000年
ISBN4-492-80058-1
1600円

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 すでに“自社は積極的にビジネスモデル特許をとっていく”という決断をしているのなら、この一冊。米国ビジネススクールとロースクール出身の二人の著者が、「ビジネスモデル特許」を手がかりに、ビジネスとしての知的財産権戦略のあり方を解説する。米国のビジネススクールでは、ビジネスモデルの議論に多くの時間が割かれるらしい。その米国が大きな話題となっているこの特許をどう考えているかという視点にあふれており、うかうかしていられないという危機感をあおられる。

 この書籍は、企業が果敢なビジネスモデル特許戦略を推進するには、ビジネスモデルを開発できる人材“ビジネスモデルエンジニア”が必要だと説いている。専門知識と経営的視点、情報システム的視点をあわせ持ったエンジニアということだが、これからのITプロフェッショナルの進む道の一つとしてうなづける点がある。

思い入れが感じられる1冊

衝撃のビジネスモデル特許
情報通信総合研究所
ビジネスモデル特許研究会 中島 隆編著
日本法令 2000年
ISBN4-539-71682-4
2190円

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 この著者はビジネスモデル特許について、初期の頃から深く関与している主要な関係者なのだろう。言葉の端々に、特別な思い入れのようなものがにじんでいて引き込まれる。第1章のビジネスモデル特許に対する日本の特許庁の対応などは、ノンフィクション作品を読んでいるようで読み物としておもしろい。このテーマに関して、Business Method Patent、Business Process Patent、Business Model Patentと3つの名称が混在していると警鐘を鳴らす問題意識も、筆者ならではのものだ。

 米国と日本のビジネスモデル特許の要件を、具体的に法令条文を上げながら詳細に解説しており、どういったものなら特許として認められるのかがわかりやすい。ビジネスモデル特許関連資料も具体的に列記されているため、興味を持った読者はより深く追いかけられる。限られた予算でどれか一冊というのなら、この本を勧めたい。

特許取得マニュアルとして最適

ビジネスモデル特許
基礎と実践

情報通信総合研究所
ビジネスモデル特許研究会
日経コンピュータ監修
日経BP社 2000年
ISBN4-8222-0775-7
9333円


 「衝撃のビジネスモデル特許」の著者とその所属団体のメンバーが主に執筆。そのためカバーされている内容は重なっている部分も多いが、A4変形判の紙面を活用してわかりやすいグラフや図版、表などが豊富に添えられており理解を助ける。技術を解説することに長けた、日経コンピュータ編集部の編集ノウハウがいかんなく発揮されている。

 基礎編、戦略編、実務編、法制度編、事例編と5部構成となっているが、他の類書にない大きな特徴は実務編。特許出願の方法やその成立までの流れ、効力のある特許明細書の書き方、ビジネスモデル特許の調べ方、海外でのビジネスモデル特許の取り方などを詳細に解説している。ビジネスモデル特許を取得するためのマニュアルとしては最適だ。偏りなく必要な情報が網羅されている良書だが、個人で手を出すにはちょっと高すぎるのが難である。

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