UML(Unified Modeling Language)は、いまやオブジェクト指向開発に不可欠な「言語」です。言語を理解し、使いこなすことができなければ、異国人同士のコミュニケーションがうまく成り立たないのと同様、現在のソフトウェア開発の現場において、UMLは、開発にかかわるすべての人々の間でコミュニケーションを行う必須の言語となっています。とはいえ、クラス図やユースケース図が何物かを理解したとしても、それでモデリングが行えるとは限りません。まして、すぐさま自らのオブジェクト指向開発プロジェクトに適用できるはずもないのです。
今回紹介する6冊の書籍は、UMLをまったく知らない人から、ある程度の知識を身に付け、UMLの背景にあるオブジェクト指向開発の方法論の学習を行おうとする人、そして初期段階の実践方法を行いたいと思う人に対して有効なラインアップとなっています。
本書は、オージス総研が提供するUMLの認定試験「UML技術者認定制度」のメインテキストでもあります。ブロンズ、シルバー、ゴールドに分かれた各認定試験の難易度に対応するような構成となっているのが特徴です。
ほかのUML入門書と明らかに違うのは、冒頭第1部がまるまる企業小説風の文章になっている点です。ここでは、UMLがビジネスの現場でどのように活用されるのかを明らかにしています。UMLを海のものとも山のものともとらえられなかった読者にしてみれば、この部分を読むだけでも理解の助けになるはずです。
第2部はソフトウェア開発概論など、UMLを取り巻くソフトウェア開発の流れをまとめています。クラス図やシークエンス図などUMLの各ダイアグラムの説明は、ようやく第3部から始まりますが、この一見遠回りの構成は実は、UML初心者あるいはオブジェクト指向初心者にとって、理解を深める最短距離だったことが後から分かると思います。
記述される説明に難解な言葉がほとんど使われておらず、文章も非常に明快で分かりやすいものになっています。ともかくUMLとは何かを知りたい人にとっては非常に有益な入門書といえるでしょう。
UMLの全体像から各ダイアグラムの説明という各論に至る構成は、『かんたんUML』と似た構成です。しかし、各章の並びは単なる演繹(えんえき)的な方法の採用ではなく、各章で想起される疑問を次章で解決していく構造を持っています。
第1部、第1章「UMLの紹介」で表記法の概略を示した後、第2章「オブジェクト指向とは」で、UML誕生の背景にあるオブジェクト指向の基礎概念に触れ、第3章から第6章まで、オブジェクト指向開発独自の考え方をUMLの表記法と絡めながら、平易に解説していきます。その後に、各ダイアグラムの解説が挟まれ、第2部でケーススタディを紹介します。各章の最後には、必ず章のサマリーがあり、簡単な問題演習があります。
400ページを超える大部ですが、順番に読んでいくことで、UMLの全体像とその詳細を過不足なく把握することができます。
UMLの初心者向け啓もう書として古典的な位置付けを持つ本書は、UML 1.2から1.3にバージョンアップされるタイミングで第2版が出版されました。現在のUMLのバージョンは1.4。来年春ごろには2.0が策定される予定ですから、バージョンだけを見るならば古い内容かもしれません。
ただし、UMLの基礎知識を吸収するという意味では、分かりやすさとともに、依然として古典的な啓もう書であることは確かです。
UMLの概要から始まり、開発プロセスの概要、ユースケースから始まる各ダイアグラムの解説、今後のUMLの予測、といった本書の構成は、非常にシンプルです。本書からUMLに入る人も多いかもしれませんが、エンジニアとしてある程度の経験と知識を前提としているため、まったくの初心者が手を出すのは危険でしょう。
UMLの基礎知識を身に付け、その知識を自分の頭に定着させる触媒として、本書の価値は有効です。各章に挟み込まれるコラムも、オブジェクト指向開発をめぐるキーワードがちりばめられ、UMLの理解を深める一助になります。
「入門UML」と書名にはありますが、本書に書かれている内容をUML初心者が理解することはおそらくかなり難しいと思います。確かにUMLの基礎的な内容を扱ってはいますが、いわゆるUML入門書に見られるような、ダイアグラムごとの章立てではなく、ソフトウェア開発の上流工程をUMLを活用して実践する際の行動様式に沿って、UMLの各ダイアグラムがどのように作用するか、という構成を採用しています。
つまり、本書を手に取るのは、UMLの基礎的な知識をマスターし、その全体像を把握した人であるということです。要求仕様のモデリングを実際に行う前段階での参考テキストとして、目を通す書籍という位置付けでしょう。UMLの基礎知識が、実際のモデリングの流れでどのように使われていくのか、また各ダイアグラムやUMLの仕様に登場する機能がどのような流れの中で使用されていくのか、を把握するには、最適の入門書といえるでしょう。
本書は、豆蔵の現CEOの羽生田栄一氏がオージス総研時代に翻訳監修を行ったUML入門書の決定版ともいえる書籍です。著者のグラディ・ブーチ氏は、UML生みの親の1人であり、世界で最もUMLに詳しい人物の1人でもあります。
ともあれ、UMLに関する基礎情報はほぼここに集約されているといっても過言ではありません。辞書的な役割として、常に傍らに置いておきたい書籍です。
本書はJavaでプログラミングした経験を持ち、UMLの基礎的な知識を備え、さらに両者を実践で多少使用したことのあるエンジニアを対象とした、実践的な内容となっています。「やさしいUML入門」とありますが、いわゆるUMLの入門書とは明らかに異なっています。
UMLとJavaをいかにマッピングしていくか、本書の主眼はそこに注がれます。第1部、第2部でUMLの基本的な知識の説明やオブジェクト指向開発の流れを概観していますが、復習程度にとらえれば十分でしょう。第3部から「JavaプログラミングとUMLのマッピング」という、本書の主要テーマが開始されます。
これまで、UMLの解説書はありましたが、Javaをターゲットにした、実装を主要テーマとする入門書籍はありませんでした。そういう意味で、初級エンジニア向けの実践書の嚆矢(こうし)として、本書の価値はあります。
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