イベントウォッチ:DESIGN IT! Pre-Conference 2005 「使いやすい情報システム」を実現する方法

コンピュータにとって「使いやすさ」は永遠のテーマだ。企業情報システムも例外ではない。ここではデザインとITに関するカンファレンス「DESIGN IT! Pre-Conference 2005」から、企業システムのユーザビリティをテーマにした講演を紹介する

» 2005年05月21日 12時00分 公開
[生井 俊,@IT]

 2月28日から3月2日までの3日間、東京・外苑前の日本青年館とTEPIAを会場に「DESIGN IT! Pre-Conference 2005」(ソシオメディア主催)が開催された。「ITがデザインするビジネス変革のストラテジー」をテーマに、「デザインマネジメント」「コンテンツマネジメント」など6つのテーマのカンファレンスが行われた。 今回のカンファレンスは、今秋に開催予定の本イベント「DESIGN IT! Conference」の準備を開始する機会として位置付けられたもの。会場は多くの来場者でごった返し、セッションによっては立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。

情報デザインはなぜ重要か

「企業における情報デザインの重要性 - ソニー生命における業務システムのユーザーインターフェイス標準化活動」

講師:ソニー生命保険株式会社 業務プロセス改革本部 情報システム1部IS企画1課

主事(当時) 長尾和洋氏


講演する長尾氏 講演する長尾氏

 ソニー生命の長尾和洋氏は、これまで社内で行ってきたユーザーインターフェイス標準化活動事例を交えながら、企業における情報デザインの意義について講演した。 冒頭、長尾氏の情報デザイン論が展開された。長尾氏は「専門家ではないが、一企業の実践者として」と前置きしたうえで、オンラインシステムのWeb化について「システム開発部門に任せるととんでもないWebになってしまう」と警告した。情報デザイン不在により、ユーザーの生産性を損なうことになるからだという。

 そして長尾氏は「3原色」の図のように、3つの円が重なり合った図を提示した。それぞれの円は情報・技術・デザインを示し、その中心には人がいる。その関係性について、「生のデータはデザインされて情報になる」「デザインは技術を要求する」「技術は(時間と空間を超えて)情報を運ぶ」と説明し、「デザインとは情報を公開する技術」だと定義付けた。

長尾氏が提示した3つの円。「人」を中心に3つの要素が統合される必要がある 長尾氏が提示した3つの円。「人」を中心に3つの要素が統合される必要がある

 また、情報デザインとは「社会とコミュニケーションする技術」であり、インタラクションを重視した、受信者の側を向いたインターフェイスデザインが求められている。それを実現するために、「企業は情報システム部門とは別に、情報デザイン部門を持つべきだ」と主張した。

 講演後半には、ソニー生命の実践事例で情報デザインへの道のりを披露した。インタラクションデザインについては、「1人で決めるのが大事」であるという。これはまったくの独断ということではなく衆知を集めたうえで、最終的に1人が決めることだという。こうしてソニー生命社内ではWebアプリケーションの「デザイン原則」や「UIデザイン標準」「HTML/CSSコーディング標準」を策定し、テキスト化したという。

 現在は、それに基づいたユーザビリティ教育・研修を行うことで、制作者ごとにボタンの位置や形など画面デザインが異なるケースが解消されつつある。ほかにも、ペルソナ/シナリオ法やペーパープロトタイピングなど、デザイン・メソッド適用の必要性を説いた。

 これらすべては、「より良いコミュニケーション」のために行うもので、「より良いコミュニケーション」は企業や社会の「元気のもと」だと締めくくった。

人間中心設計の実際と効果とは?

「ウェブ・ユーザビリティ研究会による人間中心設計手法の実践事例 - 研究コミュニティ支援サイトのリデザイン」

講師:株式会社アドバンテスト 金山豊浩氏

   三菱電機マイコン機器ソフトウエア株式会社 穂崎尚志氏

   株式会社インテック 福山朋子氏


講演する福山氏 講演する福山氏

 ウェブ・ユーザビリティ研究会は、ペルソナ/シナリオやペーパープロトタイピングなど人間中心設計(HDC)手法の実践事例を発表した。

 同研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア品質に関する研究会の1つで、文字通りウェブ・ユーザビリティを研究している。一昨年度から活動を開始し、昨年度はECサイトのベストプラクティスを探ってきた。本年度のテーマは「利用者視点でのウェブサイトの企画・設計」だ。

 まず研究を行ううえで上流工程に絞り、「Webサイト開発の企画フェイズでHCD手法を駆使することで、いままで要件仕様から漏れていたユーザー要求をどの程度盛り込めるかを検証してきた」と福山氏は話す。まず活動を3つのフェイズに分け、全体の知識レベルを合わせるためHDC手法の学習、ペルソナ/シナリオ法やペーパープロトタイピングの実践、要求定義書を比較する検証作業を行ったという。

 ペルソナ記述作業の進め方は、まずおのおのが考えたペルソナを持ち寄り、分科会で各人が記述したペルソナを説明、レビューであいまいなところを具体的に表現する。そして、ペルソナの詳細を記述したと語る。

 ペルソナの詳細化作業では、「イラストより人間の写真がイメージしやすい」「その人の特徴を一言で表せること」「現住所は地番まで詳細に書くこと」があると具体的なイメージに近づけるという研究成果を紹介した。

 後半はペーパープロトタイピングとウォークスルーに関する実践事例報告。穂崎氏は、ビデオで実施風景を紹介しながら、ペーパープロトタイピングではユーザーインターフェイスを紙に書くときに「定規は使わない、筆記用具は太めのフェルトペンを使う、テストに必要な部分だけ書く」などのポイントを紹介した。そしてウォークスルーを通じて機能分類や機能連携を再編成し、実施前と後の仕様に生じた変化を比較、開発対象であるサイトの各機能に優先順位・重み付けができたと報告した。さらにシステムの仕様だけでなく、ユーザー像や利用シーンが具体化されたことにより、サイトコンセプトに変化が生じたという。

プレゼンテーションで表示されたWeb画面ペーパープロトタイプの例。手書きで作るのは、“未完成である”を示すとともに、“見栄えではなく、ペルソナが本来求める要求に集中できるようにする”効果があるのだという プレゼンテーションで表示されたWeb画面ペーパープロトタイプの例。手書きで作るのは、“未完成である”を示すとともに、“見栄えではなく、ペルソナが本来求める要求に集中できるようにする”効果があるのだという

 同研究会では、今後は枠を広げ「ソフトウェアのユーザビリティ」を研究していく予定だという。

著者紹介

▼生井 俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコーを経て、現在、ライター兼高校教師として活動中。著書に『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(同友館、共著)『万有縁力』(プレジデント社、共著)。


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