前回は、捜査の技術がビジネスの場で役立つことを説明し、実際に「求める顧客像をしっかりとイメージし、顧客になったつもりで行動パターンを推理する」というテクニックを紹介した。今回も捜査の技術を使った例の続きで、行動パターンの推理をもう少し詳しく考えないといけない例を考えてみる。
第1回ではビジネスの場において、いかに捜査の技術が役立つかについてお話しした。
そして、営業担当者の仕事を例に取り、捜査の技術をどのように使うかについて紹介した。そこではまず、探し出そうとする顧客像をしっかりとイメージし、顧客になったつもりで行動パターンを推理しようというものだった。その姿はまるで超能力者のようだが、普段から人の立場に立って考え、書物や芸術に触れて想像力を鍛えている人からすれば、難しいことではないはずである。しかし、顧客志向やCS(顧客満足)の掛け声を掛ける人に限って、1人1人の顧客の気持ちをさっぱり分かろうとしないということも珍しくない。
今回は、捜査の技術を使った例の続きである。前回は、探し出そうとする人や物をしっかりとイメージして、その立場に立って行動パターンを推理することを学んだ(捜し物を早く見つけたければ、それがどこに隠れていたいか考えてみればよい。おそらく、あなたが探そうとしないところか、1度探してみてそこにはないと確信しているところが怪しい)。今回は、行動パターンの推理をもう少し詳しく考えないといけない例を考えてみよう。
コンピュータ在庫と実在庫が合わなくて悩んでいる経営者は、いまも昔も変わらない。しかし、コンピュータ在庫に悩まされていない経営者もまたいる。彼らにすれば、実在庫と合わないわけがないのである。製造業者でも卸売業者でも、在庫が合わないという問題を考える場合は、自分たちを小売業者に置き換えて考えてみることをお勧めする。商品の数が合わない理由は簡単であり、入ってきたにもかかわらず足していないか、出ていったにもかかわらず引いていない、のどちらかである。
足さなければ入れられない、引かなければ出せないようなシステムにすれば在庫は合う。スーパーマーケットのPOSレジや、EOSハンディターミナルはその良い例だ。店員が便利なPOSに金額や釣り銭の計算を任せれば任せるほど、引かなければ出せない状態となっていく。購買担当者がEOSに在庫手配や発注手続きを任せれば任せるほど、足さなければ入れられない状態になっていく。
コンピュータ在庫が合わない店舗では、POSレジを通さずに商品を出し、EOSハンディターミナルを使わずに発注する社員がいる。製造業や卸売業者の中には、完成入力や出荷指示書に出力した時点でコンピュータ在庫を更新する欠陥情報システムを持つところが少なくない。これでは、出荷処理が遅れれば遅れるほど、コンピュータ在庫と実在庫が合わなくなる。といって、出荷処理はコンピュータの都合に合わせるのではなく、客先や配送業者の都合に合わせて行われる。
現実に起きている問題はもっと複雑である。ハンディターミナルで入出庫処理を行っているところでも、コンピュータ在庫は合わない。しかし、その理由はやはり、入ってきたにもかかわらず足していない、出て行ったにもかかわらず引いていないだけのことである。
入ってきた商品のコードがまだ登録されていないために、入力できないまま入荷してしまった。しかも、それを客が持ってきたので入力しないまま出荷してしまった。急にサンプルが必要になって、すぐに戻すといって営業担当者が在庫を持っていった。紛失した。万引された。入力ミスした……などなど。
もし、ビデオ映像のように在庫が合わない原因となった状況を巻き戻して見ることができれば、犯人はすぐに見つかるだろう。しかし、ビジネスの世界では犯人捜しよりも、原因探しの方に意味がある。われわれの頭には想像力がある。いま、そこにある倉庫を見て、頭の中で巻き戻ししてみればよい。配置図やフローチャートがあれば、もっと想像力を働かせることができる。物事にはすべて理(ことわり)がある。理の中でしか結果は出てこない。フローチャートを書くことは、ビジネス捜査において、物の理をつかみ、結果を予測するために必要な基本中の基本の技術である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.