物事の理を知れば真実は見ずとも分かるビジネス刑事の捜査技術(2)(2/3 ページ)

» 2005年09月27日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

発注してから納品までになぜこんなに時間がかかるのか?

 納期短縮も、企業にとって永遠の課題である。先に注文したものが先に出てくるのは当然だが、レストランでも病院でもそうはならないことは誰でも知っている。しかし、どう考えても自分の方が早いはずだ、と腹を立てることもまた、誰もが経験している。待ち時間は処理時間と待ち行列の順番によって決まる。問題は待ち行列は1カ所ではなく、客からは見えないプロセスの内部にも発生していることにある。

 目に見える待ち行列の順番が前になっても、内部プロセスで優先順位の入れ替えが行われることがある。それによって順番が少しくらい後になっても不満は小さいが、いつまでたっても自分の番が来ないとなると、客の不満は爆発する。貴重な時間を使って病院に行き、1日待って、結局忘れられていた患者の怒りは相当のものだろう。筆者など、喫茶店に入って、注文を取りに来るまでに5分も待たされると出てしまう。

 同じことが企業間取引でも起きているだけなのである。物事は単純化して考えることに越したことはない。企業の納期遅れを喫茶店の注文の取り忘れに置き換えてみれば問題がはっきりしてくる。喫茶店の店員を観察してみると、怖そうな客、うるさそうな客を優先していることがよくある。反対に新規の注文取りの客ばかりに注意がいき、追加注文の客にはまったく注意がいっていないこともよくある。

 注文して安心していると、今度はいっこうに注文品が運ばれてこない。この喫茶店の状況を貴社あるいは貴社の取引先に置き換えてみていただきたい。大きな違いがあるだろうか。喫茶店の例で考えると、納期問題には、待ち行列処理のルール化と、待ち行列の可視化の2つの課題があることが見えてくる。先入先出ではないならば、どのような割り込みルールがあるのか。そしてそのルールは社内で共通なのか。もしルールがあるならば、そのルールを見えない待ち行列も含めて明示すべきである。そして、見えない待ち行列については現在の順番が見えるように表示すべきである。

 そのためには、受注から納品までに社内でどのような待ち行列が発生するのかについてフロ−チャートを書いてみることをお勧めする。ビジネスの世界において、割り込みが発生しないような単純な待ち行列は存在しない。しかし、割り込みを発生させた場合は、順番飛ばしされた存在を決して忘れてはならない。現実には割り込みしてきた客先の通常注文を順番飛ばしされた注文より優先してしまうことがないだろうか。

 順番飛ばしされた注文と同じ内容の注文が同じ顧客から来てしまった場合、催促と再注の区別はしっかりついているだろうか。トヨタでは次工程向けの在庫置き場をストアと呼び、かんばんを使った単純な待ち行列ルールと可視化も実現している。受注、段取り、加工、組み立て、検査、納品、それぞれのプロセスに待ち行列が存在しているはずである。そこには不条理な割り込みが発生していないだろうか。刑事捜査でもビジネス捜査でも大事なことは犯人の足跡を追いかけ、不審な行動がなかったかについて探っていくことである。

見えている因果関係の先に本当の理由がある

 繰り返すが、物事には理がある。理の中でしか結果は出てこない。しかし、理は見えているとは限らない。目に見えている因果関係だけで理ができていることはまずない。むしろ、われわれを惑わせて悩ませるのは、見えている因果関係の先にある、見えていない因果関係にこそ、本当の理由があるからである。

 ビジネス捜査で大事なことは、見えない因果関係がないか怪しみ、ありそうな因果関係について、図や絵にして可視化してみることである。マジックにもわれわれには気が付かない因果関係が隠されている。ビジネスにおいても顧客にとっては、同業者でもない限り、発注先の製品やサービスもまたマジックである。しかし、自社の社員が自社の製品やサービスをマジックだと感じていたとしたらどうだろうか。マジックをミスしても何が悪かったのか分かるはずもない。

 自社のことであれば、見えない因果関係などないはずである。物語の始まりから終わりまでのシナリオを完成させておくことが、社内で発生する問題の原因を突き止めるための武器となる。

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