これからが本番、「もうけてなんぼ!」の実用展開企業システム戦略の基礎知識(12)(2/2 ページ)

» 2005年10月26日 12時00分 公開
[青島 弘幸,@IT]
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売り上げや利益だけが評価ではない

 実は、システムの定量的な成果を正確に測定することは困難である。こう考えると、取りあえず実用化されれば、それで十分ではないかと思いたくなる。しかしながら、システム投資に対する目が厳しくなっている昨今、売り上げ増など業績貢献することが確実である場合以外は、システム投資しないというように消極的にならざるを得ない。

 このように単に財務的な成果だけを評価指標としたのでは、判断を誤る恐れがある。確かにシステムは、その効果が直接的に業績に反映されるものではないが、長期的に影響が表れ、気が付いたときには、すでに手遅れとなっていることも考えられる。そこで、バランス・スコアカードなどを利用し、多面的かつ長期的に評価する必要がある。

 バランス・スコアカードでは、「財務的視点」のほかに「社内プロセス」「学習と成長」「顧客の視点」で評価する。例えば、業務プロセス改革とシステム構築を並行して実施した場合は、システムの実用開始に合わせて、新業務プロセスに習熟するのには時間がかかる。従って、単にシステムによる成果よりも、業務プロセス改革との相乗効果で徐々に成果が表れてくる。それが、将来のビジョンに向かっての確実な歩みであるなら、すぐに財務的に成果が出なくても一定の評価を与えてもよい。

 同様なことが、学習と成長や顧客の視点からの評価にもいえる。学習と成長の視点から、eラーニングシステムを構築したとしても、その成果は、社員教育の効率化という面だけでなく、長期的には社員の成長が、企業の成長につながるといった評価ができる。

 ただし、財務面以外の評価であっても、達成度合いを評価するために定量的な評価指標は必要だ。例えば学習と成長の視点では、資格取得者数やアイデア提案数などが考えられる。

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適用拡大は慎重かつ大胆に

 初期の実用展開が完了し、一定の成果を確認することができたら、最後にシステムの適用拡大を検討することになる。いざ実際に適用拡大を検討してみるとシステムに機能を追加したり改修したりと、なかなか、そのままでは適用拡大がスムーズにいかないケースが少なくない。

 この場合に、やはり最小の投資で最大の成果を上げることを考えなければならない。適用拡大することが目的ではなく、あくまで、経営上の目標を達成することが第一である。適用拡大することが目的化してしまうと、大して成果もないのに、追加改修のために多額の投資が必要になる。

 なぜ、そのままのシステムでは適用拡大できないのか?

 もしかすると、単に仕事のやり方が標準化されておらず、現行業務にシステムを合わせようとしているだけかもしれない。それならば、業務を標準化するのが、まず先だ。特に部門や分野に特有な例外処理が存在する場合、業務プロセス全体に占める割合や影響を考え、システムを改修してまで適用しても大して成果が期待できないのであれば、人間系で対処することにしておけばよい。標準化もせずにすべての例外処理を盛り込み、適用拡大のたびに追加改修を繰り返していたのでは、部門ごと、分野ごとに少しずつ異なるプロセスがシステムに組み込まれてしまい、それこそ迷路のようなシステムになってしまい不良資産になりかねない。

 せっかく構築したシステムであるから全社的に活用できれば、大きな成果を得られる。しかし、組織の規模や風土によっては、スムーズな適用拡大が難しいこともある。その場合は、ムリに適用拡大を推進せず、徐々に浸透させていくのが良い。このとき、中心となるのがやはりキーパーソンだ。変化に対して柔軟な姿勢を持ち、前向きに考えられ、かつ周りの信望も得ているような人材である。キーパーソンには、先行して成果を上げている部署を見てもらい、システムやその運用について十分な理解を得てもらうことが大切である。

著者紹介

▼著者名 青島 弘幸(あおしま ひろゆき)

「企業システム戦略家」(企業システム戦略研究会代表)

日本システムアナリスト協会正会員、経済産業省認定 高度情報処理技術者(システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、システム監査技術者)

大手製造業のシステム部門にて、20年以上、生産管理システムを中心に多数のシステム開発・保守を手掛けるとともに、システム開発標準策定、ファンクションポイント法による見積もり基準の策定、汎用ソフトウェア部品の開発など「最小の投資で最大の効果を得、会社を強くする」システム戦略の研究・実践に一貫して取り組んでいる。趣味は、乗馬、空手道、速読。

システム構築駆け込み寺」を運営している。

メールアドレス:hiroyuki_aoshima@mail.goo.ne.jp


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