これからが本番、「もうけてなんぼ!」の実用展開企業システム戦略の基礎知識(12)(1/2 ページ)

システム構築、試験が終われば、いよいよ実稼働だ。システム実用こそがシステム構築の目的であって、ここからが“本番”である。ビジネス成果を生み出すシステムを実現するにはどんなことに注意すればよいのだろうか?

» 2005年10月26日 12時00分 公開
[青島 弘幸,@IT]

 システムは、実用化して成果を出してこそ意味がある。とにかく動けば、それでシステム構築が成功したと思うのは早計だ。システムの完成はあくまで通過点であり、これからがスタートと考えるべきだ。いうなればシステムの完成は、飛行機でいえば工場で完成した段階であって、実際にエアラインに配備されて旅客を乗せて運行することが大切だ。そうでなければ、どんなに素晴らしい機体もただの鉄の塊にすぎないのと同じである。

実用展開戦略

 システム実用を軌道に乗せ確実に成果を獲得するには、それなりに綿密な戦略が必要だ。利用者の自主努力に任せておけば、自然に定着するなどというのは幻想である。

 例えば、鳴り物入りで構築したERPシステムが、いざ実用化を開始してみるとまったく使われず、相変わらず現場は紙の伝票を使用し続けて、いっこうにシステムの利用率が上がらないということがある。現場の実態を調査してみると、ERPシステムの実用化と並行して、これまでどおり紙の伝票を使用していたため、不慣れなシステムを利用していなかったりする。この原因の1つとして、運用試験で十分に利用者を教育しておくところを、その時間と労力を惜しんだために、初期混乱を恐れ、紙とシステムの並行運用という実用展開戦略を取ったことが考えられる。その場合の対策としては、紙の伝票を一切認めないということを現場に周知することで、システムの利用率を向上できることもある。

 あるいは、高度な機能を一度に実用定着させようとしたために、結局、手作業の方が効率的という誤解が生じて、ほとんど使われないというケースも存在する。このケースでは、初めに単純な機能に限定して実用定着化を図り、普及した段階を見計らって高度な機能を利用するように展開することで解決できるかもしれない。

 このように、利用者の情報リテラシーを見極め、実用化度合いに合わせてレベルアップを図るとともに、システム化された業務については、システムを利用することを義務付け、抜け道を遮断することが必要である。

 誰しも、頭では経営上のシステム化目的を理解しても、自分が慣れていないやり方には抵抗感があるものだ。厳しくかつ優しく現場を引っ張っていくには、運用試験に続いて、ここでもキーパーソンの働きが重要となる。

ビッグバンか、順次拡大か

 実用展開戦略において、大きくは2つの選択肢がある。全社的かつ全業務プロセスを対象に一気にシステムの実用展開を図る「ビッグバン」方式と、限定的に実用化を図り、定着化の度合いを見計らって、その適用範囲を「順次拡大」していく方式である。

 ビッグバン方式では、新業務プロセスにスッキリと移行でき、成果を一気に獲得できるという利点がある半面、立ち上がりに障害が発生すると、容易には後戻りできないため、大混乱を起こすというリスクがある。

 実用開始に当たっては、周到な準備と、十分な事前教育、さらには数回のリハーサルが必要である。また、最悪の事態を考えて、障害が発生した場合に、元に戻すか、そのまま前に進むかの、判断基準などをあらかじめ定めたうえで、どちらの場合にも、スムーズに対処できるようにコンティンジェンシープランや代替案を準備しておく必要がある。実用開始直後に発生する可能性のあるリスクの洗い出しと分析を怠ってはならない。

 一方、段階的に実用展開を図る場合は、障害が発生した場合のリスクを最小に抑えることができるというメリットがある半面、実用化範囲が拡大するまでに時間がかかり成果が少しずつしか出ない。新旧の業務プロセスが混在することによる混乱が発生するなどのリスクや考慮事項が発生する。また、新旧並行運用している間、リソースを二重に管理しなければならないというムダなコストも発生する。

 適用拡大に当たっては、組織単位に拡大するのか、あるいは対象の製品やプロジェクト単位に拡大するのか、十分検討し、最後まで確実に全面展開できるように計画を立案する必要がある。

 ビッグバンでやるか、順次拡大でいくか、いずれにしても実務者の情報リテラシーや組織力により、発生する可能性のあるリスクと、成果獲得までの猶予をバランスさせ、最小のリスクで、最大の成果を得られるような展開戦略を立案しなければならない。

測定できなければ評価しようがない

 システムを実用開始したら、その成果を測定し評価する必要がある。半年なり、1年なり経過した後に最終的な評価をしなければならないので、そのために成果を確実に測定する。システムが実用開始され軌道に乗ると、それで大成功と思いたくなるが、それだけでは当初のシステム構築の目的を達成したことにはならない。計画当初にもくろんだ目標を達成できたかどうかを継続して測定し評価するためには、評価指標を明確化しなければならない。

 評価指標が削減人数なら、単純に成果を測定することができる。しかし、その削減した人数の異動先が社内である場合は簡単ではない。なぜなら、会社全体で人数が減らない限り固定費(人件費)を削減することにならず、会社の損益には反映されないからだ。よくあるのが、業務効率化によって浮いた人を、別の付加価値の高い仕事に異動するというものだ。

 この場合、単純にシステム化した業務の担当者が何人減ったかを測定しても意味がない。最終的には付加価値の高い仕事をして、実際に売り上げ増につながるとか、製品コストが下がるなど、利益貢献したかを測定しなければならない。しかし、異動した人が実際に高付加価値の仕事をするかどうかは、はなはだ属人的な評価項目となり、さらにそれで利益貢献したかを測定するのは極めて困難だ。

 このように、測定すべき適切な評価指標を設定することができない場合、「測定できないものは、改善できない(You can't improve what you can't measure.)」というTQMTPMの格言どおり、定量的に成果を測定できなければ、システムや業務プロセスを改善することができない。つまり、システム戦略のPDCAサイクルを科学的に回すことができない。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ