「欧州 AI法」がついに成立 罰金「50億円超」を回避するためのポイントは?CFO Dive

AIの活用や規制について包括的に定める「AI法」が欧州議会で可決された。今後のAI規制の世界標準となる可能性が高く、厳しい罰則もある。企業が留意すべきポイントとは。

» 2024年04月25日 12時00分 公開
[Alexei AlexisCFO Dive]

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CFO Dive

 欧州議会は2024年3月13日、世界の国々が独自のルール作りに奔走する中、ビジネスへの影響が予想される包括的なAI関連法案を承認した(注1)(注2)。

「欧州AI法」の罰則を回避するために押さえるべきポイント

 新たに制定されたいわゆる「欧州 AI法」(Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council Laying Down Harmonised Rules on Artificial Intelligence 《Artificial Intelligence Act》 and Amending Certain Union Legislative Acts:人工知能に関する調和規則《AI法》の制定および特定の欧州連合立法法の改正に関する欧州議会および理事会の規則の提案)は、リスクのレベルに基づいてAI導入の包括的な要件を定め、違反者には厳しい罰則が科される可能性がある。AI法は欧州議会で523対46の賛成多数で承認され、棄権票は49だった。

 4大会計事務所KPMG Internationalのスティーブ・チェイス氏(AIおよびデジタルイノベーション担当バイスチェアマン)は「AI法は欧州市場だけでなく、世界のAI事情にも広範な影響を及ぼすだろう」との声明を発表した。

 「米国企業は生成AIによる価値創造への道筋を進み続けながらも、欧州AI法や今後予定される規制を順守するために適切なガイドラインを策定しておかなければならない」(チェイス氏)

 Microsoftが支援する新興企業OpenAIが2022年11月に「ChatGPT」を発表して以来、AIは世界の注目を集めている。

 Accentureの調査によると、S&Pグローバルが同社の決算報告書でAIに言及した数は、2022年第1四半期から2023年第3四半期にかけて6倍に急増した(注3)。

 世界各国の政府は、AIツールの急速な台頭と、偽情報や詐欺、データプライバシーの危険に至るまでAIがもたらす潜在的なリスクに対応している。

 ジョー・バイデン米大統領は2024年3月7日の一般教書演説でこの問題を提起し、AIの潜在的な危険性に対処するよう連邦議会に促した(注4)。バイデン大統領が特に求めたのは、AIによる音声なりすましの禁止だ。

 EU(欧州連合)の法律では情報通信や電気、ガス、水道や空港などの重要インフラや雇用、必要不可欠な民間および公共サービスといった高いリスクを伴う用途にAIを導入する企業は、リスクを評価し、低減するための措置を講じた上でログ(履歴)を維持したり、透明性と正確性を保てるよう人間の監督職を設置したりしなければならない。市民は、AIに関する苦情を提出し、自身の権利に影響を及ぼすリスクの高いAI利用の決定について説明を受ける権利を有する。

 欧州AI法は、市民の権利を脅かす可能性のある特定のAIアプリケーションを禁止している。これには、センシティブな特徴に基づく生体認証分類システムが含まれている。さらに、職場や学校における感情認識AIの利用や、個人のプロファイリングや特性の評価のみに基づく予測型の取り締まり行為にAIを利用することも禁止されている。

 別の規定では、AIによって操作された画像や動画、音声コンテンツであるディープフェイクは、AIによって作成されたことを明確に表示することが求められている。

 法律事務所Skadden,Arps,Slate,Meagher&Flom LLPのデビッド・サイモン氏(グローバル・サイバーセキュリティ・データプライバシー部門の共同責任者でありAI施策のリーダー)は、インタビューで次のように述べた。

 「欧州AI法はゲームチェンジャーとなるだろう。ビジネスが規制される方法だけでなく、顧客が企業のAIツールについて考える方法としてデファクトスタンダード(事実上の標準)になる可能性が高い」

 チェイス氏によると、欧州AI法はAIにおける信頼や説明責任、革新の基準を定めるものであり、全米の政策立案者が注目している。

 AIアプリケーションに関する規定に違反した場合、最高3500万ユーロ(約58億円)、または企業の全世界年間総売上高の7%のいずれか高い方が罰則として課される可能性がある(注5)。

 欧州AI法は、AIツールがEU市場で入手可能であるか、AIの使用がEU域内の人々に影響を及ぼす場合、EU内外の公的および民間の行為者に適用される。

 法律言語専門家によるチェックと欧州理事会の承認を経て、欧州AI法は早ければ2024年5月に発効する見込みだ。その後の実施は段階的に進み、発効日から6カ月後に禁止行為が適用され、それ以降にその他の規定が適用されることになる。

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