「生成AIで一発逆転は可能だ」 DX“後進”企業こそ得られるメリットを解説(1/3 ページ)

これまでDXに取り組んでこなかった企業が生成AIを利用することで「一発逆転」することは可能か? ムシが良すぎるこの問いかけに「やり方によっては可能だ。メリットは大きい」と答えるDX支援のプロがいる。「DX後進企業」だからこそ得られるメリットと、導入失敗を避けるために押さえるべきポイントとは。

» 2024年03月29日 16時30分 公開
[田中広美ITmedia]

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 生成AI(人工知能)が「何でも簡単にこなしてくれそうなツール」に見えた時期は過ぎ、「実際の業務にどう活用するか」という泥臭い試行錯誤が続いている。日常的に利用している自然言語が使えることで、ともすると生成AIは「簡単に使える」ように見えるが、想定通りのアウトプットを得ることはそれほど容易ではない。導入失敗例も既に生まれている。

 今、導入準備を進めている企業は失敗事例から何を学べるか。また、これまでDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでこなかった企業が生成AIをDX推進の起爆剤にしようとするときに注意すべきポイントについて、コンサルティングを手掛けるRidgelinezに聞いた。

生成AI導入でよくある“失敗パターン”

 2024年はOpenAIの「ChatGPT」をはじめとする生成AIを本格的にビジネスで活用する年になるといわれている。企業のDXを支援するRidgelinezにも「生成AIを導入したい」という相談が多く舞い込んでいるという。

 2020年4月に誕生したRidgelinezは、富士通グループでありながらベンダーフリーを掲げてコンサルティングサービスを提供しているのが特徴だ。

 Ridgelinezの林 航氏(Enabling&Integration Senior Manager)は、生成AIの導入がうまくいかない例として、「導入したものの、実は使われていない」ケースを挙げる。「『とにかく導入したい』という焦りがあって、『何の業務でどのように使いたいのか』が明確になっていない場合が多くみられます」(林氏)

 業務利用で問題になる情報漏えいなどを防ぐために、自社用にカスタマイズした生成AIを導入する企業も多い。しかし、せっかくコストをかけても無料版のChatGPTでも対応可能な「簡単な調べもの」「文章の要約」などから用途が広がらず、やがて使われなくなってしまう企業もあるという。

 こうした失敗を避けるためにどうすべきか。「まずは失敗を恐れず業務で使ってみることが大事です。他社のユースケースを当てはめてみることも有効だと思います。使っていくうちに『この業務で使う場合はこうした方がよい』という改善点が見えてくる。改善を繰り返すうちに、AIによって働き方や業務の進め方、組織の在り方が変わるような段階に至ると考えています」(林氏)

「AIが人間の代わりになる世界」までどのぐらいかかる?

 林氏は生成AIの活用におけるステップアップについて次のように説明した。

  • 第1段階 びっくりGPT: ChatGPT登場当時に、全社で使えるような一般的な業務を想定してカスタマイズなしで導入した企業が多かった。導入スピードを重視し、社内外データとは連携しない
  • 第2段階 ユースケース創出期: 現在、先進企業の多くはこの段階にある。社内外のデータと連携して、人事や設計など専門的な領域における活用を目指す。定型業務だけでなく、ベテラン従業員が担当してきた例外的なケースにも対応できるように業務の標準化を図る
  • 第3段階 AI Driben Enterprise: 生成AIによって働き方や業務の進め方、さらに組織の在り方も変わる。外部や内部のAPIと連携したり、各種のタスク機能を追加したりすることで「生成AIプラットフォーム」を構築する。AIが専門的領域におけるスペシャリストとして自律的に業務をこなす「AIワーカー」が誕生する。一般業務向けには「内製プラットフォーム」を構築し、「Microsoft Office」のような標準ツールとして広く利用されるようになる

図1 生成AI活用の発展プロセス(出典:Ridgelinezの提供資料) 図1 生成AI活用の発展プロセス(出典:Ridgelinezの提供資料)

 現在は、第2段階の「社内データを検索結果に反映させるチャットbotを作りたい」という相談が業界を問わず多くの企業から寄せられているという。全社での汎用的な業務における利用から始め、専門的領域における活用に取り組んでいる企業もある。「製造業では、特許を管理する部門が過去に申請した特許に関する文書をデータ化して検索できるようにしたり、設計記録や機器マニュアルなどをデータ化して検索できるようにしたりといったユースケースも出ています」(林氏)

 Ridgelinezの伊藤清隆氏(執行役員Partner Enabling&Integration)はAI活用のステップについて、「ベテラン従業員しかできないような例外的な処理をいかに標準化できるかがカギになると思います」と話す。そのためには、似たような内容の図表が2つ存在するときに、どちらからどのように処理すべきかといった「人間が瞬時に判断すること」を生成AIが処理できるようになる必要がある。「例外処理で使えるようになれば生産性が飛躍的に向上し、AIが人を代替できるレベルに入ると思います」(伊藤氏)

「自律的なAI」という“夢”

 第3段階の生成AIプラットフォーム化まで進んでいる企業はまだ多くない。ただし、社内外データや他のAIツールとのAPI連携によってプラットフォームを構築している企業もあるという。

 「図に書かれている『自律的なAI』というキーワードは、AIの業界における“夢”です。自律的とは、具体的にはAIが目的のために自分自身で思考して行動することを指します」(林氏)。

 現在は一つの指示に対して複数のタスクを組み合わせて実行する場合、LLMが自律的に思考して実行するのは難しい。しかし、「受注計画を参照する→『Salesforce』からデータを出力する」といった単一の作業を自動化する仕組みを組み合わせることで、あたかもAIが自律的に動いているような振る舞いをさせられる。

 図の中で、上の方は生産部門や開発部門、人事部門などの専門領域に絞った活用方法を、下の方はより汎用性の高い業務に向けた活用をイメージしている。「この段階では、今の『Microsoft Excel』『Microsoft Word』などと同じように、誰もが『Copilot for Microsoft 365』に代表される標準ツールを中心に生成AIを使うようになるでしょう」(林氏)

 では、本当の意味での「自律的なAI」を利用する第3段階に多くの企業が至るまでにどのぐらいの時間がかかるのだろうか。「正直、全く読めません。OpenAIもMicrosoftも毎月のようにいろいろな発表をしているからです」(林氏)

 ChatGPTが登場したときも大きな驚きがあった、と林氏は振り返る。「ChatGPTは従来のアルゴリズムから大きく変わったわけではないけれども、学習させるデータが一気に膨大になったことで、あるタイミングから動きが大きく変わった。『この完成度は今までのAIと全く違う』という衝撃を受け、当社内でもどんどん使っていこうと急ピッチで取り組みました」(林氏)

 技術の進展スピードが急に加速するということがAIでは特に起こり得る。「いつ何ができるようになるか」を気にするよりも、「今の時点でできる限りの体制を進め、いずれ訪れる急激な“進化”に備える」ことがユーザーとして重要といえるかもしれない。

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