情報に関してもう1つ大きな悩みの種が出てきた。コンプライアンスである。
「情報セキュリティ」「個人情報保護」と矢継ぎ早に突き付けられるコンプライアンスの要求は、リスクという視点から情報の重要性を高めてきた。そして2008年に施行ともいわれる日本版SOX法は、これまでよりいっそう高度な情報管理を求めてくる。
情報セキュリティも個人情報保護も、あくまで「情報を守る」という「ブレーキ」の話であった。しかし、SOX法で求められる要件は、それほど単純ではない。図4はSOX法の前提とされているCOSOフレームワークである。このうち情報と関係があるのは「情報と伝達」「モニタリング」の2つだ。
「情報と伝達」とは、経営者・従業員が適切な情報を組織の壁を超えて適時に把握できることであり、コミュニケーションが隅々まで行き渡り、良い情報・悪い情報が共有されることである。すなわち、「現場で起きた不祥事を瞬時に経営者が把握している」といったように、いかに社内の最適な人に最適な情報を流通させるかということが求められる。
一方「モニタリング」は、業務がルールどおりに行われているかチェックすることである。前述のとおりPCや情報共有ツール上で業務処理の大半が行われている今日、そうしたツール上での活動チェックやルール違反のモニターを行い、注意を喚起することが求められるのである。
つまりSOX法が求める環境では、情報流通の「ブレーキ」はもちろんのこと、情報流通の「アクセル」も用意し、「ブレーキ」と「アクセル」の巧みなバランスを取らなければならないのだ。
情報洪水とコンプライアンス──。この2つの環境の変化を受け、企業における情報戦略は第3世代へと移りつつある(図5)。
第1世代は業務にPCが導入され始めた1980年代に登場したもので、この時代は情報処理を効率化することに重点が置かれていた。1990年代後半、ネットワークを通じて情報共有を行う第2世代へと突入、PCが1人1台普及し、電子メール・グループウェア全盛期となった。第2世代「情報共有」の時代は、とにかく情報の量を増やして共有しよう、そうすれば生産性が上がると考えられており、「情報をマネジメントする」という発想はなかった。しかし昨今の情報洪水やコンプライアンスの要求により、情報の量を指向する「情報共有の時代」は終わりを告げ、情報の質を追い求める第3世代の情報戦略「情報マネジメントの時代」を迎えつつある。
「情報マネジメント」とは、情報活用とコンプライアンスの二律背反する概念をバランスさせながら「情報をマネジメントする」ことで情報の質を高め、最適な人に最適な情報を最適なタイミングで流通させることを指す。
「情報マネジメント」によって実現されるメリットは2つある。まず、個人レベルでの情報流通をマネジメントすることで、個人の能力を向上させる。これまで、社内イントラネット、データベース、個人PC、メール、インターネットとさまざまな場所に大量の情報が散乱しており、情報はどこかにあるが必要なときに入手することができない、という状況が発生していた。そこで「情報マネジメント」により必要なタイミングで必要な情報だけがタイムリーに手に入るようにすることで、個人の業務の質とスピードを向上させることができる。
そして、「情報マネジメント」は組織レベルでの情報流通をマネジメントすることで、組織の能力も向上させる。これまでも組織間で情報は共有されていたが、情報発信が一方通行であったり、組織の個別最適に陥りがちであった。「情報マネジメント」により組織間の情報流通を最適化することで、組織間のPDCAサイクルが効果的に回り、個人プレーから連携プレーへ、個別最適から全体最適へのシフトを実現する。
次回は、実際の事例を通じて情報マネジメントがどのように行われるものか、詳説していく。
吉田 健一(よしだ けんいち)
株式会社リアルコム 取締役 マーケットデベロップメント担当
一橋大学商学部卒。戦略系コンサルティングファーム、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンにおいて、国内外の大手企業に対する戦略立案・実行支援のコンサルティングに従事。その後、リアルコムにてプロフェッショナルサービスグループのディレクターとして、ソニー、NEC、ニコン、丸紅など大手企業に対する情報共有・ナレッジマネジメントによる企業変革コンサルティングを手掛ける。主に、情報共有をベースにした全社BPR、企業組織変革を専門とする。これまでに培った方法論と事例をまとめた書籍『この情報共有が利益につながる 〜経営課題に適した4つの実践アプローチ〜』(ダイヤモンド社)を監修。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.