日本人エンジニアはもう要らない? 中国IT大学最前線IT戦略トピックス(Topics: Report)(2/2 ページ)

» 2006年08月17日 12時00分 公開
[大津 心,@IT]
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仮想ベンチャー運営で、起業体験や実務を経験できる

 東軟情報技術学院のもう1つの特徴が、大学生創業センター「SOVO(Students Office & Venture Office)」の存在だ。SOVOは、企画審査に通った学生が仮想的な会社を設立し、運営するものだ。バーチャルカンパニーは取締役会を設置し、CEOやCFOなどを選出する。

バーチャルカンパニー「Sun V-Company」のCEOを務める張氏(仮名)。同氏は将来について、「上海の外資系で3年間働いた後、起業したい」と明確なビジョンを示した

 バーチャルカンパニーは、主に学内からの仕事と学外からの仕事に分かれており、学内の仕事に対しては仮想的な支払いを受け取る。学外からは通常の企業取引と同じ契約をするため、バーチャルカンパニーといえど、優秀な会社には現金収入があり、営業担当学生も存在する。また、売り上げに応じて税金も払っている。納税はSOVOがまとめて代行する。

 請け負う仕事内容は、プログラムなどの受託開発やWebサイト構築などが多いという。また、これらのバーチャルカンパニーは、学園内のeラーニング研究開発センターや東軟創業投資公司、大連ソフトウェアパーク創業投資基金などからベンチャー投資を受けることもできる。

 現在、SOVOで最大規模のバーチャルカンパニー「Sun V-Company」の場合、所属する学生社員は約60名。主に、Webサイト構築やJavaプログラム制作などを行っているという。SunでCEOを務める張氏(仮名)は大学3年生で、「金額はいえないが、外部からの売り上げはある。売り上げは社員で分けている。卒業後は上海の企業に就職し、3年程度社会人経験を積んだら、起業したいと思っている」と夢を語った。

アルパインコースやHPコースで、即戦力作りに注力

 提携企業との協力による、各企業向けコースも特徴的だ。これは、アルパインや東芝、HPといった東軟情報技術学院と提携した企業のことを専門で学ぶコースだ。これらの専門コースでは、それぞれの企業の風土や仕事の仕方、社風までを学び、その企業の専門家・即戦力の養成を目的としたものだ。コース修了後には、その企業への就職が有力になることから、学生にも非常に人気の高いコースになっているという。

 人気が高い分、コースを履修するのも大変だ。コースを履修するための入学試験は、20〜30倍の難関で、1クラス30〜40人程度しか履修できない。さらに、半年間〜1年間の履修後にも履修終了テストがあり、実際にアルパインやHPに就職できるのは20人程度だという。逆に企業から見れば、自社の社風や歴史から仕事の仕方まで就職前に学んできているので、即戦力を期待できるという。

 今回の取材では、Neusoftが経営する東軟情報技術学院を取材したため、産学連携色が強かったが、中国ではこういったIT企業が経営するIT専門大学は非常に多い。さらに、いまでも毎年、数校が全国に建てられているという。東軟情報技術学院のように、「より実践的に、より即戦力を」といった教育方針は、企業には喜ばしい限りだろう。

 学生も競争相手が多いうえに、大学の成績が就職に大きく影響するため、非常に勉強熱心だ。ある外資系IT企業の採用担当者は、「日本人と中国人で優秀な人材が出る割合はおそらく同じだろうから、単純に人口が10倍いる中国の方が優秀な人材も絶対数で10倍いることになる。今後の中国の大学教育や中国人材に多大な期待をしている」と語った。

図書館の様子。ノートPCを開き、予習や復習をしている学生が多いが、中にはゲームをしている学生もいた。また、図書館内の書物をPC上で閲覧している者も見かけた
組み込み系学科が使っている教材の一部。学生はこれを使って実習を習う。これらは、ほとんどベンダ側が無償で学校に支給しているという

 このような授業方針に魅力を感じたり、中国語習得を目指して同校に留学してくる日本人学生も毎年数人〜10人程度いるという。同校では、日本人向けに中国語をトレーニングするコースも用意するなど、受け入れ準備を進めている。同校は、寮の拡張工事を進めているほか、各種授業の種類や組み込みの学習資材の拡充を今後も図ることを検討している。今後もますます産学連携色を強めていく中国の大学から目を離せなくなりそうだ。

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