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» 2006年07月11日 12時00分 公開

成功事例から学ぶ、中国オフショア開発の秘訣IT戦略トピックス(Opinion: Interview)(1/3 ページ)

開発コスト削減を目指して中国オフショア開発に取り組むものの、失敗するケースが多い。失敗しなくても、コスト削減ができていないケースがほとんどだろう。なぜ成功できないのか? 今回は東芝やアルパインと提携し、オフショア開発を成功させている東軟集団(Neusoft)の張氏に話を聞いた。

[大津 心,@IT]

 言葉の壁や習慣の違い、キーパーソンの流出など、さまざまな理由で中国オフショア開発を失敗する企業は多い。一方で、オフショア開発を成功させ、開発コストの削減や中国人材の有効活用に成功している企業も存在する。この特集では、中国オフショア開発を成功させている事例について、キーパーソンへのインタビューや現地のソフトウェアパークや専門大学の様子などを全3回の予定でお届けする。

 第1回目の今回は、中国最大規模のソフトウェア開発グループである東軟集団(Neusoft)の副総裁で、東芝ソリューション(以下、東芝)のオフショア開発責任者でもある張秀邦氏のインタビューを紹介する。

Neusoftのオフショア開発は設計から携わり、品質も問題なし!?

 Neusoftは、中国遼寧省瀋陽市に本社を置くソフトウェアベンダ。1991年に、当時中国の東北大学教授だった劉積仁氏がアルパインと設立した産学協同企業が前身であり、現在も同大学とは強いつながりがある。売上高は2005年で28億人民元(約400億円)、社員数8000人超。中国の瀋陽、大連、南海、成都の4都市にソフトウェアパークを開設し、大連、南海、成都にはIT専門大学を設立、生徒約2万人が在籍している。

Neusoftの副総裁で、東芝ソリューションの責任者でもある張秀邦氏

 売り上げの内訳は、国内向けソリューションが70%、医療分野が18%、アウトソーシング(オフショア開発など)が12%程度で、売り上げの大部分は国内市場向けだ。「国内では、社会保険や携帯電話の料金システムを主に構築しており、これからも伸びるだろう。また、医療分野にも進出し、中国初の自社CTスキャナーを開発・納入した。今後は、豊富な人材を基に、アウトソーシング事業にも力を入れていく」(張氏)と説明した。

 アウトソーシング事業は日本向けの開発が中心で、それらの多くは東芝経由で受ける日本企業が発注したシステムやソフトウェア開発だという。開発に携わるNeusoftのエンジニアは約1000人に上る。東芝との事業は、1996年に両社が合弁会社を設立したころから始まり、その後10年間で延べ約1500案件を実施してきた。2005年における対東芝の売り上げは約20億円で、Neusoftの年間売上高の約5%程度を占める。

 Neusoftと東芝の共同開発分野は多岐にわたり、東芝のAPF(アプリケーションフレームワーク)は共同で構築したという。また、東芝の人事給与システム「Generalist」は、Neusoft側も100人体制のエンジニアを投入して共同開発している。デジタル家電分野にも携わっており、2〜3年前のデジタル放送関連家電の出荷ラッシュ時期には100〜200人体制で開発していた。

 一般的にオフショア開発は、主に下流工程を担うイメージが強いが、張氏は「多くのケースで、Neusoftは基本設計や仕様書作成の部分から携わり、組み合わせ試験まで中国で実施。その後、Neusoftのエンジニアが日本へ行き、東芝の総合試験チームに合流して一緒に試験を実施している」と説明する。品質が基準に満たないものや納期遅れも、「この5年間はほとんど問題なくなっている。現在では、多少のバグが発生して修正する程度で済んでいる」(張氏)とアピールした。

オフショア開発成功のキーポイントは“信頼関係”

 張氏は、オフショア開発に向いているものを「その国特有の部分を除いた各国で“共通な部分”だ。こういった部分は、世界中どこで開発しても同じなのでオフショアに向いている」と説明する。しかし、共通部分をオフショア開発する場合でも、特有部分とのつなぎ合わせ作業などが発生する。その部分で予想以上の工数が掛かり、結局割高になってはオフショア開発のメリットを享受できない。

 張氏はそういった問題を発生させないためには“ピッチャーとキャッチャーのキャッチボール”が大切だと強調する。東芝とNeusoftは、東芝のエンジニアが中国に駐在し、Neusoftのエンジニアが日本に駐在するエンジニアの交流を、ここ2〜3年間実施している。交流によって、お互いの国や企業の文化的な相違を感じられるほか、技術レベルの向上も図れるという。

 また同氏は、オフショア開発やアウトソーシング事業のポイントを“信頼関係”だと断言する。信頼関係は、人格に関するものはもちろんのこと、技術力への信頼も重要だという。例えば、中国でオフショア開発を受託する企業の中には、技術レベルが伴っていない場合でも受注したい一心で請け負い、結果的に失敗するケースもあるという。

 このようなリスクを回避するためにも、受注側企業は第三者機関に技術力を査定してもらい、公平な評価を受けることが重要だとした。Neusoftでは、第三者の評価に基づいて同社の強みや弱みを東芝に情報提供し、両社で共有している。そのうえで、両社の弱点を補い、長所を生かす取り組みをお互いで行っているという。この両社が共有し、協力し合う点は非常に重要だと張氏は強調した。

 具体的にNeusoftでは、2つの点を強化した。1点目は日本語だ。張氏は「コミュニケーションの第一は会話。日本語の習得は日本企業と開発作業をやるうえで重要だ」と断言する。張氏自身、日本語を流ちょうに操り、インタビューでも不自由していない。日本語以外にも、商習慣から食文化まで広く日本のことを学ぶことで、一層コミュニケーションに深みが増し、開発をスムーズに進めることができるという。

 2点目はPMO(Project Management Office)の体制作りだ。PMOとは、組織の中に存在する複数のプロジェクトを最適化して作業の効率化を図ったり、プロジェクトを横断的に調整する組織を指す。このPMOをきちんと機能させ、第三者がプロジェクトをチェックできるようにすることで、レベルの高いプロジェクト進行が可能になるという。そのほか、Neusoftでは、QA(Quality Assurance:品質保証)のメンバーを置くなど、品質管理に注意しているとした。

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