成功事例から学ぶ、中国オフショア開発の秘訣IT戦略トピックス(Opinion: Interview)(3/3 ページ)

» 2006年07月11日 12時00分 公開
[大津 心,@IT]
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良い人材の安定も重要なポイント

 張氏はオフショア開発成功のポイントとして、「信頼関係の構築」に続き、「人材の安定」を挙げた。Neusoft自身も5〜6年前にリーダー級人材の離職に悩み、さまざまな施策を行った結果、多くの中国ベンダが10〜50%という高い離職率に悩む中、Neusoftでは1けた台をキープしているという。

瀋陽のソフトウェアパーク内にある独身寮。このほか、幹部や家族向けには低層マンションや戸建て風の社員寮も用意されているという

 具体的にはストックオプションの付与やさまざまな福祉施策の提供を行っているが、「しかし、やみくもに給料を上げるのはリスクが上がるだけだ。実際、給料を上げ過ぎて倒産する中国企業も多い。当社では自社の身の丈に合った、20年後を考えたマイペースなプランを実行している」と説明する。しかし、実際このような思想だけでは、外資系企業などに良い人材を持っていかれてしまう。そこでNeusoftでは、やる気のある人材に積極的にチャンスを与えているという。

 例えば、ある新卒社員が1年目からプロジェクトリーダーを希望し、「自分の能力なら必ずやり遂げられる」といった場合、本人のやる気次第では実際にやらせるのだという。見事成功すれば大きな自信につながるし、失敗した場合にはきちんとフォローしたうえで失敗した原因を分析させ、次回につながる教育を施すという。当然その間、上司はその社員がきちんとリーダー職をこなせているかチェックしている。

 こうして、やる気のある人材に思い切ってチャンスを与えることで、「この会社で努力すれば報われる。自分の能力を伸ばすことができる」と感じさせることができる点がポイントだと張氏は指摘する。そうすることで、多少の給料差があったとしても、なかなか人材流出につながらないとした。

気になるエンジニアの給料や待遇は?

 では、中国人エンジニアが魅力を感じるNeusoftの具体的な待遇はどのようなものなのだろうか。

 まず、Neusoftの開発チームは技術者グループと業務グループに分かれている。開発チームはプログラマやエンジニアを中心にしたチームだ。業務グループは、日本の業務を理解したプログラマが入ることができるグループで、プロジェクトリーダーや部長になることができる管理者チームだ。技術者グループはレベル1〜7に分かれており、C言語やJavaなどのプログラム言語のスキルはもちろんのこと、日本語のレベルなどがすべてランク分け・点数化されており、それらのスキル点数の合計でレベルが決まる。

 おおよそ、新卒から3年以内は普通の「プログラマ」で、3年以上5年以内になると「シニアプログラマ」、5年以上は「SE(ソフトウェアエンジニア)」「SSE(シニアソフトウェアエンジニア)」と上がっていく。

 このように、プログラマ、エンジニアとしてレベルを上げつつ、日本の商習慣や業務内容などを理解すると、業務グループへレベルアップできる仕組みだ。業務グループに入るとさまざまな手当などが付き、待遇面もかなり良くなるという。こうやって、具体的なスキルマップを提示することにより、エンジニアのモチベーションを高めることで離職率を抑えているのだ。

 実際の給料やコストを、Neusoftで通訳を務めるA氏(勤続7年)に聞いてみたところ、ソフトウェアパーク内の独身寮は、1階と4階が男子で2〜3階が女子というようにフロアごとに男女が別れており、向きや広さによって異なるもののおおよその寮費は月300〜400元程度、食堂の昼食は10〜20元、A氏くらいの年齢だと給料はおおよそ2000〜3000元程度だという。独身寮なので、結婚すると町の中心部のマンションに引っ越すケースが多いが、その場合には寮の数倍の賃料を払う必要がある。このことからも、同社の若手社員が手厚く守られているのが分かるだろう。

 このような数々の福利厚生施策は、NeusoftのCEO 劉積仁氏が掲げる「ソフトウェア開発会社にとって、最も重要なのは人材だ」という思想に基づいている。劉氏は中国の優秀な若いエンジニアを多く育てることで、「世界のソフトウェア開発における人材のダイナモになりたい」(劉氏)との目的を持っている。

 次回は、劉氏が人材育成の柱として中国の大連、南陽、成都の3カ所に設立したIT専門大学のうち、約1万人が在籍し、最大規模の大連校の様子をお伝えする。

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