成功事例から学ぶ、中国オフショア開発の秘訣IT戦略トピックス(Opinion: Interview)(2/3 ページ)

» 2006年07月11日 12時00分 公開
[大津 心,@IT]

苦労するのは仕様書の理解と、日中の常識の違い

 いまでは東芝やアルパインを代表とした多くの企業とのオフショア開発を軌道に乗せているNeusoftだが、提携を始めた当初は多くの苦労があったという。張氏は、苦労した点に「仕様書の理解」と「日中の常識の違い」を挙げた。

Neusoftの瀋陽ソフトウェアパーク内にあるゴルフ練習場。仕事の合間に利用することができる。このほか、ダンスホールなどの娯楽施設も完備している

 仕様書の理解については、まず「エンジニアは基本的に頭に浮かんだことを文章にするのが苦手なのだが」と前置きしたうえで、一番苦労したのは日本独自の専門用語が理解できなかった点だという。

 次に日中の常識の違いでは、例として「企業年度の違い」を挙げた。日本では一般的に企業年度というと、4月から始まり3月で終わる時期を指す。しかし、中国では企業年度というと、1月で始まり12月で終わるのが普通だ。従って、日本企業の仕様書に「2006年度の売り上げを個別に集計して……」と書かれてあると、中国人エンジニアは2006年1月から12月までの売り上げを個別に集計してしまい、発注側の意図とずれてしまうケースなどがあったというのだ。このような場合、中国人エンジニアは自身の常識で「2006年度=2006年1〜12月」と考えており、まさか2006年4月から2007年3月までを指しているとは思ってもいないのだ。このような常識の違いを擦り合わせるのは、意外と手間の掛かる作業だったと張氏は指摘した。

 また、漢字による思い込みもあった。日本と中国はともに漢字を使っているが、同じ漢字でもニュアンスの違うものが多くある。従って、仕様書に書いてある漢字のニュアンスが日中で違う場合でも、中国人エンジニアの思い込みで意味を間違えてしまうケースがあるという。


オフショア開発を手掛けると、日本企業は苦労が増える!?

 張氏の話を聞いていると、オフショア開発のメリットに関する話が目立つ。デメリットはないのだろうか。その点について張氏に聞いてみると、「デメリットというか、日本企業相手に発注するのと、オフショア開発に発注するのでは管理工数がかなり増えるのが実情だ」と断言した。

 日本企業が開発会社へ発注を出す場合、受注した会社は仕様書を見て分からない部分があると、自分から発注元の会社へ出向き不明点を洗い出す。発注側は、いわゆる“丸投げ”をしても、後は受注側の企業が発注企業の意図をくんで作ってくれるのだ。まさに“至れり尽くせり”の状態だ。一方、オフショア開発では、仕様書作りからしてきちんと作らないと、意図しないものが出来上がったりするので、中国チームを管理する工数や仕様書をきちんと作る手間などが増えるという。

家電製品の組み込み開発はまだ難しい

 家電製品などを代表とした組み込み開発も、まだオフショア開発では難しいという。「現状では、DVDレコーダーなどの家電製品における組み込み開発をオフショアで行っているケースは少ない。協力する場合でも、こちらから技術者を日本に送り込んで、日本側で開発するのがほとんどだ」(張氏)というのが現状だ。

 その理由として、第1に開発環境の整備が挙げられる。DVDレコーダーなどの最先端の情報家電は、まだ開発手法も発展途中であり、日進月歩の状態だ。従って、開発環境も日夜改良されており、中国側に持ってくるのが難しいという。アプリケーションの開発などは、すでにある程度の開発手法が確立されているため、オフショア開発でもやりやすいのだ。

 実際の開発過程も、設計→試作品の制作→設計見直し→試作品の作成……を繰り返す手法が多いため、中国で行うのが難しい。特に試作品はトップシークレットなので、外部への持ち出しは難しいことも影響しているという。張氏は、「情報家電の組み込み開発については、日本企業側が開発環境などを改革しないと、まだオフショア開発に移行するのは難しいだろう。現在の組み込み開発は職人芸のように、エンジニアの感性のようなものに頼っている部分がある」と指摘する。

ライバルは日本国内の中小企業

 東芝と長年にわたってオフショア開発を成功させてきた張氏が考えるオフショア開発のポイントはなんだろうか。その点について、「当面はやはり、コスト削減を一番求められるだろう。しかし、1回だけ発注して終わりではあまり効果がない。何度も実施することで意思の疎通が向上して管理コストなどが減り、結果としてよりコストダウンが可能になるのだ。この点を勘違いしている企業が多いのではないか」と指摘する。

 2番目のポイントは、プロフェッショナルなサービスの提供だ。張氏が主張するように、日本企業と良い関係を築いて信頼関係を深めるためには、レベルの高い技術とサービスが必須だという。レベルの高い技術にコミュニケーションが加わることで、日本企業の信頼を勝ち得るというのだ。

 このような点を考えると、Neusoftのライバルは中国のオフショア企業ではなく、日本国内の中小企業だと張氏は説明する。日本の中小企業もコスト削減の努力を継続しているうえに、当然日本企業、日本人というメリットがある。日本の発注元企業は、コストの削減度合いとコミュニケーションのしやすさなどをてんびんに掛けて、どちらに発注するか決めるケースが多いというのだ。「コストを重視するのであれば、まだ中国オフショア開発に軍配が上がるが、サービスに重きを置いた場合にはどうしても日本企業に対抗するのは難しい」と張氏はオフショア開発の難しさを口にした。

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