責任を押し付ける上司と、泥沼の四角関係目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(8)(3/4 ページ)

» 2007年06月26日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]

さよなら三角、またきて四角?

 坂口と天海は新宿西口の高層ビルの最上階にあるレストランで食事をしていた。天海は本社の近くで飲むつもりだったのだが、坂口が新宿に良い店があるといって誘ったのだ。少しでも早く谷田たちに合流できるように坂口が思案したのだ。

天海 「ところで、さっきいってた部分リリースというのはどういう意味なの?」

坂口 「実は、八島さんが機能を分ければ、全部の要件定義が終わらなくても開発が始められるといい出したんです」

天海 「なるほど、彼の考えそうなことだわ。それで?」

坂口 「基本となるデータは既存のシステムから入手できるから、それは俺に任せてサービス部分だけ君が考えろといわれたんです」

天海 「ふ?ん、どうも聞いていると、坂口くんはその案にあまり賛成ではなさそうね」

坂口 「要件定義がまとまらなくて設計に入るとトラブルが発生するに決まっているんです。だから、しっかり準備をして……」

天海 「その答え、教科書どおりだと正解だけど、時間はないわよ」

坂口 「そのとおりなんです。だからこそ、何か良い知恵はないかとご相談したかったのです」

天海 「いつもの坂口くんらしくないわね。困難に立ち向かってそれを何とかするのが君の良さじゃないの!」

坂口 「そうはいっても、経験がないんです。どうしたらいいか」

天海 「経験ね。初めてのときは誰でもそう思うわ。じゃあ逆に聞くけど、初めてのときは誰かが指導してくれない場合、物事は進まないの?」

坂口 「いえ、そんなことはありません……。そうか!! 誰でも初めてのときはあるんですよね! 経験がなければアイデアや足でカバーすればいいんだ。営業のときと一緒だ!」

天海 「そのとおり。とはいっても簡単にはいかないわ。経験がない分、生みの苦しみは大きいわよ」

坂口 「でも、何もしないよりマシです。天海部長ありがとうございます! 早速会社に戻って資料を見直します」

天海 「あのねぇ、私と2人で食事していてそれはないでしょ。私も仕事人間だけどあなたには負けるわぁ」

坂口 「すいません、でも、思い立ったら吉日ですから!」

天海 「あなたも古いわね。半日ぐらいロスしたって問題ないでしょ。今日は私に付き合いなさいよ」

坂口 「はい、分かりました。よろしくご指導お願います!」

 坂口は少し照れくさそうにいうと、天海との食事を楽しんだ。天海も自分の経験で参考になりそうなことをかいつまんで坂口に話した。天海も坂口のプロジェクトが進むことは自分にもプラスになる。何より自分の見込んだ人間の成長を手助けできるのはうれしい。

 2人は仕事人間という点では共通しているため、仕事の話を中心にだんだんと会社の批判で盛り上がった。2人とも久しぶりの開放感で結構速いピッチで酒を飲んだ。

 一方、伊東と谷田は、西口の小さな居酒屋でミニ残念会を開いていた。2人というシチュエーションもあって、伊東は終始舞い上がりっ放しだったが、谷田は落ちたショックだと勘違いして、いろいろな言葉を掛けて慰めていた。伊東は緊張をほぐすためにあまり飲めない酒を飲んで、すっかり酔っ払っていた。2人は、食事が終わると酔いを冷ますために新宿中央公園を歩いていた。

伊東 「しゅ、しゅいませんでした!! 谷田さんは本当に優しいですね。それにシスアド試験も余裕で合格できたし」

谷田 「そんなことないですよ。ただ、松嶋さんとか見てると頑張らなきゃと思うだけなんです」

伊東 「松嶋さんか、きれいな人ですよねぇ。でも、ちょっと怖そうですよ。僕なんかすぐ怒られそう」

谷田 「伊東さん、もっと自分に自信を持った方がいいですよ。自分が不安だと周りも不安になりますから」

伊東 「そうですか。でも、自信を持てるような能力もないんで」

谷田 「いえ、その誠実で頑張る姿は、立派な能力ですよ」

 伊東は谷田に慰められているうちに、自信が少しずつわいてくるとともに谷田が傍らにいてくれれば、きっとうまくいくに違いないと強く思った。

伊東 「たっ、たっ、谷田しゃん!」

 顔を紅潮させ、直立不動の状態になると、谷田に向かっていつにない真剣なまなざしを向けた。谷田もその様子にただならぬ雰囲気を感じながらも笑顔で応えた。

谷田 「はい?」

伊東 「ぼぼぼ、ぼっ、ぼ、ぼきゅとお付き合いしてくだしゃい!!」

谷田 「えっ!?」

 あまりの真っすぐな思いに、戸惑いを隠せない谷田だった。伊東はその戸惑いを断られる間だと思い、顔を真っ青にしながら、

伊東 「あ、あ、あっ、友達からでいいですから。というか、試験終わった後でも携帯に電話やメールをさせてください」

 過去の体験から伊東はすぐに守りに入り始めた。直球を投げてうまくいったためしがなかったのを思い出したのだ。しどろもどろになる伊東を見て、少し落ち着いた谷田は、きちんと伊東の方に向き直って、

谷田 「はい、携帯への電話やメールはいいですよ。それに、伊東さんとはもう友達でしょう?」

 谷田はにっこり笑って、伊東を落ち着かせようとした。伊東はそれを聞き、天にも昇る気持ちで、顔を紅潮させた。

谷田 「でも、お付き合いは無理です。私、好きな人がいるんです」

 その途端、伊東は、再び真っ青になった。

伊東 「あっ、しゅ、しゅいません! お付き合いしている人がいるとは思わなかったんで! でも、谷田さんなら、いて当然ですよね。こんなに美人で優しいんですから。僕って何も考えていないからなぁ。本当にすいましぇん!」

谷田 「いえ、付き合っているといってもきちんとした形ではないんですよ。むしろ、私の片思いというか、友達状態から抜けていないような感じなんです」

伊東 「えっ???!! 谷田さんを友達扱いできるんですか。谷田さんの思いを感じたら、僕なんて即OKですよ! 女神さまにいわれて、OKできない人なんかいないですよ!」

谷田 「そんなに私を褒めないでくださいよ……。私も普通の女の子なんですから」

伊東 「違います。僕にとっては女神さまです」

 伊東も酔いに乗って、どんどんいうことが大胆になってきた。谷田も合格した解放感か日ごろ人には話さないことをつい話してしまった。

谷田 「でも、その人は本当に私の気持ちを分かっているのか分からなくなってきてるんです」

伊東 「谷田さんを困らせるなんて。何てやつだ! そんなやつは男の風上にも置けないです」

 伊東はそれが自分の上司であることも知らず、いいたい放題だ。谷田は少し苦笑しながら

谷田 「でも、本当はあったかくて優しい人なんです。でも、ちょっと仕事に夢中になっちゃうのが寂しいんです……」

伊東 「僕は谷田さんに夢中です。そいつは、ぜいたくなやつですね。こんなきれいな人がいながら、仕事に夢中なんて!!」

 なんだか近くにそんな人間がいたような気もしたが、酔っ払っているので谷田の興味を引くことに精いっぱいの伊東だった。ふと周りを見回すとカップルばかり。ますますヒートアップする伊東は少し離れたところに空いたベンチを見付けると勇気を出して、谷田にいった。

伊東 「そっ、そこのベンチにすっ、座りましぇんか? あっ、取られちゃった」

 見ると、少し長身のカップルが先に座ったようだ。女性の方が少し酔いがひどいらしい。男性の方が介抱しているが、はた目から見ると抱き合っているようにも見える。伊東はもともと目が悪い上に夜目だ。

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