連載
» 2007年12月06日 12時00分 公開

第1回 エンタープライズサーチと6つの罠ここから始めるエンタープライズサーチ

エンタープライズサーチの導入を検討する段階でいくつかの課題(陥りやすい罠)が出てきます。これらの課題を解決しなければ、エンタープライズサーチを導入しても、効果的な情報検索の実現という最終目標は達成できないと考えていいでしょう。

[秋本尚吾(ファスト サーチ&トランスファ),@IT]

最近のテレビCM

 いまやテレビで「詳しくは○○○で検索!」といった検索窓を表示する手法を使ったCMを見ない日はありません。これは、一般家庭で携帯電話やパソコンを使った検索が日常的に行われていることを表しています。

 このように、「欲しい情報を検索という手段ですぐ得られる」というのは便利この上ありません。CMで流れた○○○というキーワードを検索ボックスに入れて検索ボタンを押せば、インターネット上に数多く存在するWebサイトの中から見たい商品や知りたい場所の情報がすぐに得られます。同じようにすれば企業の中でも欲しい情報(および情報源)が検索して得られて便利だ、と考えてもおかしくないと思います。調査会社ガートナーは、「消費者向け技術の企業利用(Consumerization of IT)」を提唱しており、その1つに検索(Search)を挙げています。

 しかし、話はそう簡単ではありません。

 皆さんの企業において、仕事上で必要な情報が(例えば、何らかの情報検索の手法を使って)ただちに得られる、という人がいらっしゃるのなら、その人は非常に有能な部下または秘書を雇っているか、今日の企業が最も困っている問題を解決しているたいへん素晴らしい会社です(後者であればぜひご一報ください)。

 調査会社の米IDCによると、企業内の情報検索に従業員の就業時間の約3割を(検索結果の分析まで含めるとそれ以上の時間を)費やしているとされています。これを定量的に見てみると、平均年収500万円で従業員数が100人の会社では、500万円×0.3×100人=1億5000万円 という経費を1年間に費やしていることになります。このコストを企業内の検索(以降ではより一般的な「エンタープライズサーチ」と呼びます)の導入で例えば5分の1ほど減らすことができれば、年間で3000万円のコスト削減につながるということになります(「The Hidden Costs of Information Work」 :米IDC, April 2006)。

 現在、エンタープライズサーチが注目されているのは、上記のような(企業内情報検索の)問題に対して、画期的な解決策を提示すると言われているからです。

エンタープライズサーチ導入時の課題

 それでは……と、エンタープライズサーチの導入を検討するわけですが、エンタープライズサーチの導入においては、以下に挙げるようないくつかの課題(あるいは陥りやすい罠)が出てきます。これらの課題を解決しなければ、エンタープライズサーチを導入しても、効果的な情報検索の実現という最終目標は達成できないと考えていいでしょう。

課題その1. 欲しい情報をすぐに得られない

 実は、テレビCMの場合、特定のキーワードで検索をするとそのCMサイトがランキングの上位になるようにあらかじめ設定されています。しかし、エンタープライズサーチではそういうわけにはいきません。特定のキーワードで検索を行うと、数万件〜数十万件という膨大な検索結果が出てきてしまい、結局本当に欲しい情報にたどり着けない、または時間がかかるというケースが多く見られます。

課題その2. 増え続ける情報源

 インターネット上の検索サイトでは、検索対象となるのは公開されているWebサイトだけですが、エンタープライズサーチでは、検索対象は社内のファイルサーバ、データベース、メールサーバ、グループウェア、ERPシステムやCRMシステムなどなど多岐に渡ります。さらに、パッケージ製品をそのまま利用するのではなく、パッケージ製品を大きくカスタマイズしたシステムであったり、独自に作成したシステムもあります。最近では、社内ブログが開設されたりするなど、検索対象となるシステムの規模は年々巨大化していっています。

課題その3. 多彩なデータフォーマット

 インターネット上の検索サイトでは、検索対象となるデータのフォーマットはHTMLか、一般的なフォーマット(例えばPDF、Microsoft OfficeやOpenOfficeフォーマットなど)に限られます。一方、エンタープライズサーチでは、これらのフォーマットに加えて、CADの独自フォーマットなど多岐にわたります。

課題その4. 企業内特有のキーワードの存在

 テレビCMの場合、(スポンサー企業から)検索すべきキーワードが視聴者に与えられます(「このキーワードを入力してクリック!」というように)。エンタープライズサーチでは、当たり前ですが、検索すべきキーワードは企業のユーザーが自分で考えて入力します。入力すべきキーワードを思い付けばいいですが、なかなか思い付かないケースが多いのが実情です。また、企業内だけで通用する略語や製品名など、あらかじめ知っていなければ使えない特殊なキーワードも存在します。

課題その5. セキュリティの不備

 セキュリティに関しては、エンタープライズサーチ自身に課題があるというよりも、エンタープライズサーチの導入によって既存の情報源のセキュリティ設定の不備が顕在化するケースが多くなります。例えば、部門だけで使用するからということで誰でもアクセス可能なファイルサーバを使用しているケースです。この場合、エンタープライズサーチ製品のセキュリティ機能の利用とともに、ファイルサーバの設定の変更も必要となってくるでしょう。

課題その6. 費用対効果(ROI)が見いだせない

 高価な費用を出してまでエンタープライズサーチを導入することに意義を見いだせないという意見もあります。例えば、既存のリレーショナルデータベースの検索にSQLを使用せず、エンタープライズサーチを導入することでリレーショナルデータベースの負荷を軽減し、リレーショナルデータベースに使用されるハードウェア(および関連するライセンス)の削減を行っている企業もあります[*]。

[*]筆者が属するファスト サーチ&トランスファではこれを「データベース オフローディング」と呼んでいます。ハードウェアの台数を3分の1にし、検索パフォーマンスを3倍にしている企業もあります。

そして、そのサービスを使用するユーザーは誰なのか?

 以上のような課題に加えて、エンタープライズサーチにはほかの企業内システムとは異なる大きな特徴があると考えられます。

 (エンタープライズサーチと)ほかの企業内システムとの最も大きな違いは、この「サービスを使用するユーザーは誰なのか」を起点に構築を検討するということにあります。

 多くの企業内システムは、一般的にユーザーではなくコンテンツを起点とし、「どういったコンテンツがあるのか」「そのコンテンツからどうやってサービスを提供するのか」を考えていました。例えば、ビジネスインテリジェンスの機能を一般の企業内ユーザーに提供する場合、IT部門の人が企業内で利用可能なコンテンツ(例えばRDBMに格納された自部門の売上データ)を集計し、見やすいグラフに変換してポータルのページに置き、ユーザーに通知して見せていました。どちらかといえば押し付けられるシステムであり、ここにはユーザーの希望というものはあまり反映されていませんでした(反映されるといってもUIの使い勝手ぐらいでしょうか)。

 一方、エンタープライズサーチの場合に同様の導入方法ではうまくいきません。コンテンツがどこに存在し、どういったサービスを提供すればよりよいサービスとなるのか、といったことはユーザーを視点に考えなければ導き出せません。上記の課題1から5まではこのユーザーからの視点で出てくる課題でもあり、この解決によって課題6も解決されていきます。

ALT サービスを使用するユーザーは誰なのか?

 次回は、ユーザーの視点に立ちながら、エンタープライズサーチによってこれらの課題がどのように解決されるのか考えてみましょう。

著者紹介

▼著者名 秋本 尚吾


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