第1回 100のプロジェクトに優先順位を付けるプロジェクト・ポートフォリオ管理の基礎(1/2 ページ)

この連載では、1回目にプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールが求められるようになってきた背景、すなわちCIOが抱える課題に触れながらプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールが果たす役割について述べる。2回目でプロジェクト管理ツールが持つ機能を説明し、3回目にプロジェクト管理ツールを使いこなすための留意点について取り上げていく予定である。

» 2008年01月29日 12時00分 公開
[小林秀雄,@IT]

 CIOとCIOを支えるIT部門には社内のさまざまな事業部門から新しい案件が幾つも寄せられる。いまや、ビジネスプロセスはITの関与なしに成り立たない。しかし、IT関連予算には一定の枠がある。そのため、CIOは数多くの案件のうち、どの案件を優先すべきかを判断することが求められる。その際にCIOは、自社の企業戦略を基軸として多くの案件を評価しているのだが、その評価を公平に下し、社内のステークホルダーである事業部門の納得を得ることは容易なことではない。そんな課題に直面しているCIOやIT部門を支援するツールとして米国で活用が始まっているのがプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールである。

増加の一途をたどるIT関連プロジェクト

 企業の戦略に合致し、企業の競争力を強化させるためのIT投資をしたい――。企業のCIOやCIOを支えるIT部門のスタッフは常々そう考えていることだろう。だが、同時に、IT部門で仕事をしている多くの人たちは、それを実行することが容易でないことも実感しているのではないだろうか。ネットワークやサーバの増強といったITインフラに関する投資決定ならIT部門が起案して、経営トップの承認を得れば粛々と進めることができる。ITインフラへの投資はIT部門自身が計画してコントロールできる性格のものである。しかし、事業部門が起案するITシステムの開発案件となると、様相が変わらざるを得ない。

  営業部門や製造部門、会計部門など多くの社内ステークホルダーからIT部門に幾つも提示される案件のうち、どの案件が「戦略的」なのかを判断して、案件に優先順位をつけ、経営トップに提示することがCIOに期待される役割だろう。こう書いてしまうと簡単だが、それは困難な作業に違いない。

 その背景として第1に、あらゆるビジネスプロセスがIT上で実行されるようになってきたことが挙げられる。それに伴って、CIOに寄せられる案件の数も増加の一途をたどっている。

 第2にどの案件が戦略的なのかを明確かつ公平な基準で各ステークホルダーに示すことが要求されるからだ。案件の採否に納得が得られなければ、CIOに対する信頼が揺らぎかねない。CIOにとっては、公平に判断することは大切なテーマといえるだろう。CIOが直面しているその2つの課題の解決に道を開くソリューションとして米国で注目されているのがプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールである。

 読者は、プロジェクト管理ツールには馴染みがあっても、プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールという言葉は耳にしたことがないかもしれない。プロジェクト管理ツールの主な目的は、現在進行形のプロジェクトの進捗状況を可視化することだ。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールにもその機能はあるのだが、その主要目的は、プロジェクトをスタートさせる前に行う「どのプロジェクトを採用すべきか」と悩むIT部門を支援することにある。

 当たり前の話だが、IT関係の予算は限られている。その予算の枠で最大のリターンを得たいと経営者、CIO、IT部門も考える。そのプロジェクトの選定に際して、IT部門が抱える悩みの1つは、プロジェクトの数が多いことだが、そこで有効なのがポートフォリオの考え方である。ポートフォリオという言葉は、資産運用の実績を見るときに使われている。投資家は幾つもの金融商品に投資していることが多いが、どの商品がどういう実績を上げているかを同一のテーブルにのせて一覧で見せる表がポートフォリオといっていい。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールの場合も同じである。

 「会社の中で50から100のプロジェクトが走っている場合、プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールを使用することが必要となる」。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールを日本市場で展開している日本HP、日本IBM、日本CAなど各社の担当者はこう口をそろえる。

 案件の数が1ケタなら、表計算ソフトを使って社員個人の頑張りで何とかなるかもしれない。実際、そういう企業が多いようだ。だが、案件の数が数十になると個人の管理能力を超えるといわれる。それでも、ほかに適切な道具がないために、IT部門のスタッフは表計算ソフトを頼りにしているのが多くの企業の現状だ。

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