第1回 100のプロジェクトに優先順位を付けるプロジェクト・ポートフォリオ管理の基礎(2/2 ページ)

» 2008年01月29日 12時00分 公開
[小林秀雄,@IT]
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採否の判断における公平性をいかに担保するか

 表計算ソフトでプロジェクトを判断・管理する場合の問題点は2つある。1つは、担当社員が、評価項目や評価点数にいかに公平を期しても、そのアウトプットが個人的な営為と見なされやすいことだ。もう1つの問題点は、プロジェクトがスタートした後にある。それは、膨大な数のプロジェクトが進行したり、終了するプロセスで、各プロジェクトの成功度を評価することが個人技ではカバーしきれないということだ。開発すべき案件を吟味することから、開発した案件を評価することまで継続的に実行することが望ましいわけだが、Excelではそこがやりにくい。組織としてそれを可能にするのがプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールといえる。

 上述した2つの問題のうち、まず、第1の問題を押さえておこう。

 ステークホルダー間の調整は、IT部門にとってかなり厄介なテーマである。事業部門長が、事業部門の責任者であり、事業部門のために行動し、発言する。それは当然のことといえるが、ヒト・モノ・カネというリソースには限りがあるから、提出された案件すべてを採用するわけにはいかない。おのずと絞り込む作業が必要となる。だから、ある案件をなぜ採用したのか、あるいはなぜ採用しなかったのか、「企業は戦略的かつフェアに意思決定できる基準を決めないといけない」のだ(日本HP、ソフトウェア統括本部ソフトウェア・マーケティング部BTOソリューションスペシャリストの松木仁氏)。それは、採否における公平性を担保することであり、そこにプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールの役割がある。

 プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールの機能については第2回で取り上げる予定だが、このツールの特徴は、(1)多数のプロジェクトを同一のテーブルにのせて一覧できるようにすること、(2)同一の評価項目によって点数を付けて優先度の高い案件を示すことにある。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールには、プロジェクトが生み出す効果やプロジェクト実行に必要なリソース、所要期間、リスクなどの指標項目がテンプレートとして用意されている。各指標に点数を付けるとプロジェクトごとに総合評価が示される仕組みを持っている。それによって、戦略的なプロジェクトを公平に抽出することを支援するわけである。

 IT部門に持ち込まれる案件に優先順位を付けるためには、戦略性はもちろんだが、案件を実行した際に得られる収益や実行にかかる費用、開発期間、さらにはリスクなどの評価項目を設定して総合的に優先度を判断することが求められる。日本HPの松木氏は、「評価項目が6項目以上になると評価作業は大変なものになる」と語る。

採否の判断から成否の評価に至るトータルなプロセス構築が求められている

 デマンドフェイズの後工程、すなわちゴーサインが出されたITプロジェクトの進捗をマネジメントすることもIT部門にとって大きな負荷となっている。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールは、プロジェクトのスケジュール、必要なリソース(人材やコスト)を可視化する機能を持っている。この機能は、各事業部門から上がってくる要求をジャッジするために必要なものだが、進行中のプロジェクトにも有効だ。

 プロジェクトが思い描いたとおりに進むことはまずないというのが多くの企業の現状だ。稼働間近になって、スケジュールに間に合わないことが判明し、人材をかき集めて何とか事なきを得たという話は珍しくない。そうした事態を招く要因の1つは、開発現場とマネジメント層とのコミュニケーションギャップが存在していることだ。例えば、上司が「開発は順調か」と質問すると、遅れ気味なのに 責められたくない部下は「問題ありません」と答えてしまう。そんなコミュニケーションギャップがプロジェクトを遅らせてしまう。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールを利用すると、スケジュールはもちろん、その時々のタイミングでどんなリソースが必要かといった情報をCIOやマネジャー層が一覧で共有・把握できる機能を持っている。その結果、「プロジェクトが火を噴いてから消火作業をするよりコストが掛からない。また、現場にとっての支援ともなる」と期待される(日本IBM、ソフトウェア事業ラショナル・テクニカル・セールス主任ITスペシャリストの岡本修治氏)。

 前述したように、個人技ではカバーしきれない第2の問題がある。それは、どのプロジェクトを推すべきかを指標によって公平に判断し、開発に取り掛かったら進捗度を的確に把握し、最後にプロジェクトの成功度を評価するというトータルなプロセスを回していくことである。こうしたプロセス自体はどの企業にもあるはずだが、必ずしも明確なプロセスとして確立されていない企業が多いようだ。「リピートして改善できるプロセスとして確立することが大切」と指摘する(日本CA、マーケティング部ビジネスユニット・マーケティングのマーケティングマネジャー国和徳之氏)。リピートできるということは、流れに沿って自然に上述したプロセスの改善を続けていけるということでもある。

 企業は、そうした仕組みを組織として構築すべきではないだろうか。そうすれば、全体として適切にかつスムーズにITプロジェクトに関する意思決定が行えると期待される。また、そういう仕組みがなければ、CIOは、「案件の海」にのみ込まれて身動きができなくなってしまうだろう。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールは、その海を泳ぎ切るための道具として登場したものといえる。

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