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» 2008年02月04日 00時00分 公開

【インタビュー】ソフトウェア定量化研究の権威に聞く:「ソフトウェア産業には大事なものが欠けている」、ケイパーズ・ジョーンズ氏

[吉村哲樹,@IT]

 2008年1月30日〜31日の2日間にわたり、目黒雅叙園(東京・目黒)で「ソフトウェアテストシンポジウム 2008 東京」(JaSST'08 Tokyo)が開催された。同イベントは、NPO法人ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)の主催により毎年開催されているもので、今年もソフトウェアのテストや品質に関する多くの講演・事例発表が行われた。

 同イベントの基調講演は、ソフトウェア開発における定量化研究の先駆者、ケイパーズ・ジョーンズ(Capers Jones)氏が務めた。ジョーンズ氏は、1970年代に米IBMで研究を開始。以来これまで、ファンクションポイント(FP)法をはじめとした各種ソフトウェア定量化手法によるソフトウェア開発の見積もり・生産性・品質管理に関する研究成果を世に送り出してきた。

 現在も米Software Productivity Research(SPR)で研究活動とコンサルティング業務に従事する同氏に、ソフトウェア業界が抱える品質問題の現状について話を聞いた。

──現在のソフトウェア産業における品質への取り組みについて、どのようにお考えですか。

写真 米Software Productivity Research ケイパーズ・ジョーンズ氏

ジョーンズ氏 現代社会において、ソフトウェアはあらゆるインフラや製品の中に組み込まれ、非常に重要な地位を占めています。そして、その規模や範囲はこれからも拡大し続けるでしょう。にもかかわらず、ソフトウェアの品質はハードウェア製品のそれに比べ、明らかに劣っています。これは程度の差こそあれ、世界中どの国でも見られる傾向です。ソフトウェア産業に従事する技術者と、その他の製造業の技術者との間には、品質に対する意識の面で明らかにギャップが見られます。これは何十年も前から指摘されてきたことで、徐々に改善されつつあるものの、まだ十分なレベルには程遠いのが現状だと思います。

──その原因は、どこにあるのでしょうか?

ジョーンズ氏 ソフトウェア産業ではこれまで、工数やコスト・品質などを正確に測定して定量化する習慣がありませんでした。現在でも、一部の先進企業を除いては、きちんとした形では行われていません。ソフトウェア開発のすべてのフェイズにわたって正確な定量化を行い、その結果を分析することによってのみ、品質や生産性の問題に対して有効な対応策を講じることができます。これは、ソフトウェア以外の製造業の分野では、昔から当然のように行われていることです。

──そのような取り組みの事例をいくつか教えてください。

ジョーンズ氏 米国では、IBMやヒューレット・パッカード(HP)などの先進企業がそうした活動に長年取り組んできた結果、現在では高いソフトウェア品質と市場シェアを実現しています。最近では、インドにおけるソフトウェア品質に対する取り組みが顕著です。インドでは、政府がソフトウェア産業の品質向上に力を入れており、多くのソフトウェア企業がCMMレベル5を取得しています。現在インドがソフトウェア産業で目指していることは、かつて日本が自動車や家電製品で成し遂げたことと同じです。すなわち、高い品質を武器に世界市場のリーダーになることです。

──定量化も含め、品質向上の取り組みには高いコストがかかるという先入観を多くの人が抱いているようですが……

ジョーンズ氏 その認識は間違っています。これまでの調査や研究により、高い品質を達成するプロジェクトは、同時に高い生産性を示すことが明らかになっています。品質に対する投資を怠った企業は、製品が市場で売れないばかりか、デバッグ作業に多くの人件費を投じなくてはならず、結果として多大なコストを支払うことになります。問題は、これまで多くのソフトウェア企業の経営者がこうしたコストを正確に定量化し、把握できなかったため、問題の本質に気付いていないということです。

──昨今の新しい技術やメソドロジーがソフトウェアの品質に与える影響について、どのように考えていますか?

ジョーンズ氏 SOAには、品質に関する危惧を抱いています。かつてクライアント/サーバ型アプリケーションやERPパッケージが、ソフトウェアの複雑化により品質の問題を生じさせたのと同じく、SOAでも複雑化・分散化が進行することにより、品質の問題が生じる恐れがあります。SOAを成功させるためには、品質への配慮が不可欠です。SaaSに関しても、これと同様です。

──アジャイル開発手法については、どのように考えていますか?

ジョーンズ氏 ある特定の条件下では、品質向上に寄与すると思います。私が行った最近のリサーチでは、アジャイル開発手法は2500〜5000FP程度の小規模なアプリケーションを少人数で開発する場合には、生産性・品質の面で有利に働きます。しかし、大規模アプリケーションの開発では逆に不利になります。

──現在、ソフトウェア品質の課題を解決したいと願っている日本の技術者や経営者にアドバイスを送るとしたら?

ジョーンズ氏 日本の製造業は、世界一の品質を誇っています。ソフトウェア以外の製造分野における取り組みからは、学べる点が多くあるはずです。そういう意味では、自動車や家電などに搭載される組み込みソフトウェア分野などは、鍵になるかもしれません。また経営者の方々には、ソフトウェア品質向上に対する投資の意義を、是非理解してもらえればと思います。品質の優れたソフトウェア製品は、品質の劣る製品よりも結果として安上がりなのです。



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