ではこれから実際に、結婚相談所の事例を用いてゴールモデルを作成してみましょう。
しかしその前に、今回のプロジェクトにおけるトップゴール、つまり結婚相談所にとってのビジネスゴールは何であったかを、今一度確認しておきましょう。
これまでさまざまな思考ツールを用いて分析を行ってきましたが、その結果明らかにすることができた「見極めるべき隠れた要求」は、「理想の相手」という言葉に対するアドバイザーと会員の解釈の違い、価値観の相違でした。この隠れた要求をゴールの形で表現すること、これがすなわちゴールモデルの作成ということになります。この点を念頭に置いたうえで、実際の手順を追っていきましょう。
ゴールモデル作成においてまず着目すべきなのは、XYZ公式の結果です。なお、XYZ公式については今回説明を行いませんので、詳細に知りたい方は、本連載の第2回をご覧ください。
今回取り上げた「『理想の相手』に対するアドバイザーと会員の解釈の違い」という課題に対するXYZ公式は、これまで連載の中で明示していませんでした。したがって、ここであらためて定義しておきましょう。
通常、ゴール分析の段階までにXYZ公式の表現は何度も見直され、ステークホルダー間で合意・共有できているはずです。この、XYZ公式で表現されている「目的」(Z)こそが、プロジェクトの目的、すなわちゴールモデルの最上位にくるトップゴールになります。そして、目的を達成するための「活動」(X)が、トップゴール直下のサブゴールとなります。
このように、まず分析領域定義においてXYZ公式で定義した「目的」(Z)をトップゴールに配置し、その直下のサブゴールとして「活動」(X)を配置、それからその下層を構造化していくというやり方が、ゴールモデル作成を簡単に始めるためのアプローチです。
ここで、トップゴール直下に「活動」(X)とは別のサブゴールを見いだした場合は、ゴールモデル分析の段階で新たに重要な「活動」(ゴール)に気付いたということになります。トップゴール直下のサブゴールはXYZ公式で定義した「活動」(X)のみとは限りません。
ちなみに、XYZ公式における「手段」(Y)の扱いですが、YそのものをXのサブゴールとして配置してもよいですし、Yの内容を細分化・具体化して複数のサブゴールにするといった使い方もできます。
このようにしてXYZ公式の結果から導き出したトップゴールとその直下のサブゴールの構造は、以下のようになります(図2)。
XYZ公式を使って、ゴールモデルの上部が表現できました。では、その後の展開はどのように行えばいいのでしょうか。
ここで、リッチピクチャとCATWOEの分析結果を活用することになります。リッチピクチャとCATWOEの結果を通して得られた各種の気付きを活用して、より下位のサブゴールを検討していくのです。具体的には、CATWOEの“T-post”(望ましい状態)や“WorldView”(望ましい状態を期待する価値基準、世界観)をサブゴールの候補と見なしたうえで、サブゴール間の「目的⇔手段関係」(How)や「原因⇔解消関係」(Why)などの相互関係を意識しながらゴールモデル上に展開していきます。
例えば、「理想の相手に出会えるという期待を持ち続けられる」というサブゴールの下位のサブゴールが一体何かを考えてみます。前回、「隠れた要求」として「理想の相手」に対する解釈の違いがあり、ここに会員の退会の真因があるということは分かりました。この「解釈の違い」を乗り越えるゴールを考えることが、今回作成するゴールモデルでは重要です。
会員は「理想の相手は会ってみないと分からない」というアドバイザーの意見を受け入れることができる「何か」があれば、自分の条件に固執しなくなる可能性があります。一方アドバイザーの方も、会員が条件に固執する気持ちをある程度理解できれば、通り一遍の条件設定ではなく、もっと多様な条件を設定できるようにして、条件のマッチングだけでも理想の相手に出会える可能性を高めることができるでしょう。
この双方をサブゴールとしてとらえ、さらにそこからサブゴールを抽出していくことにより、より具体的な手段へとブレークダウンされていきます(図3)。
こうした一連のゴールモデル作成作業は、主要なステークホルダーと共同で作業を行います。彼らの意見や立場をとらえながら、その場で互いに情報を共有することにより、最終的な合意を形成していくのです。
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