ITIL V2をめぐる課題とV3の誕生ITIL V3から知るITサービス管理(1)(2/3 ページ)

» 2008年03月06日 12時00分 公開
[中 寛之(なか ひろゆき),@IT]

ITIL V2における失敗の原因とは

 ITをサービスととらえ、多くのサービス業で見られるような顧客(利用者)視点に立つという考え方は、ITが何のために存在しているのかを強く意識させるものであり、ITサービスの利用者も提供者もWin-Winの関係を築くことを目指す素晴らしいものです。この点は、ITIL V2でも強く訴えられていたポイントでしたが、残念ながらITILに着目した多くの組織で同じような失敗が繰り返されました。

 それはどのような失敗でしょうか。

 そもそも、ITILに対して最初に興味を持つのはどこかといえば、ほとんどの企業においては、情報システムを扱う部門です。当然、自分たちが置かれている状況を良くするためにITILを活用したいと考えます。しかし、どのようにして運用負荷を減らそうかという考えばかりが先行し、ITサービス利用者不在で改善が行われるケースがよくありました。

 加えて、ITIL V2のテキストは、プロセス単位での独立性が比較的高い構成になっており、特に即効性の高いインシデント管理プロセスのみを導入して満足してしまうケースが多かったように思えます。

 本来、すべてのプロセス・機能を全社的な視点で導入することで全体最適を図ることがベストプラクティスであったはずなのに、特定組織の視点に立って特定プロセスを導入するという個別最適を目指したことで得られるべき相乗効果が失われ、ITサービスの利用者と提供者には不満ばかりが鬱積(うっせき)するようになります。これはWin-Winには程遠い状況です。

 ITIL V2の失敗はこれだけではありません。

 ITIL V2は、7つ(7冊)の領域と1冊の副読本で構成されており、それらすべてを用いてITサービスマネジメントのベストプラクティスを表現しています。しかし、サービスサポート(通称「青本」)とサービスデリバリ(通称「赤本」)さえ理解できていれば、それだけで十分な改善効果が見込めると思える構成になっていたため、ほとんどの組織では青本+赤本=ITILであると認識され、その他の主要5冊と副読本1冊の存在がほとんど無視されていました。

書籍名 概要
サービスマネジメント導入計画立案 サービスマネジメントのプロセスにおける一連の流れ、組織&プロセスの改善について解説。通称、緑本。対象範囲はビジョン策定→アセスメント→ターゲット設定→改善→測定→推進力維持。
サービスサポート 保守運用に関する1つの機能と5つのプロセスを解説。通称、青本。対象範囲はサービスデスク&インシデント/問題/構成/変更/リリース管理。
サービスデリバリ 長期に渡るITサービスの提供計画や改善など、5つのプロセスを解説。通称、赤本。 対象範囲はサービスレベル/ITサービス財務/キャパシティ/ITサービス継続性/可用性管理。
セキュリティ管理 セキュリティレベルの計画&管理プロセスを解説。ISO 27001 からITサービスマネジメントに関する部分のみ取り扱う。
アプリケーション管理 アプリのビジネス価値とライフサイクル(開発フェーズ&管理フェーズ)を解説。
ICTインフラストラクチャ管理 インフラのコンポーネントやサービスについて、業務認識からテスト、展開、運用までを解説。
ビジネス観点 サプライヤ管理を解説。2004年11月に追加された。ほかに、ビジネス寄りのガイドが追加リリースされる予定。
ソフトウェア資産管理 ソフトウェア資産管理のビジョン設定→ポリシー策定→管理プロセスの導入→プロセス改善を通して、資産のコントロールを目指す。2003年に追加された。
表1 ITIL V2は7冊の書籍と1冊の副読本で構成されている

 ここまでの話を総括すると、ITIL V2が抱える最大の問題点は、次の3点に集約できると考えられます。

  1. ビジネスとITにおける相互理解の欠如
  2. 統合プロセスの集合化における弊害
  3. 柔軟性に欠けるバリューチェーンマネジメント

 導入しやすいようにと個々のプロセスの独立性を高めた結果、各プロセスがサイロ化し、プロセス横断的な活動が行いにくくなってしまったという面も見過ごせません。

 そもそも、ITIL V2の考え方は、製造業にヒントを得たステップ・バイ・ステップのアプローチです。何かを行うためには、その前に何かを実施していなければなりません。製造業では、この流れをバリューチェーンと表現しますが、ITIL V2のサービスサポートなどは、まさにこの典型ともいえるものであり、多くの組織が「まずはインシデント管理から……」という硬直的なアプローチに陥っています。ですが、このようなやり方はサービスというフワフワしたものにうまく当てはまらないのです。

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