競合他社への転職は情報漏えいですか?読めば分かるコンプライアンス(3)(2/4 ページ)

» 2008年04月08日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

信頼していた先輩からの誘い

 そんなある日の昼休み、岡田の携帯電話が鳴った。

磯崎 「もしもし、岡田くん? 磯崎だけど」

岡田 「あ、磯崎さん! お久しぶりです」

磯崎 「シカゴから帰ってきたんですってね」

岡田 「ええ、3カ月ほど前に。それより磯崎さん、なんだってまた辞めちゃったんですか? 僕がシカゴに行くときにはそんなこといってなかったじゃないですか」

磯崎 「まぁ、いろいろと……ね」

 磯崎良子は岡田の2年先輩で、同じ鬼河原チームのメンバーとして何かと岡田の面倒を見てくれていた。

 岡田も磯崎を深く信頼し、公私にわたってあれこれと相談を持ち掛けていた。

 岡田はシカゴに留学した4カ月後に、磯崎がグランドブレーカー社を辞めて、競合会社であるハイパーシステムに転職したことを神崎からのメールで知ったのだった。

磯崎 「そんなことよりも、岡田くん、近いうちに食事でもどうかしら。シカゴでのお話も聞きたいし、相談したいこともあるし……」

岡田 「僕はいつでもいいですよ。でも、相談したいことって……」

磯崎 「それは会ったときに話しましょ。じゃあ、あさっての金曜日の夜19時でどうかしら。神楽坂においしいちゃんこのお店があるのよ。そこのお座敷を予約しておくわ。場所は後でメールで知らせるわね」

突然のヘッドハンティング

ALT 磯崎 良子

 2日後の金曜日の夜、岡田は神楽坂の『若潮』の2階の座敷で、磯崎とちゃんこ鍋をつついていた。

 磯崎に問われるままにシカゴでのエピソードを語って聞かせていたが、しばらくして磯崎が、やや改まった調子で話し始めた。

磯崎 「ところで、岡田くん。いまでも鬼河原チームにいるんでしょう?」

岡田 「ええ、相変わらず」

磯崎 「で、どう?」

岡田 「どう……って、何がですか?」

磯崎 「回りくどく言ってもしょうがないからはっきり言うけど、鬼河原さんの下で満足してる?」

岡田 「えっ?」

磯崎 「わたしが辞めたのも、鬼河原さんの下ではコンサルタントとしての実力が付かないと思ったからなのよ。鬼河原さんは、リサーチやプレゼン資料作りの職人は育てられても、コンサルタントを育てることはできないわ。岡田くんだって、以前は鬼河原さんの仕事のやり方に注文を付けてたじゃない。わたしは岡田くんのいってることが正しいと思ったわ。でも、鬼河原さんは一切聞こうとしなかったわよね。もしかしたら、部下に追い越されるのを怖がっているのかもね」

岡田 「さぁ、どうなんでしょう……」

磯崎 「わたしが辞めてから8カ月くらいだけど、鬼河原さんは変わってないと思う」

岡田 「ええ、そうですね」

磯崎 「それに対して岡田くんは、アメリカのビジネス社会を体験してきたし、英語にも磨きがかかったし、『メソドロジー One』も学んできたし、要は大きく成長したわけよ」

岡田 「まぁ、そうありたいとは思いますけど……」

磯崎 「でも、鬼河原さんの下にいたんでは、すべて宝の持ち腐れよ。どう、わたしの言ってること間違ってる?」

岡田 「……」

磯崎 「そこで……なんだけど、単刀直入に言うわね、ウチの会社に来ない?」

岡田 「えっ、転職……ですか!?」

磯崎 「そう。知っての通り、ハイパーシステムはグランドブレーカーよりは後発会社だし、規模も小さいけど、その分勢いはあるし、小回りが利くのよ。グランドブレーカーやフューチャーコンサルティングが手を付けていないニッチな業界をターゲットにして、結構業績を伸ばしてるのよ。それで今度ね、金融業界でもFX関連の企業にフォーカスして顧客開拓をしていこうということになったのよ。それでわたし、あっ! て思ったの。岡田くんがいれば鬼に金棒だわってね」

岡田 「ぼくが……、ですか?」

磯崎 「そう、きみ。きみの英語力はFX関連企業とコンタクトしていくときには強力な武器になるし、ポテンシャルクライアントを発掘するところから、契約を結んでサービスを提供してクライアントを満足させるためには、しっかりとしたプロジェクトマネジメントの能力が必要になるけど、その点、岡田くんは『メソドロジー One』も身に付けてるし、これ以上はないっていうくらいピッタリとはまってるのよ。逆にいうとね、岡田くんにとっても、鬼河原さんの下でくすぶっているのに比べて、ずっとずっとやりがいが感じられるってことよ。給料だって、最低でも現状維持、アップの可能性も高いわ。どう、決心しない?」

岡田 「……。すごく魅力的な話ですけど、競合他社に転職するのって、やばくないですか? しかも、海外留学から帰ってきてから3カ月しかたっていないし……」

磯崎 「そうよね、岡田くんって義理堅いところがあるのよね……。でも、その心配は必要ないと思うわ。ただ、幾つか質問させて。それがはっきりしたら、会社と話すときの作戦を教えてあげるわ」

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