連載
» 2008年07月08日 12時00分 公開

“裏”ノウハウで、IT経営をさらなる高みへ公開! IT経営実践ノウハウ(6)(1/2 ページ)

IT経営ノウハウにも“裏”ノウハウがあった! 筆者が、直接携わったプロジェクトでの経験から抽出した生のノウハウを公開する。

[齋藤 雅宏,@IT]

連載にお付き合いいただいた皆さまへ

「公開! IT経営実践ノウハウ」は、今回で最終回です。これまでご愛読いただき、ありがとうございました。最後に、私がノウハウ化したものの意図的に公表してこなかった、「IT経営“裏”ノウハウ」の一部をご紹介します。これまで個人用ノウハウとしてきましたが、特にIT経営の普及の一助になると思われるものをピックアップしました。


事業統合案件を通じて発見した理想的なERPの構成

大企業の事業統合案件で知ったERP統合の秘訣(ひけつ)〜成功のカギは「営業管理システムの独立性」〜

 これはある大企業の事業統合案件に携わったときの話です。

 その会社はもともと親会社の一事業部がスピンアウトしてできた会社でしたが、連結経営強化の流れを受け、親会社に残っていた一部機能もすべて業務移管し、事業統合を図ることになりました。両社間での話し合いが進み、法律面や財務面の課題もほぼめどが付いたころに、IT担当のわたしに「情報システムの統合をしたいので、プロジェクトに参加してほしい」との相談がありました。

 「事業統合まで5カ月ほどしかないので、よろしくお願いします」の一言で丸投げされたのですが、実際にヒアリングしてあぜんとしました。

 子会社は国内取引のみでしたが、親会社にあった事業は輸出入取引がメインでした。当然子会社のERPには輸出ドキュメント処理も外貨対応も非円貨勘定処理も入っていません。その子会社に年商数百億円の貿易事業を統合するという話だったのです。

 これには正直閉口しました。移植作業が必要なERP統合案件を数カ月で完了せよといわれても、普通「無理です」という答え以外にないと思いますが、社内情報化部門にはそれを拒否する権限はありません。取りあえず「どういう手を打てば、何をいつまでに対応可能か」を提示することにしました。

 同子会社のERPは二十数年前にAS400ベースで作られたものでした。営業管理システムと債権債務管理システムと会計システムがそれぞれ独立しており、おのおのがバッチでつながっているという状態でした。

 しばらくこのシステム構成の詳細を分析していたのですが、ふと対応策が見つかったのです。そのERPは、受発注データや在庫管理データなどを格納する営業管理システムと、取引データから仕訳データを作成する仕訳システムが独立していました。ということは、今回の事業統合については、営業管理システムに輸出入取引データを入力する機能を追加し、仕訳システムに外貨関連仕訳機能を追加するだけで、取りあえず業務移管には耐えられることが判明したのです。

 昔の人は、事業拡大に伴う機能拡張などをきっちり考慮してERPのモジュール化を進めていたのだな、と心からこの設計者に感謝しました。最近のERPでは、このような対応はほぼ不可能で、新規導入した方が得策という判断になっていたと思います。

 この経験から、ERPの導入を検討する企業にありがちな、「1から10まで既製品を適用すれば間違いは起きない」という判断は、中長期的には間違いであると確信しました。極端な話、営業管理システムはExcelベースで各人が管理しやすいように構築してもよいとさえ思います。それらのデータを社内仕訳ルールにのっとり、いかに整合性を考慮して勘定仕訳するかさえ仕組み化しておけば、営業管理システムの自由度は格段に上がるでしょう。自由度が高ければめまぐるしく変化するビジネス環境にも即座に対応できます。「うちのシステムが対応できないので……」といって大切な案件を失注することもなくなるはずです。

 ERPパッケージを供給している開発企業の皆さま、ぜひとも昔から受け継がれている素晴らしい構成を考慮した新ERPを開発していただけないでしょうか? エンドユーザーはそういう製品の登場を心待ちにしております。

IPOを目指すベンチャーとの取り組みで発見したERP成功の極意

急成長するベンチャー企業が陥ったERP運用のわな 〜成功のカギは「部門長がマスターの運用責任を取ること」〜

 これは、あるベンチャー企業の内部統制プロジェクトに参加したときの話です。

 同社は設立6年目のベンチャー企業で、年平均150%以上の成長率を達成していましたが、売り上げが5億円を超えた辺りから売掛金の回収率が極端に低下し、早急に手を打つ必要がありました。同社は数年後のIPOを公言していましたので、内部統制を兼ねた売掛金回収プロジェクトが発足したのは自然の流れでした。

 わたしもこのプロジェクトに参加し、関係者にヒアリングした内容を現行業務フローに落とし込み、導入済みのERPパッケージとの間にあるギャップを分析しました。その結果、既存業務フローが業容拡大に伴いフォローしきれなくなり、そこから未入金が頻発していることが判明しました。そこで、現行業務フローの問題点を改善した新業務フローを再適用しました。

 それから四半期が過ぎ、再度状況を確認したところ、また昔の状態に戻っていることが判明しました。さすがに関係者も「いったい何が起きているのか?」と疑心暗鬼になっていました。そこで、再度わたしが問題点を精査したところ、驚きの事実が判明しました。

 現場担当者が当初決めた運用ルールを無視して、自由に顧客マスターを採番していたため、同一取引先に複数の顧客コードが設定されてしまい、それが原因で売掛金情報が泣き別れ(ばらばらに)てしまったようです。その結果、未入金回収作業が非効率になり、対応漏れが頻発して回収率を極端に低下させていたのです。

 この状況に対してわたしが取った打ち手はただ1点、「顧客マスター管理の運用責任を、管理職の職責とする」でした。実施してみるとどうでしょう。みるみるうちに未入金発生率が低下しました。

 課長クラスの評価に「マスター管理」の運用責任を加えただけで、自身の評価に影響するのできっちり管理するようになり、それにより債権債務データの精度が上がり、さらに「与信情報の管理」の精度も上がりました。“風が吹けば桶屋がもうかる”の話ではありませんが、やはり業務フローというつながりがなせる技ということでしょうか?

 ところで、「これのどこがノウハウなの?」と思われるかもしれません。確かに当たり前のことですが、この当たり前のことが組織内で伝えられておらず、こんな初歩的なことをきっかけに組織レベルの問題が発生しているのが多くの企業の現状です。実際のところ、こうしたレベルの問題でERPの運用が芳しくない状況に陥っている会社は、非常に多いのです。これは大企業からベンチャー企業まで規模を問いません。いまこそ、昔から積み重ねてきた基本ノウハウに立ち返ってみるべきだと思います。レガシーという言葉で旧来の業務フローやシステムを雑に扱っては、大切なものを見失うことでしょう。

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