目覚ましい中国経済の発展とともにオフショア開発事情も急変している。そんな中、月平均5〜7人の規模で若い中国人プログラマを活用し、そのメリットを享受したい企業へ向けて、今回は中国でオフショア開発専門のソフトウェアベンダを経営する現役総経理に実情を聞いた。
本稿では上海の独立系小規模ベンダの中国人総経理から聞いた、オフショア開発を成功に導く独自の開発プロセス活用術を考察します。
このケースは、月平均5?7人の若い中国人プログラマを有効活用したい日本企業に参考になる事例です。現役のプロジェクトマネージャやベンダ選定・評価に責任を持つPMO(Project Management Office)スタッフにとって、特に有益な情報となるでしょう。
初めに会社概要と同社の成長の軌跡を紹介します。なかなか成長できなかった独立系ベンダがどのようにして一気に規模を拡大させたのか、その秘密に迫ります。次に、プロジェクトマネジメント知識体系“PMBOK(the project management body of knowledge)”を参考に、同社が独自に整備した標準開発プロセスの具体的な活用術を紹介します。最後に、組織力が自慢の小規模ベンダが規模を急速に拡大させるに当たり、想定されるマネジメント上の課題を整理して、取材者の立場から問題提起します。
聞き手:幸地司
話し手:上海同暢信息技術有限公司 総経理 高 国明氏
高 国明
1962年生まれ。1984年に北京大学卒業後、日本の千葉大学大学院に留学。1992年ボーランド入社。コンパイラなどのソフトウェア開発に従事。1997年独立しコムネットを設立、制御・ネットワークシステム開発や中国オフショア開発を中心に展開。2003年中国に帰国。上海にて電気設備メーカーのCIOに就任後、2005年日本向けのオフショア開発会社(上海同暢信息技術有限公司)を設立。同社総経理兼CTOに就任。 計測制御システムや金融システムなど、大規模システムの開発、PMを多数経験。長年のオフショア開発のノウハウに基づき、自社独自のプロジェクト管理システム(TPMS)を構築した。
――これまでの会社成長の軌跡を簡単に教えてください
高氏 2005年7月の設立以来、売り上げ・人員とも伸ばしています。ただし、ほかの中国ベンダと比べると、当社の成長率は低いと思います。なぜなら、会社設立当初は無理に企業規模を拡大せず、まずは組織的なプロジェクト管理力の強化など、会社の基盤作りの強化を優先したからです。
“組織的なプロジェクト管理力”とは、誰がリーダーになっても同じ方法で通用する“属人性の少ないプロジェクト管理力”のことです。企業規模が小さいうちに、しっかりとした仕組み作りをしないと、企業規模が拡大したときにプロジェクト管理力が著しく低下してしまうリスクがあるからです。
2007年7月に、東京に販売営業拠点となる日本法人を設立しました。また、2008年1月には、河南省にソフトウェア開発センターを設立しました。ほかにも、組み込み系ソフトウェア開発とハードウェア設計が中心の無錫開発センターもありますので、上海本社を含めてグループで4拠点、開発人員は250人になります。
設立 2005年7月
本社 上海(浦東ソフトウェアパーク内)
資本金 230万人民元(約3500万円)
開発拠点 上海、無錫、河南省
日本支社 東京・新宿
役員構成 2人の中国人創業者と日本人役員1人
株主構成 創業者2人で株式100%保有
主要業務 業務アプリ系、Web系、組み込み系のソフトウェア受託開発、ハード設計(回路設計、PWB設計)、試作、生産
河南省の開発センターは、ソフトウェア園区運営会社でもあるソフトウェア会社との合弁で設立しました。そこでは、主に業務系アプリケーション開発とWebソリューション系の受託開発を行っています。若いプログラマが多いので、主に下流工程で活用します。
現在の日本法人は販売拠点としての機能がメインですが、年内に開発要員を配置したいと考えています。拠点ごとの従業員数ですが、多い順に河南省180人、上海50人、無錫20人です。そして日本法人は1人のみです。
――どのような仕事を請け負っているのですか
高氏 一番多いのは業務系アプリケーション開発です。特に金融分野に自信があります。今年は、Web系のアプリケーション開発も増えています。組み込み系も事業の伸びはゆっくりですが、力を入れています。今年はハードウェアや組み込み開発の拠点となる無錫開発センターに大きく期待しています。
――売り上げの推移と内訳を教えてください
高氏 2007年度の売上高は600万人民元です。日本円でおよそ1億円です。1人当たりの売上高は、46人で割ると日本円でおよそ200万円。2007年の平均社員数を割り出し、実際の稼働率を加味すると、1人当たりの年間売上高は日本円で320万円ほどになります。日本だと、1人当たりの年間売上高は1000万円が目安なので、われわれの数値は約3分の1です。
2007年の技術者稼働率は通年で80%以上を維持しました。売上規模が小さいので、上海地区の同業者と比べるとかなり高い値だと思います。今年は規模を急拡大したので、稼働率は低下するものと予測しています。また、リピート受注率が高く、売り上げの8割は当社と継続取引されるリピート顧客で占められます。
――日本企業との契約の形態を教えてください。一括請負契約とラボ契約、どちらが主流ですか?
高氏 一括請負契約とラボ契約の2種類です。現在は、仕事の9割を一括請負契約で請けています。ラボ契約は1割ほどで継続契約していただいています。当社としては、契約形態にこだわらず、案件内容やお客さまのニーズにより、契約形態を相談して決めています。
――発注者にとって、貴社とラボ契約を結ぶメリットは何でしょうか?
高氏 もしも、お客さまが安定して仕事を継続発注される場合は、ラボ契約のメリットが生まれます。ですが、仕様があいまいでスケジュールや仕事量が安定しないと、ラボ要員の待機が生じてしまいます。継続発注されない場合も、ラボ契約の良さは生かされません。
初回取引はすべて一括発注から始まります。受発注者相互に仕事の進め方や力量が十分に把握でき、信頼関係が築けてから、ラボ契約に変更する方が良いと思います。お互いの信頼関係がないと、ラボ契約はかえって作業効率が落ちるのではないかと心配されるからです。
お客さまにとっては、ラボ契約にすると仕様変更やリソースを調整しても、いちいち再見積もりする必要がなくなり、スケジュール調整のみで対応できます。
お客さまは、まるで自社の従業員のような感覚でラボの技術者を臨機応変、柔軟に活用できます。一方で、お客さまにとってはラボ契約のデメリットも存在します。人員増加は歓迎されますが、急な人員削減は契約上難しいといわざるを得ません。
日本企業にとってラボ契約のメリット/デメリット |
|
メリット |
デメリット |
|
|
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.