過剰接待をしなくてもオフショア開発で生き残る方法現地からお届け!中国オフショア最新事情(12)(3/4 ページ)

» 2008年07月11日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ株式会社]

自分で挙げる今後の課題は?

――最後に、貴社の今後の課題についてお聞かせください

高氏 直面する課題を3点ほど挙げます。

・業務ノウハウの蓄積と上流工程要員の育成

・日本語会話力の強化

・河南省開発センターへのTPMSの完全浸透化

 まず第1点の課題は、「業務ノウハウの蓄積と上流工程要員の育成」です。

 一般的に中国では、「技術力」というと、「プログラミング技術」だと誤解している技術者が多い傾向にあります。しかし、本当の意味ではいくらプログラミング技術が優れていても、それだけでは一流の技術者とはいえません。

 弊社では、業務ノウハウも技術力の一部であるとの考えに立ち、業務アプリ系の全技術者に1.5分野の業務ノウハウの習得を目標に育成しています。各自1つの分野をマスターし、さらにもう1つの分野ノウハウを半分でも身に付けるという意味です。業務ノウハウを弊社の付加価値の1つとし、より幅広くお客さまのニーズに応えられる体制作りを目指さなくてはなりません。これは簡単なことではありませんが、ぜひともチャレンジしなくてはならない課題だと考えています。

 現在は、継続取引をしていただいているお客さまに中国出張の際、講師をお願いし、研修会を行ったり、教材をお借りして、社内研修会を行ったりしています。また、日本業務経験があるコアメンバーによる社内研修会も開催しています。

 このような机上の研修も必要ですが、やはり実際の開発業務の中で、技術者各人が「1.5分野の業務ノウハウ習得」を強く意識しているか、意識していないかは大きな差だと思います。例えば、ただ単に仕様通りに開発を行うのではなく、「なぜこのような仕様になっているのだろうか?」と考えるか考えないかで、大きな差が出てくると思います。

――2点目の課題は、「日本語会話力の強化」ですね

高氏 弊社は、会社設立以来、日本向けのシステム受託開発100%で事業展開をしてきました(中国現地日系企業向けも一部含む)。中国オフショア開発では常識になっていると思いますが、弊社でも仕様書や打ち合わせ、報告書、電子メールなど、日本語100%で対応しています。

 ほかの中国企業でも同じ考えの企業が多いとは思いますが、通訳を介した開発は失敗リスクが高まるため、技術者自身が日本語を習得する基本方針を持っています。従って、技術者の日本語力向上に注力してきました。

 日本語専門の教師を社員として採用し、毎日定時後に日本語研修を行っています。また、日本語力も1つの人事評価指標に位置付け、全技術者に日本語力向上のインセンティブを与えています。そのため、社員の中には休日を利用して自主的に外部の日本語学校に通う者も少なくありません。

 また、日本語検定試験に合格した場合、各自が個人的に負担した研修費用を会社が負担する制度も導入しました。

 これが功を奏し、勉強を始めて間もない新人を除くと、日本語の読み書きは、ほぼ全員問題がなく対応可能であり、社内でのメールのやりとりも日本語を利用する者もいるくらいです。

 しかし、お客さまと日本語で技術打ち合わせができるレベルの技術者となると、残念ながらまだ十分とはいい切れません。幸いにも新たに設置した河南省開発センターでは、以前より日本の仕事がしたいという技術者が多く、日本での業務経験もある技術者もおり、日本語レベルは比較的高いのですが、今後さらに組織が大きくなると、日本語会話力がある技術者を育成、採用することが重要課題の1つだと考えています。

 現在、日本語を勉強中の技術者は結構日本語会話ができるのですが、実際に日本人と会話する機会が少なく、いざとなると話せないケースが多々あるように思います。やはり、外国語の会話力は机上のみではなく、日本語100%の環境で生活することで自信がつき、著しく会話力が向上すると思います。従って、今後は日本法人に研修を兼ねて、交代で常駐させる制度も準備中です。

――最後に、「河南省開発センターへのTPMSの完全浸透化」については、どうお考えですか

高氏 3つ目の課題は、先月から新設した河南省開発センターへのTPMSの完全浸透化です。弊社は開発体制拡充の一環で、今年より河南省開発センターを新設し、グループ総勢46人から一気に250人体制になりました。

 通常で考えると、このような急激な規模拡大は管理力低下に直結し、間違いなく品質面、納期面のトラブルが続発します。私どもも過去、急成長し過ぎ、不幸にも力を落としてしまった中国企業を目の当たりにしています。

 しかし、河南省開発センターは新規に設立した拠点ではなく、現地のソフトウェア会社のODC(オフショア開発センター)という部門のみを対象に資本提携した開発拠点です。従って、日本向け案件の受注実績もあります。弊社はCMMIに取り組んでいませんが、合弁相手の会社はCMMIを達成し、社内の管理制度を整備してきている会社です。しかし、CMMIを達成していない私どもがいうのもおかしな話ですが、CMMIのみでは安心できないのです。やはり、河南省開発センターにもTPMSを完全浸透化させなくてはならないと考えています。

 実はこの開発センター設立に関し、1年以上前から入念な準備をしてきました。同社は弊社設立以来、付き合いのある協力パートナーでもあり、今回の河南省開発センター設立を1年以上前から計画し、同社のキーパーソン数人に上海に長期滞在してもらい、弊社の技術者と一緒に仕事をしてきました。従って、彼らはTPMSを経験的に習得できたのではないかと思います。

 現在はこれらのキーパーソンが河南省に戻り、かつ、上海本社からリーダークラスの人材を派遣し、同開発センターへのTPMSの完全浸透化を図りつつあります。しかし、油断は禁物で「事を急がずじっくりと!」と考えています。なぜならば、私ども上海本社でもTPMSの完全浸透化に1年はかかりました。河南省開発センターには、まずは難易度の比較的低い案件からスタートし、TPMSの浸透状況をチェックしながら、徐々に対応案件を拡大していきたいと考えています。

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