「訴える!」の前に和解導く、ソフト開発の紛争解決センター企業間トラブルを裁判外で仲裁、和解

» 2008年09月08日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 システム構築をシステム・インテグレータ(SIer)に依頼したが納期が大幅に遅れた上に品質も最悪。検収をOKせずに改修を依頼。しかし、SIerは「ユーザー企業の開発中の仕様変更が原因」として追加料金支払いを要求してきた――このような、こじれてしまったソフトウェアやシステム開発にかかわる企業間のトラブルを解決するADR機関「ソフトウェア紛争解決センター」が7月末に設立された。

 設立したのは財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)。ADRとは「Alternative Dispute Resolution」の略で「裁判外紛争解決」と呼ばれる。時間、コストがかかる裁判所での調停と比べて、特に短時間で和解でき、審議や和解内容が公開されないのが大きな特長だ。ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)に基づき活動を行っている。

 SOFTICの調査研究部 ソフトウェア紛争解決センター 紛争解決部 課長の平澤高美氏によると、SOFTICがソフトウェアの紛争解決についてのADR機関業務を検討し始めたのは1999年。SOFTICでソフトウェアの契約問題などを調査研究してきた弁護士の間で話が持ち上がったという。

裁判所では「OSって何?」から始まる

 弁護士らは「裁判所はソフトウェアのバグの話などは嫌がる」と考えていた。専門性が高く、高度な知識がないと的確な判断を示すことができないソフトウェア関連の紛争は、裁判所に敬遠されがちだという。平澤氏は「いいのか悪いのかは別にして、仕様が固まらないうちからシステム開発を始めるのが業界の慣習。そういうことが理解されないと合理的な判断が示されないが、裁判所では『OSって何?』から始まる」と指摘する。

 ソフトウェア紛争解決センターが行うのは「仲裁」と「和解あっせん」だ。仲裁とは裁判所に代わって中立の立場にある仲裁人が紛争解決の判断を示す方法。この仲裁判断は裁判の確定判決と同一の効果を持つので、裁判所から執行決定が出れば、強制執行が可能になる。仲裁は両当事者の合意が前提。仲裁判断に異議があっても裁判所に再度訴えることはできず、「1回勝負」の判断だ。

 和解あっせんは、裁判の調停に近い。中立のあっせん人が両当事者から話を聞き、当事者が自主的に紛争を解決できるように議論を導く。いわゆる話し合いによる解決を促す仕組みで、あっせん人が示す解決案(あっせん案)に両当事者が合意すると解決ということになる。この解決の効果は民法上の和解契約と同等で、強制執行などの強制力はない。

 平澤氏は「1回限りの仲裁はそれほど選ばれないだろう」と予測する。やり直しができないため、両当事者にとってリスクが高いからだ。多くは事前合意がいらない和解あっせんから始めて、和解をするか、合意の上で仲裁に移行するかを選ぶことになると見られる。

当事者が「納得感のある和解」

 ソフトウェア紛争解決センターの特長は「納得感のある和解」と平澤氏は説明する。両当事者はソフトウェア紛争解決センターが用意する名簿の中から、仲裁人、あっせん人を選ぶことができる。名簿に含まれるのはソフトウェア契約に詳しい弁護士や弁理士、開発現場に通じているソフトウェア技術者など約40人。基本は弁護士が2人、ソフトウェア技術者が1人という構成になる。名簿外で選ぶこともできる。

 裁判所での調停に比べて短期間で解決できるのもメリット。平澤氏は「多くのケースで3〜6カ月で解決するだろう」と話す。ただ、申し立て手数料に加えて、成立手数料が必要になるなど、コスト面では裁判所の調停と単純に比較できない面もある(成立手数料は料金ページを参照)。

 平澤氏は「ソフトウェアの取り引きではどちらか一方が100%悪いということはまずない。いまどきはユーザー側の役割は(契約によって)ある程度は明確になっている」と指摘。その上で、「ソフトウェア業界の取り引きを理解した専門家が調停するのと、分からない人が言うのでは当事者の納得感が違う。ただ、こじれきってしまったものはどうしても難しい。こじれきってしまう前に持ち込んでもらうのが一番成功率が高まる」と話した。

 

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