“きずな”がWebコミュニケーションの常識となる日Web 2.0マーケティング・イノベーション(5)(1/2 ページ)

顧客との関係作りにおいて不可欠な要素となりつつあるエンゲージメント、“きずな”という概念。注目すべきは、コミュニケーションを重視する傾向が、マーケティングの世界だけではなく、Webメディア一般の在り方として定着しつつあることだ。

» 2008年09月08日 12時00分 公開
[森田進,ストラテジック・リサーチ]

ますます重要になる“きずな”という概念

 いま、米国のマーケティング業界では、ブログSNSなどを活用したCGMや“会話”がキーワードとなっている。誰かと会話したくなるような、一緒に遊びたくなるような、簡単で使いやすいメディアやサービスを築こうというのである。その実現を考える際、コンセプトとなるのは、ほとんどの場合、前回紹介した「“きずな”を結ぶ新たな手法“エンゲージメント”」である。

 ブログやSNSで繰り広げられている口コミも、ある意味、エンゲージメントという概念を具体化した現象である。いや、口コミ以前に、ブログやSNSという枠組み自体が、エンゲージメントという概念の上に成り立っている、といった方が正確だろう。

 前回も触れたが、筆者はCGMの世界においても、リンクやコメントの数、内容などを指標にした「エンゲージメント測定」を導入したり、こうした指標をもとにキャンペーン活動に付加料金を設けるようなアプローチが導入される予感がしている。

 現時点では、ブログやCGMは消費者主導で進められるコンテンツとなっている。しかしこれからは、企業やコミュニティ組織が任意の目的を達成するために、顧客や市民とのエンゲージメント、すなわち“きずな”を形成するための場になっていくのではないだろうか。そして、企業やコミュニティ組織が、“きずな”を結ぶためのコミュニケーションをデザインすることによって、CGMのまったく新しいモデルが開発されるようになるのでは、と予想している。

 エンゲージメントというコンセプトが、ますます認知を高めつつある傾向は、現実にも表れている。例えばネット広告を出稿しようとしている広告主は、「そのサイトがCGM上で、どれだけ多くの話題やコメント、リンクといった派生現象を生み出せるのか」に関心を持つはずだ。マネジメントの視点からこれをいい変えれば、「そのサイトはどのようにして、どれほどのエンゲージメントを生むのか」ということである。

クロスメディアから、クロスコミュニケーションへ

 近年、“クロスメディア“という考え方がブームになっている。しかし今後、広告の世界ではメディアデザインから、エンゲージメントをコンセプトとしたコミュニケーションデザインを考えることが、基本テーマとなっていくことだろう。

 この延長線上で求められるのは、メディアを活用する側の発想ではない。メディア配分や既存の広告フォーマットを使った広告表現など、メディアを駆使した手法ではなく、一般消費者を巻き込んで、CGMの力を借りながら丹念にコミュニケーションを引き寄せる“クロスコミュニケーション“の手法が重要となるはずだ。いってみれば、コミュニケーションの“入れ物”ではなく“中身”で勝負する格好である。その方がはるかに効率よく消費者にアピールできるはずである。

 過去を振り返っても、単に露出(expose)するだけという一方通行の広告が限界に達したことで、双方向性を持つWeb 2.0やソーシャルマーケティングの流れが生まれた。これと同様に、エンゲージメント指標を基盤とした新しいメディアコミュニケーションの在り方に向けて、これからも模索は続けられるのだろう。

コミュニケーションにも、コンサルティングが不可欠

 筆者の場合、今後のメディアコミュニケーションの在り方を考えると、まず思い至るのが、Web  2.0という概念が誕生して間もなかったころから現在に至るまでのソーシャルメディアの変容である。当初は口コミといっても、せいぜいフォーラムで好きなテーマを探して知識を開陳したり、ディスカッションをしたり、といった自己表現、自己主張の場にとどまっていた。

 しかし現在、ソーシャルメディアは、発言内容そのものより、日常生活や社会動向の記録、見聞、ちょっとした気付きなどを共有する場に変わりつつある。もっといえば、参加者同士が相互に気を配り、気を遣い合い、互いに何かを共有することである種の心地よさを味わう、新しいコミュニケーション空間に変容しつつある。

 こうした状況から考えるに、今後は「特定の話題を設定して語り合うテーマ型」でありながらも、個人の価値観や目標を尊重し、“つながりの輪”を深めることを主目的としたスタイルが、メディアコミュニケーションの1つの在り方として登場してくるのではないだろうか。

 少し脱線するが、マーケティング業界では、口コミは“文化”であると同時に、“業界”としても認識されている。米国には「WOM(Word Of Mouse)業界」と呼び名があるほどだ。

 マーケティングのコンサルティング会社や、大きな企業のマーケティング部門の取り組みも本格的である。口コミになる話材(Topics)の提供、口コミを広げてくれる人(Talkers)の確保、口コミを波及させやすい場やツール(Tools)の提供、口コミの効果測定(Track)、自ら口コミに参加して状況を共有する(TakePart)という、いわゆる「口コミプランニングの5T」の戦略を取ることもあるというから驚きだ。

 これまで“コミュニケーション”というテーマは、人材、組織、サービスといった分野と並ぶ、ビジネスの重要な要素でありながら、それを専門とする人間がほとんどいなかった。しかし、今後はコミュニケーションに関するコンサルティング業務が、ますます重要になっていくことであろう。

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