Exchangeサーバを導入している企業に多い悩みは、SFA(Sales Force Automation)やグループウェアなど各種業務アプリケーションの予定管理と、Exchange上の予定管理が分離してしまい、予定管理の手間や、確認漏れによるダブルブッキングが発生してしまうことだ。
これまで専用アダプタやクライアント側のアプリケーションを用いて各利用者がアプリケーション連携させることはあったが、サーバ側ソリューションの相互運用は難しかった。
コンシューマ向け製品やサービスでは、カレンダーアプリケーションはiCalやCalDAVなど標準化されたフォーマットやプロトコルがサポートされていることが多いが、業務アプリケーションではAPIがまちまち。また、広く普及しているマイクロソフト製品では、プロトコルなど技術情報が不足しているケースが多かった。
「これまではExcelのBIFF(バイナリフォーマット)のように、独自に解析した人たちが情報を交換し、それに基づいて対応製品を作っていたが、今はExchangeでもSharePointでもきちんと技術文書に書いてある。これまではいわば“バッド・ノウハウ”(非本質的で応用が利かない場当たり的対処方法の知識)の蓄積だったが、きちんと文書に書いてあることによる安心感はぜんぜん違う」。
こう話すのは、データ連携関連のソフトウェア製品を得意とするベンチャー、アプレッソ 代表取締役副社長でCTOの小野和俊氏だ。同社は12月17日、マイクロソフト、ソフトブレーンと共同でスケジュール管理、ToDo管理に的を絞った業務アプリケーション連携ソリューション「PIM Synchronizer(仮称)」を発表。2009年の春に製品出荷予定という。
PIM SynchronizerはJavaベースのWebアプリケーションで、「Microsoft Office SharePoint Server 2007」、「Microsoft Exchange Server 2007」、ソフトブレーンが提供するSFA「eセールスマネージャー」の間でスケジュール情報とToDo情報を同期させることができる製品。いずれかの予定表で新規に予定を入れれば、PIM Synchronizerを介してあらかじめ同期対象として設定したアプリケーションすべてに自動反映される。同期させるサーバの組み合わせや方向は、ユーザーごと、あるいはまとめて設定できる。
PIM Synchronizerは設定された時間間隔で各アプリケーションをポーリングし、読み出したデータを標準形式に変換して保存した上で、別のアプリケーションに書き出す。現在、PIM Synchronizerは3製品にのみ対応しているが、今後はN対Nでの対応を目指すといい、標準フォーマットの策定に取り組んでいるという。
こうしたアプリケーションを作成するにはデータフォーマットやプロトコルの技術情報が欠かせない。従来マイクロソフトはこうした情報をオープンに提供してこなかったが、事情は変わりつつある。マイクロソフトでオフィス製品を担当する西岡真樹氏(インフォメーションワーカービジネス本部 IWソリューションマーケティンググループ エグゼクティブプロダクトマネージャ)は、こう話す。「これまでは技術情報にアクセスするために、直接交渉が発生していたが、今回は公開情報の場所をお教えした程度の支援。ハックしたり、解析することなしに、公開情報に基づいた開発ができたいい例」
PIM Synchronizerは、単純なデータのインポート/エクスポートだけではなく、高度な同期のための更新情報を管理も行っているが、開発は3カ月と短期間で済んだという。
マイクロソフトは異ベンダ間の相互運用性の向上のために技術情報の提供やIPのライセンスに2003年から取り組んできた。「少し前までWindowsには非公開のAPIがあったし、Exchangeとサーバ間の通信は、非公開の情報をベースにやっていた。それがいまは英語だが4万4000ページの情報としてMSDNで公開している。10年前だと作ったものがデ・ファクトになるという世界だったが、今はまず標準化し、それを実装、ディプロイするというやり方に変わってきている。競合を含めたパートナー、コミュニティと連携する。競合会社の製品とつながる(相互接続・運用)ことが顧客のためとなるからだ」(マイクロソフト 業務執行役員 最高技術責任者 加治佐俊一氏)。マイクロソフトはオフィス文書形式でもオープン化を進めており、2009年提供予定のOffice 2007 SP2ではODF1.1もサポートするという。
コンシューマ向けサービス、例えばGoogleカレンダーのようなサービスでは標準的なカレンダー形式をサポートしているが、業務アプリケーションのデータ連携には、コンシューマ向けと異なる課題もある。小野氏はiCalのようなデータフォーマットは、規格が大きすぎて特定業務向けに設計されるアプリケーションでの実装には向かないという。「iCalは完璧な規格だが、社内のデータ連携ではそこまでは不要」(アプレッソの小野氏)。PIM Synchronizerの取り組みを通じて標準化したカレンダーデータの標準形式は現在、国産ソフトウェア製品の連携を目指した業界団体MIJS(Maded In Japan Software)でも共通スキーマとして策定していくよう働きかけている最中という。
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