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» 2009年01月08日 12時00分 公開

ビジネスに差がつく防犯技術(11):財務諸表は不正探知のレーダーだ (1/2)

すべての企業が作成している財務諸表。しかし、せっかく作成した財務諸表を自社自身のために活用している企業はあまりない。実は財務データは、「社内でいま何が起こっているのか?」を知ることができるレーダーとしての役割も持っているのでとても重要だ。

[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

経理業務は誰のためにあるのか

 上場企業であれ非上場企業であれ、税務や会計報告に対応するために、財務諸表を作成することが義務付けられている。

 しかし、“財務データを自社自身のために活用する”という管理会計の観点で見てみると、意外と現状に満足できている企業は少ないのではないだろうか。

 せっかく有能な社員を経理業務専任にしているにもかかわらず、その成果を外部の人間しか活用していないというのでは、あまりにもったいない。財務データは、税務や会計報告に役立つだけでなく、「社内でいま何が起こっているのか?」を知ることができるレーダーとしての役割も持っているからだ。

レーダーの役割としての会計情報

 例えば、売り上げデータだけを取り上げてみても、「いつ」「誰が」「なぜ」「どこで」「何を」「いくらで」「どのように」(5W2H)売ったのか、という情報を調べるだけで、さまざまなことが見えてくる。

 どのような商品であれ、季節変動があったり、展示会やバーゲンセールといった販促活動の有無によっても、“売りやすさ”が変動する。顧客を分類すると、得意先と新規開拓先では成約獲得の容易性に大きな差があるだろう。自社側の担当者にしてもベテランと新人では明らかに販売力に差がある。

 特に、「なぜ」「どこで」「何を」「いくらで」「どのように」を調べることで、販売活動におけるさまざまなことを教えてくれる。

 不正に絡めて考えてみると、営業責任者が顧客と共謀して売上金額をピンハネするために(なぜ)、稟議(りんぎ)決裁なしで(どのように)、現物の出入りの必要のない役務サービスを(何を)、高額で(いくらで)偽装販売するという、通謀虚偽表示による取引があったとすれば、売り上げデータのパターン分析によって、極めてまれな取引ケースとして抽出することができるはずである。

 しかし、現実にはこのような取引分析はされていないため、相当数のホワイトカラー犯罪が発見されずにいると思われる。

不正検知に威力を発揮する管理会計

 上記のケースのように、管理会計は不正検知に威力を発揮する。

 特に大きな不正があると、財務データはまるでレーダーが敵機を発見したかのように大きく反応する。

 ノルマ圧力から、小売店に商品を納入した時点で売り上げ計上してしまう「押し込み販売」といった“見せかけの売り上げ作り”があった場合、返品率の増加や債権回収期間の遅延などの“異常な傾向”が財務データ上に現れるといった具合だ。

 虚偽の取引を表面的に取り繕ったとしても、その取引に関連するすべてについて整合性を取ることは困難であり、どこかにほころびが出てくるものだ。

比較分析で浮き上がる異常点

 不正検知のために行う財務データの分析といっても、通常の管理会計の場合と大きな違いがあるわけではない。

 比較分析の手法として、「相互比較(水平比較)」や、過去時点での実績と比較する「期間比較(垂直比較)」、そして標準指標と比較する「標準比較」という3つの手法を利用することになる。

 相互比較の例として、売り上げと売掛金、売り上げと商品、売り上げと支払い運賃の関係について考えてみよう。

 売り上げ偽装があれば、売掛金残高が相対的に小さいか、支払いに応じてもらえないため、回収されない分が大きくなるだろう。また、在庫は減らないために商品残高が相対的に大きくなる。商品の横流しなどの不正があれば、売上残高が商品と比較して小さくなるだろう。通常の出荷パターンと異なる商品移動があれば、支払運賃の残高も異常値を示すだろう。

 期間比較はもっと簡単だ。毎月、対前月比較や対前年当月比較といった実績データの分析資料を出せるようにしておくことは難しくないだろう。しかし、経営者を含む社内に報告され、継続的にチェックされるという防犯意識を根付かせることは容易なことではない。

 最後に標準指標だが、売り上げ回転率や流動比率といった比率値について、過去実績から道き出した自社標準や業界の標準指標と比較することによって、自社の事業活動における通常の傾向と、異常値の発生について知ることができる。

 棚卸減耗損など、過去実績と比べて大きくなっている場合はもちろんのこととしても、同業の標準指標と比較して大きい場合も、「何らかの対策が必要な状況となっている」と考えてよいだろう。

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