work sharing / ワークシェア / 仕事の分かち合い
労働者1人当たりの労働時間(仕事量)を減らすことで、企業(社会)全体での延べ労働時間(仕事の総量)を小分けにして分配し直し、より多くの労働者で仕事を分かち合うこと。もともとは完全失業者発生の回避、雇用機会の創出・拡大を目的とする施策だが、短時間労働の制度化を通じた就業形態の多様化を目指す政策としても注目される。
ワークシェアリングとは「仕事(job)、労働時間(time)、賃金(wage)をシェアすること」とされることもあるが、その中核的要件は「労働時間の短縮」とする考え方が主流で、賃金が定義に含まれるか否かは論者によって意見が分かれる。しかし、現実には単位時間当たりの賃金(時給水準)は変えずに、労働時間の短縮率に見合った分だけ賃下げされるといった理解が一般的といえる。
従って、一定の(限られた)労働力投入総量と人件費総額を前提に、働き手が増えた分だけ1人当たりの労働時間と賃金を調整するのがワークシェアリングの原型となろう。労働力投入総量を削減する休業や操業時間の短縮、残業制限などの施策は、ワークシェアリングに類すると見なされることが多いが、時短なしの賃下げ(ウェイジシェアリング)、時給水準の低い非正規雇用への切り替えなどは、ワークシェアリングの要件を満たさないという意見が強い。
失業対策としてのワークシェアリングは“失業の分かち合い”でもあるので、賃下げを伴う場合、その賃下げされた分を雇用保険などを通じて支援する政策が採られる場合もある。また、副業の容認も広義にはワークシェアリングの一環と見ることができよう。
ワークシェアリングは、高失業率に悩んでいた1980年代の欧州で導入が進んだ。フランスでは1982年以来、政府が主導して法定労働時間を短縮する政策が推進され、ドイツでは産業別の労使間協約交渉によるワークシェアリングが展開されている。オランダでは1982年に政労使間でワッセナー合意が成立し、ワークシェアリングへの試みがスタートした。当初はあまり進展がなかったが、同一職務同一賃金の原則を徹底した結果、正規の短時間労働が拡大して就業形態が多様化し、1980年代半ばに10%を超えていた失業率が2000年には3%にまで低下した。こうした国民的ワークスタイルの変化を含むワークシェアリング政策を「オランダモデル」と呼ぶ。
日本では1990年代後半の金融危機以来の経営低迷・失業率上昇を契機にワークシェアリングが検討され、2002年3月に政労使(厚生労働大臣/連合/日本経団連)の三者で「ワークシェアリングに関する政労使合意」が成立したが、その後に景気が回復したことから広がりは小さかった。その後、2008年に米国サブプライムローン問題に端を発する世界的景気後退が明らかになると、日本では再び議論が高まり、内容のばらつきはあるが、企業単位でのワークシェアリングが導入が見られるようになっている。
ワークシェアリングに対する批判として「生産性の高い労働者の労働時間を削減して、生産性の低い労働者を受け入れることになる(可能性がある)」「生産性の低い産業から高い産業への労働力の移転が阻害される」「労働時間の増減には関係しない固定費があるため、全体での生産性が下がる」などがある。これについてはそれぞれ反論があり、議論が続いている。
従来、日本でワークシェアリングが普及しなかった理由としては、労働界に「賃下げの定着」を警戒する意見が強かったことが挙げられるが、これとは別に日本の労働環境は正規従業員と非正規従業員の格差が大きく、また正規従業員も職務範囲が流動的で、給与体系も能力給ないしは実績給である点を指して、実務面でも導入が困難だとの声もある。さらに欧州のワークシェアリングは産業別・階級別の仕事の分かち合い意識の下に行われるのに対して、企業への帰属意識が強い日本では単なる賃下げに堕する危険が大きいとの指摘もある。
▼『オランダモデル――制度疲労なき成熟社会』 長坂寿久=著/日本経済新聞社/2000年4月
▼『ワークシェアリングの実像――雇用の分配か、分断か』 竹信三恵子=著/岩波書店/2002年3月
▼人事管理入門――マネジメント・テキスト』 今野浩一郎、佐藤博樹=著/日本経済新聞出版社/2002年5月
▼『リストラとワークシェアリング』 熊沢誠=著/岩波書店/2003年4月
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