ワークシェアリングの対象にしようとしている業務が、どのようになっているのかを理解できていなくては話が始まらないので、まず、業務プロセスの見える化をする必要があります。通常は業務フローチャートを作成することで見える化を実現していくわけですが、
などと考えて躊躇(ちゅうちょ)されている方は、下の関連記事で紹介している「現場主導で進める業務改善の手法」で紹介した新しい業務フローチャートの書き方を利用することをお勧めします。
このステップは、ワークシェアリング導入方法の趣旨からずれて業務改善の話になりますが、本記事を読んでいただいている皆さまの会社でも、業務改善の余地はあるだろう……という前提の下、ごく簡単な改善方法に触れておきます。
最もシンプルでかつ効き目のある改善方法は、「無駄な仕事をやめる」ことです。具体的には次の2つのアプローチが有効です。
まず、業務プロセス上で作成されている資料や帳票類を業務フローチャートから探し出し、それらの資料類を誰が参照しているのかを確認し、参照している人に直接、「この資料や帳票がなくなったら困るか?」を聞くことです。「困らない」「困るかどうか不明(分からない)」という返答を得たらならば、その資料類の作成をやめるべきです。このように無駄な資料類の作成自体をやめることが1つ目のアプローチです。
2つ目のアプローチは、イレギュラー処理の廃止を考えることです。業務フローチャートを眺めると、場合分けによって分岐で表現されているさまざまなイレギュラー処理があるはずです。お客さまの属性や仕入れ業者ごとによって異なる書類フォーマットや、作業手順などによる違いです。これらのイレギュラー処理は、80対20の法則に照らして廃止を検討しましょう。つまり、イレギュラーの80%は、たった20%の取引しかない(大部分のイレギュラーはほとんど発生しないからイレギュラーというのです)ことが多いのです。このような頻度が低く、しかも通常は利益への貢献も少ないイレギュラー処理を、十分な調査と検討を踏まえ「勇気を出して」廃止しましょう。勇気を出して捨てるものを選ぶことは、業務プロセスの標準化の鍵です。
「無駄な仕事をやめる」という2つのアプローチ以外に、ワークシェアリング導入に際して、同時に業務改善を本格的に進めたいと考えている方には、下記の連載を読まれることをお勧めします。
仕事の流れを見える化し、無駄を省いたら、次にワークシェアリングできる仕事を探す、または作り出すことを考えましょう。
そもそもどのような仕事がワークシェアリングの対象になり得るのかというと、暗黙知をあまり必要としない仕事です。前述した「現状の業務プロセスを理解する」で紹介したメソッドによる業務フローチャートでは、業務上で何かのアウトプットを作成する際にインプット(つまり参照されているもの)が何かを明記する手法となっているので、そのインプット元が「記憶」になっている仕事は、ワークシェアリングの対象になりにくいことが分かります。
ただし、現時点でのインプット元が「記憶」になっているものでも、形式知化することを検討してみる必要はあります。例えば、現時点ではお得意さまから注文を受け付ける際に、以前の注文内容を記憶しておくことが必要であった仕事を、注文履歴データという形式知化された参照元を用意することで、ワークシェアリングの対象となりやすい仕事に変えることができます。
次はいよいよ業務マニュアルの作成です。
業務マニュアルは、ミスやトラブルを減らしてくれるだけではなく、引き継ぎの負荷を軽減してくれます。ワークシェアリング導入時以外でもその効果は高いのです。
しかし、このようなことは誰でも分かっているにもかかわらず、業務マニュアルが導入され、上手に機能している業務現場は少数です。なぜ、業務マニュアルは作られず、作ったとしても使われないのでしょうか。
筆者はこの疑問に対して、4つの要因を仮説として持っています。
このうち、1と4については、必要な部分を必要なときに作成することができて、しかも全体の調和が乱れない業務マニュアルの形式であれば解決するでしょう。
また、3の「使いにくい」についてはなぜ使いにくいのかを突き詰めると、「業務で困ったときに業務マニュアルを見ようとしたけれど、どこに書いてあるのか分からない」に行き着くと考えています。一方でこの原因を業務マニュアルのフォーマットが統一されていないからと考える人もいるのですが、ISO導入済み(フォーマットが統一された業務マニュアルを保有する)の職場でも必ずしも業務マニュアルが機能していないことがあることから、フォーマットの統一が主要な原因ではないようです。
2については、「現状の業務プロセスを理解する」において業務フローチャートを作成する時点で整理がされます。
これらの点を踏まえ、筆者は業務フローチャートと連携する、業務マニュアルの形式を提唱しています。業務フローチャートに記述される1つずつの作業(フローチャートの最小構成単位)に対して、業務マニュアルを1つずつ付けるという形式です。業務フローチャートは仕事を見える化し標準化するツールとして活用し、作成後は業務マニュアルの索引となるのです。そして、索引体系がしっかりしているため、業務マニュアル作成の必要が生じた際に、1つずつ業務マニュアルを追加していくことが可能になります。
業務マニュアルが完成したら、早速ワークシェアリングを開始してもよいのですが、ワークシェアリング導入のメリットを最大限に享受するために「指標を設定して遂行状態を計る」ことを手掛けましょう。
指標とはいわゆるKPI(Key Performance Indicator)のことです。KPIという言葉は知っているが、具体的にどのように業務現場で設定するか分らないという方も多いでしょう。
ポイントは計る「対象物」と「視点」を決めることです。対象物をアウトプットと筆者は呼んでいますが、業務現場で加工、生成される書類や帳票類、入力されたデータベースなどの「ある一定の状態」と考えてください。このアウトプットのうち、業務上重要なものを探し出し、それを精度、速度、費用の3つの視点のいずれか(ないしは2つ以上)から設定します。
例えば、「お客さまから入会申し込みをいただき、入会手続き完了を示すデータが入力される(このときのデータベースの状態がアウトプット)までの所要時間(速度という視点)をKPIとして設定する」というようにです。
このKPIをワークシェアリングする業務に設定し測定することで、それまで1人でやっていた退屈な仕事も、競争しながら成果を競える張り合いのある仕事になります。
以上が5つのステップです。
いかがでしたか?
生産性におけるワークシェアリングが持つデメリットを最小化し、メリットを最大化する実際の導入方法を具体的にイメージできましたか。本記事が皆さんがワークシェアリングを導入する際のヒントになることを願っています。
松浦剛志(まつうら たけし)
株式会社プロセス・ラボ 代表取締役
京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。
2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。
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