仮想化技術の浸透を受けてシステムインフラが複雑化した一方で、情報システム部門はユーザー部門からのリクエストに、よりスピーディに対応することが求められている。こうした中、システムの運用自動化が注目を集めているが、その効果を引き出すためには自動化する運用プロセス自体を効率化、標準化することが前提となる。
ITプロセス自動化製品「NetIQ Aegis」を提供しているNetIQも、そうしたプロセス整備の重要性を訴えている一社であり、製品提供とともにコンサルティングにも注力しているという。米NetIQ プロダクトマネージャのジェレミー・レイナーズ(Jeremy Lahners)氏に、運用自動化を成功させるためのポイントを聞いた。
サーバのヘルスチェックやパスワードの変更、インシデント管理など、既存の運用業務に加え、仮想化技術の浸透によってユーザー部門からのサーバ配備要請も相次ぐようになった。情報システム部門としては、ビジネスの基盤となるシステムインフラの健全性・安定性を確実に担保しながら、ユーザーからのリクエストに手際よく応えていかなければならない。
だが、日本ではコスト削減と効率化の風潮を受けて、情報システム部門の人数が減らされ、運用現場に過大な負担が掛かっている。これが自動化が注目される要因となっているわけだが、こうした状況について、レイナーズ氏は「情報システム部門に対するリクエストが増えている状況は欧米も同じであり、やはり運用自動化に対する関心は高い」と述べる。ただ「欧米の場合、自動化に乗り出す際の、コストや効率に対する考え方が日本とは大きく異なっている」と指摘する。
「欧米ではIT部門の人件費も含めてITコストと見ているが、日本では人件費とITコストを分けて考える傾向が強い。従って、仮にIT部門の業務を効率化できても、それがコストにどう反映されるのかを測りにくい。自動化ツールを導入するための根拠も、管理層に対して示しにくいのではないか」
また、「欧米企業では、自動化といっても、人を減らすための自動化ではない」とも強調する。あくまでも「従来と同じ人数、同じコストで、より多くの作業量をこなすため」という考え方であり、自動化に乗り出す際も「作業量に対するコストの割合」を明確に割り出しているという。
具体的には、サーバ配備やパスワード変更、アクセス権限の設定・変更など、各種作業のプロセスを洗い出して詳細に文書化する。そうして作業プロセスを細かい単位に分割することで、「1人1人のスタッフが、どの作業に、どれだけの時間をかけているのか」を正確に把握する。その上で、「より効率的なプロセスに改善したり、どの作業、どのプロセスを自動化すれば、どれだけの時間とコストを削減できるのかを見極めて、自動化する作業の候補を割り出した上で、その企業の状況に応じて、自動化する作業の優先順位を付ける」のだという。
「弊社では自動化ツール導入に当たり、サービスの一環としてこうした導入コンサルティングも行っている。情報システム部門のスタッフ1人1人の傍らにコンサルタントが張り付き、各プロセスに掛かっている時間を詳細に計測する――すなわち『業務調査』を行うわけだが、その正確な実態・内情に基づいてプロセスを把握・効率化し、自動化すべき個所、自動化する優先順位をしっかりと吟味しなければ、自動化の効果を十分に享受することはできない。弊社がユーザー企業との密接な関係作りを重視しているのも、自動化成功のために、その業務状況をしっかりと把握しておきたいためだ」
同社の運用自動化ツール「NetIQ Aegis」も、そうした自動化の計画を確実に実践できるよう開発したものだという。設定したワークフローに沿って各種運用管理ツールを自動的に制御・コントロールする製品だが、大きく分けて3つの特徴があるという。
1つはマルチベンダ対応であること。他ベンダ製の運用管理ツールと連携する「アダプター」というモジュールによって、ほとんどの他社製品と連携できるため、既存の運用環境に手を入れることなく有効に生かせるという。
2つ目は全プロセスを自動化したり、あるいは、人の判断にゆだねるステップを組み込んだりとワークフローを柔軟に設計・実行できること。「Aegisワークフローデザイナー」というツールを用意しており、個々の作業を示すオブジェクトを、ドラッグ&ドロップで画面上に配置、矢印で結んでいくだけで容易に設定可能としている。
3つ目は、連携させた各運用管理ツールから受信した情報から、正しいフローを判断する「相関エンジン」を搭載していること。各運用管理ツールからの情報を基に、全イベントを認識し、重複などを特定して、設定したプロセスの起動・抑制、既存プロセスへの追加などを行う。これにより、例えば仮想サーバのプロビジョニングのように、「複数の運用管理ツールが連携して行うような複雑な作業」についても正確・確実に遂行する。加えて、ワークフローの自動実行を担う「ワークフロー自動化エンジン」とは独立させ、負荷が掛かりにくい仕組みとしているため、スケーラビリティにも優れるという。
レイナーズ氏はこうした特徴を挙げ、「これらにより、自社の状況、目的に即した自動化を柔軟に実現できる」と力説する。また一方で販売戦略にも触れ、「昨今、注目を集めている“仮想サーバのプロビジョニング自動化”だけにフォーカスしていない点も特徴だ」と付け加える。
「もちろん仮想サーバのプロビジョニング自動化に対するニーズも大きいが、運用現場ではアクセス権限の付与、パスワードの設定・変更、インシデント管理などの作業も大きなボリュームを占めている。新たに求められるようになった作業だけではなく、“従来からある作業”に注目することも効率化を考える大きなカギと言える」
例えば、サーバのメンテナンス作業のために、社外のスタッフが一時的に特権IDを利用しなければならない場合、メンテナンスのたびに「特権ID作成・無効化に対応する」という作業を繰り返すことになる。しかし、一連の「特権ID作成の申請・承認プロセス」をワークフロー化した上で、「作業開始時間に自動的に特権IDを生成、作業完了時間に自動的にIDを無効化/特権IDの利用を延長するか否かを確認する」といったプロセスを組み込んでおけば、メンテナンスのたびに手を煩わせることがなくなるほか、特権IDの無効化を忘れるようなヒューマンエラーも確実に防止できる。
「手作業では効率化にも限界があるが、自動化すれば無駄な繰り返し作業の大幅な削減が望める。加えて、人の手が介在しないことからITガバナンスの担保も期待できる。弊社製品は全業種をターゲットとしているが、運用ミスが社会的な事件・事故に直結する政府、金融などに導入されているのも、製品の特徴や自動化のメリットを反映したものと言えるだろう」
ちなみに、これまでの導入企業では「1カ月に330時間削減できた事例など、大幅な効率化に成功した例も多くある」とレイナーズ氏はアピールする。ただ、「そうした効果が出せるのも、まずは詳細な業務調査とプロセスの分析、改善、自動化の優先順位付けを行ったからだ」と、事前準備の重要性をあらためて強調する。
「重要なのは、『同じ人数でこなせる作業量を増やす』『システム企画など本来的な作業に注力できる環境を整える』といった自動化の大目的を認識すること。その上で、日常的な作業から着目し、小さなスケールから自動化を考えることが一つのコツだ」
レイナーズ氏は最後にこのように述べ、「作業時間をどれほど削減できたのか、定量的に効果を測っていけば、他の作業担当のスタッフ、管理層の関心も必ず喚起されるはず。そうなれば取り組みは自ずと加速していくはずだ」と、周囲を説得しながらの着実・確実な推進を促した。
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