業務調査に「もう知ってる」「もう分かった」は禁物クラウド時代の業務分析バイブル(3)(2/2 ページ)

» 2011年06月23日 12時00分 公開
[西村泰洋,富士通]
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ケーススタディ2――「型のない業務」の場合

 次に「型のない業務」のケースを紹介しましょう。ここでは一見、進め方が分かりにくそうなホワイトカラーの業務を例に取ってみましょう。

 実際、工場や物流センターなどは、「人」「システム」「専用機器」などを組み合わせた業務フローが細かく決まっていますが、ホワイトカラーは工場などと異なり、意外なほど、型や決まりがない仕事をしていることが多いものです。従って、まずはあいまいな全体情報から「どんな形で業務を遂行しているのか」を大まかに押さえる必要があります。そのために、前のページの図2で示したように、「ユーザーからの業務説明」や「資料調査」の次に、インタビュー・アンケートを行う必要があるのです。

 ここでは筆者も最近経験した商社の支店のケースで考えてみましょう。まず、筆者が業務説明を受けた時点では、「各営業スタッフが複数の顧客を担当し、顧客ごとに進めている各商談案件を、いかに確実かつ効率的に受注に結び付けるか」といった、ごく一般的な営業活動だと理解していました。ところが、続いて各営業担当者にインタビュー調査を行ったところ、「各商談案件は細かくは管理していない」ことが分かったのです。 これは、この商社をA社とすると、各顧客はB、C、Dといった複数の商社とも取り引きをしており、これまでの長年の実績から、各顧客は半ば慣習的に、A社に対する取り引き比率を決めて発注しているためでした。

 これは、A社の視点から見ると、「各顧客に対する自社のシェアはおおむね決まっている」ということになります。つまり、 高い収益を目指してゼロから営業活動を進めるスタイルではなく、「一定のシェア枠の中で、商談案件を確実に取っていく」という営業スタイルであり、「個別案件を積み上げた“結果としての総量”を管理」するのではなく、「各顧客の発注総量を確実に把握した中で個別案件管理を行う」ことが重要になるわけです。

ALT 図3 インタビューの結果、「個別案件を積み上げた“結果としての総量”を管理」するのではなく、各顧客の「複数の商社に対する全発注量」と、「そのうち自社が占めるシェア」を確実に把握した上で、個別案件の見積もり・受注の総量を管理することが重要と分かった。「型のない業務」こそ先入観は禁物。まず業務の内容をしっかりと明確化することが先決だ

 従って、「業務の現状」を知るための業務調査についても、「総量は見えているか」「総量を見た上で個別案件管理ができているか」という視点を意識しなければならないことになります。つまり、当初の「ユーザーからの業務説明」や「資料調査」だけで判断したイメージとは、全く逆の視点が求められるわけです。これを認識していなければ、ボタンを掛け違えたまま現場調査を進めてしまうことにもなりかねませんでした。

 営業実績管理など、例え耳慣れた業務であっても、各社に固有の背景、プロセスが隠れていることがあります。「型のない業務」で現場調査より先にインタビュー・アンケートを持ってくる理由は、まさしくこの点にあるのです。


 今回は、調査手法をどのように進めていくか、その順番について「型のある業務」「型のない業務」に分けて、その基本的な対応パターンを解説しました。とはいえ、これらは基本パターンですから、実際には業務の内容、範囲、規模などに応じて、臨機応変に順番を変えていく必要があります。特に、システム化対象業務の規模が大きかったり、短納期での調査分析が必須といった場合には、並行作業もあり得ます。しかし大切なのは、どのような場合も「まず業務の現状を“正確に”把握する」というポイントを外さないことなのです。

 次回と次々回は業務調査・分析のメインである「現場調査」について解説します。

筆者プロフィール

西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部 第二FI統括部 フィールド・イノベータ ディレクタ。物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、数々のプロジェクトを担当する。@IT RFID+ICフォーラムでの「RFIDシステムプログラミングバイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」、@IT情報マネジメント「エクスプレス開発バイブル」などを連載。著書に『RFID+ICタグシステム導入構築標準講座』(翔泳社/2006年11月発売)などがある。



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