なぜ運用管理こそがクラウド戦略の要なのか?クラウド時代のIT資産管理(2)(1/2 ページ)

仮想化/リソースプーリングの導入は、システムの複雑化を招く。この複雑さを超えて、“クラウド”の真のメリットを享受するは管理層の強化が不可欠となる。

» 2009年08月27日 12時00分 公開
[武内 烈(株式会社コア),@IT]

なぜ、変更管理が重要なのか?

 これまで運用管理は、“川上の開発”に対する“川下”というイメージでとらえられてきた。筆者は、その構図こそが全体最適化によるコスト削減の妨げの一因となってきたと考える。

 運用管理のコストはIT投資全体の70%を占めており、この部分からコスト削減しなければならない――。長い間、運用管理部門には、こうした命題が与えられてきた。しかし、そもそも運用コストというものが運用管理部門の努力とは無関係に上昇する構造を持つとしたら……。川下で帳尻を合わせるということが不可能だとしたら……。次の図は、オープン系分散環境における業務システムの新規投入の仕組みを表している。

ALT 図1 オープン系分散システムにおける運用コスト上昇の構図(コア提供の図を基に編集部が作成)

非稼働資産=余剰資産

 業務システムに対する需要は増えるものとし、導入後に徐々に稼働率が向上することを考慮して、導入初期段階では稼働率30%ぐらいで設計し、将来予想されるピーク時に80%ぐらいになる――と、こうしたサイジングやキャパシティプランニングに基づいて作られたシステムは少なくないのではないだろうか。ところが、稼働率が予定どおりに向上しなければ、70%もの“余剰資産”が次々に生み出されることになる。

 変化に対応する手段として登場した分散システムは、安定稼働のために業務システムごとにCPUを1つ割り当て、1つのOS上に1つの業務アプリケーションを配置する形態を採る。業務アプリケーションが必要になると、そのたびにサーバを投入することになるので、結果として社内にサーバが乱立するという状態を招く。運用管理部門は増殖するサーバによって複雑化したネットワークの死活監視と管理に追われることになった。

ALT 図2 複雑化するネットワークの管理にコストは上昇(コア提供の図を基に編集部が作成)

 分散処理の1OS/1業務アプリケーションという構造を見る限り、コストが上昇する結果は明らかだ。これら課題の解決策として「サーバ統合」によるネットワークの整理と、「仮想化」による稼働率向上が提案されることになる。

 一方、業務アプリケーションの開発も、開発効率と変化対応力の向上のために「サービス」という粒度が大きく、「再利用性」の高いサービス指向アーキテクチャ(SOA)へと進化していき、稼働率向上を目指す統合されたサーバ環境の仮想化環境上にSOAシステムが構築されていくことになる。

ALT 図3 仮想化/リソースプールによりCPUリソースの割り当ては可変になり、ポリシーベースでの自動運用、またはパーマネントなリソース再配分が実現できるようになる(コア提供の図を基に編集部が作成)

 変化対応のためには“余裕”が必要だが、あり過ぎる余裕は“無駄”に転化する。余裕を予測できる変化の範囲内に収めて、CPU使用率やシステム稼働率の最適化を図ろうとすると、市場や社内のサービス需要が急変したとき、所有資産だけでは不足するケースも出てくる。こうした緊急事態までをも考慮したとき、パブリッククラウドを適切かつ有効に活用できるような体制を構築することが求められるといえよう。

ALT 図4 プライベートクラウドとパブリッククラウドは使い分けていくことになる(コア提供の図を基に編集部が作成)

「サーバ統合」と「仮想化」は複雑化を招く

 サーバ統合と仮想化技術の進展により、稼働率と変化対応力を向上しながら同時にコスト削減も可能となるクラウド環境に一歩近づいた。しかし、変化対応力が向上すると期待されるクラウドは、一方では常に変化する環境をしっかりと管理しないと、サービス品質の低下や可用性トラブルの発生といったリスクを増大させる。つまりクラウドの実現はリソースプールを利用したとき、アプリケーションやサービスがそれぞれ、どのリソースを利用しているかという構成変更をきちんと行うなど、変化に対応できるシステムマネジメントを実施することが鍵となる。

クラウド実現のための仮想化環境における管理対象例

  1. 1サーバ上に複数のアプリケーションが動作する環境で、共有するリソースの競合の可能性が大きくなるため、共有されるリソースの管理が必要となる
  2. サーバ上のレイヤが多くなり、アプリケーションが依存する複数のレイヤとCPUなどのサーバリソースの依存関係が変化し続けるため、ハードウェア・ソフトウェアを含めたすべての構成要素のリレーション管理が必要となる
  3. 構成変更が頻繁に行われるので、複雑なレイヤを含めた依存関係の遷移を管理する必要がでてくるため、変更前・変更後などのタイミングでのすべての構成要素のリレーションのスナップショットを管理する必要が出てくる

 仮想化環境では変化対応力が向上し、構成変更が容易に行えるようになる。しかし、このメリットを生かすためには、運用管理ポリシーにおける変更プロセスを変更頻度が大きくなっても対応可能なものにしなければならない。具体的には変更にかかわる影響分析が複雑なレイヤや関係するハードウェア全域、さらにはサービスを構成するすべてのアプリケーションと、そのアプリケーションに関係するすべてのソフトウェアレイヤとハードウェアの構成が管理されていなければならない。

ALT 図5 構成変更が容易になる分だけ、ソフトウェアサービスやアプリケーションの視点からの構成管理が重要となる(コア提供の図を基に編集部が作成)
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