electronic health record / 電子健康記録 / 生涯医療記録
異なる医療機関・健康関連組織で別々に管理されている個々人の健康・医療情報を地域/国レベルで集約・統合して共同利用する仕組みのこと。医療構造改革を達成する手段として期待されている。
EHRは、1つ以上の医療機関で発生した個人の診療記録を生涯にわたって蓄積するもので、この情報は保健・医療・保険・介護などの用途で総合的に活用される。内容は診療記録(カルテ)のほか、保険・レセプト(請求書)、検診・保健、介護・福祉が含まれることもある(国や地域によって異なる)。
個人にとってのEHRは、さまざまな医療機関で発生した医療記録を生涯にわたって保存・参照する基盤である。糖尿病のような慢性疾患と一生付き合わねばならない場合には、カルテの法定保存期間(5年間)を超えて医療情報を蓄積し、参照可能とする情報基盤は極めて有効なものとなる。医療機関同士、専門医と開業医の連携などの際にも情報共有の基盤として役立つ。さらに自分の医療情報へ容易にアクセスできれば、在宅医療や生活改善に取り組むときにも有用であろう。
医師・医療関係者から見れば、患者の生涯医療データの整備によって、既往症に応じた治療方針の決定、重複検査や多重投薬の防止などが期待できる。さらに医療データの総合的な集約は、医学研究の面でも期待される。
医療情報を地域や国、国際レベルで共有しようという活動は1990年代後半に活発化し、米国のHL7、日本のMML、ヨーロッパのEDIFACT(現在のopenEHR)などのデータ交換規約の策定作業として始った。具体的な集約化に向けた活動としては、英国で国民保健機関(NHS:National Health Service)が主体となって、国家ITプログラム(NPfIT:National Project for IT)に取り組み、2007年末には基盤が完成した。フランスは、国が主導して個人健康記録(DMP:Dossier Medical Personnel)というデータベースを構築、2010年から医療機関などの情報を蓄積し始めている。
米国は2004年、当時のジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)大統領が年頭教書で、国民1人に1つのEHRを提供すると宣言。二次医療圏ごとに米国地域医療情報機関(RHIO:Regional Health Information Organizations)のデータベースを全米医療情報ネットワーク(NHIN:National Health Information Network)で接続する計画もあったが行き詰った。バラク・オバマ(Barack H. Obama, Jr.)大統領は、2009年の経済回復・再投資法で医療の情報化と利用を打ち出し、保険者ごとのEHRの構築を計画している。また、民間を主体にPHRの動きがある。
日本については、IT新改革戦略に基づく重点計画2006で「生涯利活用可能な健康情報データベースの構築」と「医療健康情報の全国規模での分析・活用」という政策目標が掲げられた。
ISO(国際標準化機構)は、EHRの情報交換のための仕様として「ISO 13606」(Part 1:参照モデル、Part 2:アーキタイプ交換仕様、Part 3:参照アーキタイプと用語リスト、Part 4:セキュリティ、Part 5:インターフェイス仕様)を、EHRのアーキテクチャ要件に関する規格として「ISO 18308」を策定している。
▼『EHR 実践マニュアル――その成功戦略と事例研究』 ジョー・ミラー=著/宮原勅治=監訳/菊地雅史、大塚博幸、竹信俊彦、半田宣弘、中浴伸二、中西寛子=訳/篠原出版新社/2009年2月(『Implementing the Electronic Health Record: Case Studies and Strategies for Success』の邦訳)
▼EMR(electronic medical record)
▼GMP(good manufacturing practice)
▼ECR(efficient consumer response)
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