ビッグデータが“バズワード”から脱せない背景ビッグデータトレンドの今(1/2 ページ)

クラウドに次ぐキーワードとして、“ビッグデータ”という言葉は多くの企業にだいぶ浸透した。だがそのメリットの認知度は向上しても、ビッグデータ活用の具体的な手段となるとまだまだ認知度は低い。では、いつまでもバズワードから脱せない理由はどこにあるのだろうか。今あらためてビッグデータ活用の課題を探る。

» 2012年08月06日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT]

57%が「ビッグデータ知らない」

 「ビッグデータ」という言葉の浸透を裏付けるように、昨今、各ベンダから分析ツールや、ビッグデータ活用を意識したDWHアプライアンス製品のリリースが相次いでいる。IDCジャパンが2011年に行った調査でも、ビッグデータテクノロジー/サービス市場規模は2011年の140億円前後に対し、2015年は500億円を超える急速な拡大が予想されている。

 だが一方で、IDCジャパンが2012年5月、国内企業1050社を対象に実施した「ビッグデータの認知状況」に関するアンケート調査結果では、取り組みの検討段階も含めて「ビッグデータ活用に取り組んでいる」と答えた企業はたったの13%。それどころか、ビッグデータという言葉自体を「知らない」または「意味は知らない」と答えた企業は57%にも上り、「ビッグデータの活用や分析」という行為が、一部の先進的な企業のものにとどまっている実態が浮き彫りになった。

 では、メディアやIT業界における“ビッグデータ”の過熱ぶりと、市場との間にはどのような認識のギャップがあるのだろうか。ビッグデータ市場をウォッチしているIDCジャパン ソフトウェア&セキュリティ グループマネージャーの赤城知子氏に話を聞いた。

“ビッグデータ”に加熱する業界と、冷めた目で見る市場

 メディアやベンダの啓蒙活動もあり、企業の情報システム部門に対しては、『ビッグデータという言葉』自体はかなり浸透している。だが、ビッグデータを実際に活用する業務部門の認知度は、まだ非常に低いのが実情だ。赤城氏はまずそうした現状を振り返った上で、「今回の調査によって、言葉だけではなく、さらに『その意味や具体的な取り組み内容』となると、システム運用現場のITプロを含めても、まだ半数以上が知らないことが分かった」と解説する。

「ビッグデータの認知状況」について、情報システム部門および業務部門1050人(1社1回答)から複数回答形式にて回答を得た(調査は2012年5月に実施)。その結果、“ビッグデータトレンドの実態”が浮き彫りにされた(「IDCジャパンへの取材内容に基づき編集部がグラフを作成) 「ビッグデータの認知状況」について、情報システム部門および業務部門1050人(1社1回答)から複数回答形式にて回答を得た(調査は2012年5月に実施)。その結果、“ビッグデータトレンドの実態”が浮き彫りにされた(「IDCジャパンへの取材内容に基づき編集部がグラフを作成)

 「ビッグデータ活用に『取り組んでいる』と答えた13%についても、実際に業務に『導入している』と答えたのは3%に過ぎない。つまり残りの「議論している」「具体的に検討している」という10%の企業も、メリットなどは認識していても、『どのデータをどう使って、どうすれば良いのか』分からない、または、その実現方法までは分からない、考えが及んでいない、といった市場の実態が見て取れる」

 実際、今回の調査では「ビッグデータ」という言葉を知っており、そのメリットにも関心を寄せながら、議論も検討もしていない層が計60%もいることになる。むろん、彼らが具体的な取り組みに乗り出さない理由として、まず考えられるのはコスト意識だが、赤城氏はそれに加えて、「BIによる成功体験の少なさもあるだろう」と分析する。

 「例えば、それまでMicrosoft Office Excelを使ってデータを活用してきた営業部門、販売部門など、現場の人間にとっては、BIツールは確かに便利だし、効率化にもつながっているはずだ。ただ、レポーティング的な活用が多く、投資対効果を定量化しにくい点で、『BIの導入がビジネスに貢献している』という実感が薄い経営層も多い」

 また、BI導入を成功させ、その真価を享受するためにはデータの品質も問われる。多くの日本企業は部門ごとにシステムを持ち、データベースもサイロ化している。それぞれが扱うデータの項目や粒度も異なるほか、同一のものを異なる項目で表しているなど、重複しているデータも多い。この場合、業務は支障なく回せたとしても、顧客データ、販売データ、在庫データなどを掛け合わせて、“経験や勘よりも正しい意思決定”を自動化したり、何らかの知見を得たりするような「分析」には使えない。

 「結局、精度の低いデータでBIを使っても、精度の低い結果しか出てこない。マスタデータ整備は以前からの課題であり、管理層も認識しているが、コストも時間もかかるため、なかなか全社プロジェクトとして着手できずにきたケースが多い。そうしたことも手伝って、『重要な意思決定に足る結果をBIで獲得できる』と考えている経営層は少ない。つまり、現在はデータ整備から見直すべき“BIのやり直しの段階”とも言え、『今あるBIを使いこなせていないのに、さらにビッグデータの分析ツールにまで投資できない』と考えている向きも多い。ビッグデータに関心を寄せながら、“まだまだ先の話”と捉えられてしまう背景には、こうした問題も横たわっている」

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ