商品企画や広報戦略、企業全体のブランディングなどを手がけるクリエイティブユニット「オガワカズヒロ」は8月8日、『Web Business Shuffle2.0(以下、WBS2.0)』を開催した。今回はNHN Japan LINEマーケティング担当 矢嶋聡氏がゲストとして登壇し、「マーケティングプラットフォームとしてのLINEの可能性」をテーマに、LINEの3つの成長戦略と今後のマーケティングトレンドについて語った。
無料で通話やメールができるコミュニケーションアプリ「LINE(ライン)」は、日本国内のスマートフォンユーザーのうち、2500万人(44%)が使用(2012年3月時点)。月間アクティブユーザーは、Twitter/Facebookが62%に対し、LINEは82%だという。矢嶋氏はLINEがここまで速いスピードで成長してきた理由として、「スマートフォン最適化」「ソーシャルグラフ」「エモーションシェアリング」の3つを挙げた。
1つ目はLINEのスマートフォンへの最適化だ。矢嶋氏は「スマートフォンがインターネットにつながるということは、単なるデバイスの変化ではない」と指摘する。これまでインターネットユーザーの中心はリテラシーの高いビジネスマンであったため、インターネット市場の顧客規模も約2000万人という壁があった。ところが、スマートフォンが出てきたことで、女子大学生や主婦といった一般層の人たちがインターネットに触れる機会が増えた。
「これからのインターネットマーケットは、スマートフォンが主流になる。インターネットにおけるユーザー層が変わることで、インターネットの定義や市場のルール、人々の消費行動、生活が変化していく。すると、スマートフォンはマスマーケットの場になる。企業から見ると、ユーザーが常に携帯しているデバイスに対してリアルタイムにアクセスができるようになる。これはタッチポイントが増えるということだ。今後そこにどうアプローチしていくかが課題となる」
パソコン上では、すでにSkype(スカイプ)などの似たようなサービスも存在しているが、LINEはスマートフォンに最適化することで、世界を狙いに行くという。
2つ目の成長理由は、Web上での人間関係を示す概念「ソーシャルグラフ」だ。「『LINEはFacebookを目指すのか?』とよく聞かれるが、そうではない。Facebookのように、10億人規模のインフラになるサービスを目指したいとは思っているが、オープンなSNSにしようとは考えていない」という。
というのも、人間は小さなグループごとにコンテキストが異なる関係を築いている。しかし、Facebook上では、1つのニュースフィードの中に家族や同僚、親友、夫婦などいろいろな人間関係が混在している。従って、仕事の愚痴が言えなかったり、プライベートの写真を公開できなかったりという問題が起きている。その点、LINEは、オープンな箱を1つ用意するのではなく、人間関係ごとにクローズドな箱を作り、その中で本音で話せるように設計しているためだ。
この点について、矢嶋氏は「インターネットの価値は、『インフォメーションアクセス』と『ピープルコネクト』にある」と解説する。
インフォメーションアクセスとは、あらゆる情報にアクセスするための手段としてのインターネットのことを指す。例としてはヤフーなどのポータルサイトが挙げられる。一方、ピープルコネクトは、人々がコミュニケーションを図るための機能を指す。例えば、これまでは情報にアクセスしてから人とつながるというのが一般的であった。しかし、TwitterやFacebookの登場により、人間同士がつながることによって、人間がRSSリーダーとなり、“受動的な情報アクセス”をするようになった。すなわち「ソーシャルグラフが情報のハブを変えた」。この“ピープルコネクト”を取り込んでいる点が、LINEの持つ重要な価値の1つなのだという。
3つ目はエモーションシェアリング。TwitterやFacebookが「情報流通の場」だとすると、LINEは「リアルタイムで本音のコミュニケーションができる場」だという。
中でも象徴的なツールが、文字や絵でその時の気分や文字だけでは伝わらないニュアンスを表現できるスタンプだ。いつでもどこでも、常時携帯し接続する「スマートフォン」というデバイスの中で、文字すら打たなくてもコミュニケーションができる。
ただ、矢嶋氏は「TwitterやFacebookでは、スタンプはうまくいかないだろう」と指摘する。なぜなら、スタンプは“固有の関係性”の中でしかコミュニケーションとして成立しないためだ。コンテキストが異なる関係性の中でスタンプを押したとしても、意味合いが違ってきてしまう。従って、閉じられた固有の関係性の中でのみ通用する「スタンプ」が、「人間関係ごとにクローズドな箱を作り、その中で本音で話せる」LINEの重要なドライバとなっているのだという。
実際、「ソーシャルグラフには2つの種類がある」という。1つはバーチャルグラフ、もう1つはリアルグラフである。TwitterやFacebookは、インターネットで繋がっている「バーチャルな人間関係(バーチャルグラフ)」、LINEは「現実世界と同じように、異なるグループごとに人間関係を築けるリアルグラフ」だという。
バーチャルグラフのメリットは、人々の繋がりを通して情報が得られること。デメリットは、受け身で情報を受けるため、行動を起こさせる力が弱いということだ。矢嶋氏はこの点を挙げて「物が売れないという課題の背景も垣間見える」と解説する。逆に、リアルグラフのメリットは、主体的に行動させる力が強いこと。デメリットは、情報アクセスという面ではタコつぼ化してしまい、新しい気付きや出会いが弱いことにある。
では、そうした特性を持つLINEの、企業における価値とは何なのか? それは「スマートフォンに最適化されており、リアルな人間関係が再現されており、さらに感情(本音)のコミュニケーションが交わされることによって、“エモーションが渦巻いているような場”ができる点にある」という。
「スマートフォンによって、今後インターネットとリアルの境界線がますますなくなっていく。その、リアルの中で企業がどのように消費者に行動を起こさせるかという面ではエモーションがカギとなる。顧客との関係作りの鍵となるエンゲージメントについて、これまでは『ソーシャルでつながることが大切だ』などと言われてきたが、これからは“感情の共有(エモーションシェアリング)”が本当のエンゲージメントにつながるのではないか」
矢嶋氏は、「情報収集やセルフブランディング、リクルート活動のツールとして、人と繋がりたいのであればTwitterやFacebookを利用すればいい。LINEは、クローズドな関係性やコミュニケーションを楽しむというところで勝負をしたい。だから、Facebookが普及している国では、そのひずみを埋めるものとして、クローズドなコミュニケーションのニーズが今後高まると思う。そこにアプローチし、日本から10億人規模のサービスを生み出していきたい」と語った。
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