企業の情報システムの出来不出来は、いまやビジネスの成否にまでかかわるようになった。重要性が増す一方で、「こんなはずではなかった」というプロジェクトも多い。情報システムの“品質”を確保するためには、ユーザー企業の担当者は何をすればいいのか?
IT(情報技術)の利活用が日本のあらゆる産業分野においてソフトウェアや情報システムという形で広まり、われわれの日常生活にまで入り込んできています。
いまや企業にとって情報システムは、ビジネスの成否を左右する極めて重要な存在です。そうなると、情報システムの「“品質”がビジネスの明暗を決める」といっても過言ではありません。ところで、ユーザー企業にとっての情報システムの“品質”とはなんでしょうか?
“品質”の素朴な定義としては、「やりたいこと」「期待したこと」が「きちんとできる」ということではないでしょうか。
このように書くと、とても単純で簡単なことのように思えます。しかし、ユーザー企業がビジネスを維持・拡大していくために「やりたいこと」と、コンピュータ・システムが「できる」ことにはとても大きな乖離(かいり)があります。
コンピュータは「データ」と「データの処理」しか扱えません。これは極めて数学的、論理的な活動です。ところが、現実のビジネスは、生身の人間が行うさまざまな活動によって支えられています。そこには多様な「意味」「価値」「情報」「知識」「思惑」「感情」が錯綜(さくそう)しており、必ずしも数学的でも論理的でもありません。
このようなあいまいで複雑なビジネスの世界に情報システムを導入するためには、現実の世界の中での「やりたいこと」──すなわち“要求”を、コンピュータの(ある意味、単純な)「データ」と「データの処理」という世界でも通用するように翻訳してやらなければなりません。この“要求”を翻訳する作業が「仕様を決める」ということになります。“要求”に基づいて“仕様”が決まるわけです。
情報システムの仕様を決める場合、一般にユーザー企業の業務実務者は非常に重要な存在です。ユーザー企業の業務実務者は、現場の業務フローから詳細な例外事項まで実務を把握しているという点で最もビジネス(業務)を知っているということは事実です。業務実務者の“要求”は、仕様の検討には欠かせない重要な存在です。
しかしその一方で、業務実務者にとっては常識的過ぎるために“要求”として浮かび上がってこない重要事項があるかもしれません。さらに、自分の担当範囲だけで考えた“要求”が、全社レベルでは不合理である場合もあるかもしれません(例えば、一連の業務で営業部門と製造部門の「やりたいこと」が対立するなど)。
このようにシステム開発における“要求”とは、単に「やりたいこと」や「実現してほしいこと」を列挙すればいいというわけではありません。「やりたいこと」が「(企業にとって)やるべきこと」でなければならないわけです。そのためには、企業内(あるいは企業外)の各種の関係者と調整を行って企業全体/バリューチェーン全体にとっての最適解を導き出す必要があります。
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