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ITリーダーは、従業員のビジネス環境を真剣に考えよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(5)(3/3 ページ)

スマートデバイスの導入、Windows XPのサポート切れなど、企業ITのクライアント環境は1つの節目を迎えている。特に東日本大震災以降は、事業継続性の担保という観点からデスクトップ仮想化も注目を集めた。今、企業のIT担当者には自社のクライアントコンピューティングの将来像を、しっかりと見極める力が求められている。

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Windows XPのクライアントPCは早期にWindows 7への移行を優先すべき

三木 現在、ほとんどの企業ではWindows PCがクライアント端末の主流ですが、Windows XPのサポート切れやWindows 7への移行、さらには次期デスクトップWindowsであるWindows 8の話題もちらほら出てきました。


「『働きやすい環境』とは一概には定義できない。企業がユーザーに提供する環境と、ユーザーが便利と感じる環境は必ずしも一致するとは限らない。今、クライアント端末の領域では、PC以外のデバイスが台頭するなど、新しい潮流が次々と生まれている。企業はこうした流れへの向き合い方をしっかりと考えるべきだろう」――三木泉

 一方で、ここ数年の間、企業ITのクライアント端末の領域では、PC以外のデバイスが大きく台頭したり、あるいはDaaS(Desktop as a Service)のようなクラウドサービスが登場したりと、新しい潮流が次々と生まれました。こうした状況を踏まえた上で、企業のIT部門でクライアント管理を担当している方は、どのような将来戦略を描くべきだとお考えですか?

針生氏 Windows PCのOSの選択という観点で言うと、まずはWindows XPをなくすことを最優先で考えるべきだと思います。これは単にマイクロソフトのサポートが切れるということだけではなく、アプリケーションのサポートや、ハードウェアのデバイスドライバの供給などの面でも、Windows XPはこれから加速度的に陳腐化していくためです。そうしたリスクも考慮すると、Windows XPの次のOSを検討することは急務だと言えます。

 その場合の具体的な選択肢として、私はWindows 7をお勧めしています。Windows 7はWindows XPと比べて機能面でもセキュリティ面でも強化されていますし、企業に長く浸透するOSになると考えています。一方、Windows 8のリリース時期は「2012年下半期」とアナウンスされていますが、仮に予定通りリリースされたとしても、実際に企業で導入する準備が整うのは、それから1年〜1年半後の2014年初めごろになるでしょう。これでは2014年4月に予定されているWindows XPのサポート終了に間に合いません。


「スマートフォンやタブレット端末はコンテンツ参照用デバイス、PCはコンテンツ作成用デバイス。両者をうまく使い分ける必要がある。前者については、使い方の新しい発想がユーザー側から出てくることも期待される」――針生恵理

 また、Windows 8に関する情報はまだ限られている上、「アーキテクチャが大幅に変更される」と言われています。そうなると、企業が現在運用している既存アプリケーションをWindows 8向けに開発するためには、アプリケーションに大幅な改修を加える必要が出てくるかもしれません。

 それに、Windows XPからWindows 8への移行となると、Windows VistaとWindows 7という2世代のOSを飛ばしての移行になりますので、さまざまな面で技術的なハードルが高くなると予想されます。そういう意味でも、現時点ではWindows 7へ移行するのが妥当だと考えます。

三木 一方では、スマートフォンや、iPadのようなタブレット端末といった非PC端末を業務で積極的に活用する動きが出てきています。こうした潮流に対して、IT担当者はどのように対応するべきだとお考えですか?

針生氏 モバイル端末の活用は、積極的に推進するべきだと考えています。ただこれを、「PCに対抗するデバイス」としてとらえるべきではないと思います。ガートナーでは、スマートフォンやタブレット端末を「コンテンツ参照用デバイス」、PCを「コンテンツ作成用デバイス」として位置付けています。

 従ってユーザーのニーズに応じて、コンテンツ作成業務が多いユーザーにはPCを、利用が多いユーザーにはタブレットをといったように、両者をうまく使い分ける必要があります。

 あと、どうせ導入するなら、今までにない新しい発想に基づいた使い方にチャレンジしてほしいですね。PCはどうしても企業から押し付けられたお仕着せの使い方しかできませんが、ユーザーが普段から使い慣れているスマートフォンやタブレットであれば、「こういうシーンでは、こういう使い方もできそうだ!」という新しい発想がユーザー側からどんどん出てくることが期待できます

なぜ日本では、在宅勤務が市民権を得られないのか?

≪三木 デスクトップ環境について語る際、「在宅勤務をはじめとした新しいワークスタイルを推進し、ワークライフバランスを向上させる」ということが昔から提唱されてきました。しかし実際には、日本では在宅勤務はなかなか浸透していないのが実情だと思います。こうした状況は、今後は変わってくると思いますか?

針生氏 変わるというよりは、変わらざるを得ないのではないかと考えています。確かにガートナーの調査でも、特に震災以降、在宅勤務への関心が高まっている傾向にあります。、しかし、では実際に在宅勤務の導入を検討している企業がどれぐらいいるかというと、ごく少数です。やはりモバイルワークなどと違い、在宅勤務ならではの難しさというものがあるのだと思います。

 例えば、人事考査もその1つです。日本企業の人事評価制度は、もともとは仕事の成果よりも労働時間を重視する傾向がありますから、在宅勤務とは相性が悪いですね。かといって、評価制度を変えればうまくいくかというと、そうでもないようです。日本の住環境では在宅勤務の環境を整えるのが難しかったり、実際に在宅勤務する社員自身も仕事とプライベートの切り分けがうまくできなかったり、自宅で1人で仕事をすることに不安や孤独を覚えたりといったように、さまざまなハードルがあります。

 ただし、個人的には日本でも在宅勤務が普及する可能性はあると考えています。資料やレポートの作成作業など、仕事の種類によっては明らかに自宅で作業した方が効率が上がるものもありますし、通勤時間や無駄な会議に費やす時間を節約できれば、その分生産性は上がるはずです。


「企業は社員のビジネスパフォーマンスを最大限に上げるためのIT環境整備を、さらに真剣に考えていくべき。在宅勤務もそのための重要な施策の1つと位置付けられる」――針生恵理

 かといって、いきなり週5日すべてを在宅勤務に切り替えるというのはやはり無理があるでしょう。まずは例えば「週に1、2日だけ、在宅勤務に適した作業のみを自宅で集中してやる」ような形であれば、十分に導入可能ではないでしょうか。

三木 先ほど「変わらざるを得ない」とおっしゃいましたが、それはどういった意味なのでしょうか?

針生氏 日本国内でビジネスをやっている分には、会社の中だけで仕事をするというスタイルでもやっていけるかもしれなせん。しかし、グローバルにビジネスを展開していくとなると、そうはいきません。

 今では技術的には、世界のどこにいても仕事をできるようになっています。そんな中、海外の競合企業はどの国に行っても問題なく仕事ができているのに、日本企業だけは日本国内のオフィスでないと仕事ができないとなると、海外企業に太刀打ちできないでしょう。

 繰り返しになりますが、やはり企業はITのエンドユーザーである社員のビジネスパフォーマンスを最大限に上げるための環境整備を、今後はより真剣に考えていくべきです。在宅勤務だけでなく、モバイル、仮想化は、そのための重要な施策の1つとして位置付けられると思います。

著者紹介

企画:@IT情報マネジメント編集部

構成:吉村哲樹


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