ITリーダーは、ビジネスの視点でIT基盤を俯瞰せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(4)(1/3 ページ)

東日本大震災を契機にしたBCP/DRの見直しや、すでに多くの企業が導入に乗り出しているクラウドコンピューティングにおいて、ストレージやデータ管理に関するトピックが注目を集めている。では今後、ITインフラはどのような姿に変わっていくのか、変えていくべきなのか?ガートナージャパンの鈴木雅喜氏と@IT担当編集長 三木泉が、ITインフラの今と未来を掘り下げる。

» 2011年09月12日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

今、あらためて問われるITインフラの在り方

 今日、ITインフラを構成する諸要素の中でも、ストレージやデータ管理に関するトピックが特に高い関心を集めている。東日本大震災を契機にしたBCP/DRの見直しの中では、データ保全のためのストレージシステムの在り方があらためて問われているし、昨今話題に上ることが増えたビッグデータの取り組みは、ストレージとそこに保管されるデータの活用法に大きな変革をもたらすものだ。

 さらに、すでに多くの企業が具体的な取り組みを始めているクラウドコンピューティングの文脈においても、ストレージの仮想化や統合が重要な鍵を握っている。

 こうした状況を踏まえ、ITインフラは今後どのような姿に変わっていくのか。あるいは、どのように変えていくべきなのか?――ガートナー ジャパンでインフラ戦略やデータ管理の分野を担当する、リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ リサーチディレクター 鈴木雅喜氏に、@IT担当編集長 三木泉が話を聞いた。

東日本大震災の悲劇と教訓を忘れてはいけない

三木 東日本大震災後、ITの世界ではBCP/DRと、それに伴うデータ保全・システム保全の見直しがクローズアップされています。

鈴木氏 そうですね。実際、震災の1カ月後にガートナーが行った調査でも、調査対象企業の約半数が、「2013年までにBCP/DRの予算を増やす」と回答しています。明らかに企業におけるBCP/DRの取り組みの優先度は上がっていると言えるでしょう。

鈴木雅喜氏
ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ リサーチディレクター

 しかし振り返ってみると、過去10年の間にもアメリカ同時多発テロ事件や、新潟県中越沖地震などの事件が起きるたびに、企業のIT部門はBCP/DRやデータ保全の取り組み強化を検討してきました。

 しかし一時的に興味が高まっても、すぐにまた元に戻ってしまうということを繰り返してきたのが実情です。今回の震災でも、明らかにBCP/DRに対する注目度は高まっていますが、実際にそれを実践に移せている企業は決して多くありません。従って「東日本大震災を忘れるな!」ということを、今後もIT部門の人たちが言い続けていかないと、震災の教訓を生かすことはできないと思います。

三木 BCPに対する取り組みが硬直化していた面もあったのではないでしょうか。つまり、大掛かりで小難しい方法論ばかりが先行したため、本格的なBCPの取り組みは体力のある大企業に限られていたように思います。従って、今後は中堅・中小企業にももっとBCP/DRを身近に感じてもらえるような取り組みも必要になってくるでしょうね。

三木泉
アイティメディア @IT担当編集長

鈴木氏 確かに、BCPは事業継続のための計画を立てる取り組みですから、IT部門内で閉じる話ではなく、全社レベルの大掛かりな話になります。業務の優先順位を定めて、リスクの影響度を分析して、そこから実際の施策にブレイクダウンしていくのがBCPの本来のあるべき姿です。

 では、IT部門はこうしたプロセスが全て完了するまで、ただ指をくわえて見ていればいいのかというと、そうではありません。できるところから、率先して手を付けていくべきです。まず第一にやるべきことは、アプリケーションごとに、現在どのようなバックアップ体制が採られているかを確認することです。そして、さまざまなリスクのシナリオごとに「既存のバックアップ/リストアの仕組みが、どのように作動して、どの程度アプリケーションと業務が守られるか」ということを一度きちんと整理して、共有しておくべきです。

 これは本来のBCPの手順とは異なり、ボトムアップの取り組みになりますが、今すぐ始めることができます。その結果、経営陣から「こんなリスクがあるのか?」という反応が返ってくればしめたものです。そうなれば、「会社や従業員を守るためには、こういう対策を講じる必要があります」と、経営陣に積極的に提案できるようになります。まずはできることから初めて、どんどん話を広げていけばいいわけです。特にIT部門の若い方たちには、こうした役割を期待したいですね。

三木 なるほど。ちなみに、今おっしゃられたようなボトムアップでのITインフラのBCP/DRを考える上では、昨今のサーバ統合やストレージ統合というトレンドの流れは有利に働きそうですね。仮想化技術によるサーバ統合が普及する以前にも、ストレージを統合してデータを一元管理することの重要性は叫ばれてきましたが、なかなかうまくいきませんでした。しかし、サーバ仮想化が普及するに伴い、ストレージを統合してデータのライフサイクル管理をシステマチックに行うことのメリットも広く認識されるようになりました。こうした取り組みを、BCP/DRと相乗効果を持たせた形で推進していける可能性はありますね。

鈴木氏 そうですね。実際に、「これまで縦割りで管理されていたITシステムを水平統合して、ニーズに応じたサービスレベルを提供していこう」という取り組みを、現在多くの企業が進めています。それと同時に進んでいるのが、物理リソースを論理的に統合することによる標準化の取り組みです。

 アプリケーションごとに、サーバやストレージがバラバラに存在する環境では、バックアップもそれぞれバラバラに行わざるを得ません。しかしサーバやストレージが集約されれば、バックアップも一元的に管理できますし、RPO/RTOを含めたサービスレベルも、各アプリケーションのニーズに応じて設定できるようになります。つまり、サーバやストレージを水平統合することによって、バックアップを極めて効率化できるわけです。

三木 さらに言えば、これまでバックアップに関するIT投資は、「各アプリケーションやシステムに付随する予算」としては確保しやすかったのですが、いわゆる「バックアップ統合」や「統合的なデータライフサイクル管理」という名目では予算を確保しにくい面がありました。しかし、BCP/DRにとって重要だということになれば、こうした状況は変わってくるかもしれませんね。

鈴木氏 そういう意味だと、現在は非常に重要なタイミングを迎えていると思います。今この機会を逃したら、いつまた実現のチャンスが訪れるか分かりません。その間にインシデントが発生して、ITシステムが止まってしまったら、経営にどれだけのインパクトが生じるのか。このことを、まさに今真剣に考える必要があると思います。これは単に会社を守るということだけではなく、社員の生活を守り、ひいては日本経済全体を守ることにもつながる取り組みです。決して、他人事ではないのです。

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